14 ep 隠神刑部の彼の本性
花火の少女の発言に全員が向く。直文に顔を向けて、依乃は口を開いた。
「……直文さん。そろそろ聞かせてください。昔の先輩と寺尾さんに何があったのか」
八一は当時を生きた人間ではないと断った。ならば、聞ける人間は啄木か直文しかいない。多く巻き込んだ上に、直文にとって大切な依乃からの願いを聞かないわけにはいかない。彼は茂吉の寝ているドアを一瞥したあと、二人に真剣な顔を向ける。
「そうだね。君達をここまで巻き込んでおいて、原因となる過去を話さないなんて帳尻が合わない。うん、話そう」
彼は頷く。八一が直文の分のコーヒーを用意し、テーブルに置く。依乃と奈央にもホットミルクのおかわりを用意してくれた。部屋がコーヒーのいい匂いが広まって行き、少女達の体が温まった頃に直文が話しだした。
「君たちは、茂吉から「とおるは俺が殺した」って言ってないか?」
「……言ってました」
依乃が答え、直文は切なげに語る。
「……それは、嘘だよ。
あいつがしたのは今で言う殺人未遂なんだ。昔のあの子は茂吉に斧で切られて記憶を消された。その死にかけた最中、人に助けられた。その後のとおるちゃんは人として生きて早く亡くなった」
思っていた真実と異なっていた。茂吉は昔の澄を殺したと二人は思っていた。直文が嘘を言うとは考えられない。奈央は驚き、言葉を漏らす。
「……じゃあ……なんで嘘を」
直文は呆れていた。
「……わざと嘘をついて、心証を悪くしようと仕向けたんだ。あえて心証を悪くして、茂吉はあの子を自ら遠ざけようとした。多分、今の澄ちゃんを助けた時も、嫌う事を言ったんじゃないかな。自分を嫌ってもらう為に、自分を遠ざける為にさ」
長年相方をしている直文だからわかるのだ。両手を握りしめ、彼は話す。
「君達はあいつに化かされるんだよ。誤解するように、誤解してほしいから化かしている」
するのではなく、してほしいのだと聞いて二人は衝撃を受けた。
茂吉を、奈央は調子に乗った可笑しくて怖い人物と思っている。依乃は怖くてふざけているようで仲間思いの人だと分かっている。だが、二人共茂吉について詳しくわかっていない。
直文は明るく破顔してみせた。
「普段から陽気な調子者のように振る舞っているけど、あれは本来のあいつじゃない。ポジティブな酔狂言な男じゃない。怖さばかりを振りまくような、愚か者じゃない。若干ネガティブではあるけど、冷静で面倒見が良くてお茶目な奴。けど、大切な人の為なら自分すらも厭わない。それが、寺尾茂吉だ」
少女二人の開いた口が塞がらない。
後輩である二人に対して心証を悪くさせたのは、澄を遠ざけるため。あえて悪く言ったのも、彼女に嫌われて近づかせないようにするため。賤機山で起きた出来事と、今までの話。思い出して依、乃は茂吉の目的を察して顔色を悪くしていく。
「……直文さん……寺尾さんは……まさか……そんなっ……」
彼女は口を両手で押さえる。直文は返事をせずに、物憂げに握りしめた両手を見つめる。
「……あいつの目的は自分の死だ。高島澄ちゃんの為に、茂吉は消えようとしている」
とんでもない目的を聞かされ、二人は今度こそ言葉が出なくなった。
組織の中には、自身を使い勝手の良い道具のように存在意義を見出している存在がいる。茂吉は自身を道具としてみるタイプだ。何も言わない二人に、直文は苦笑をした。
「だから、これから、今日の事が起きてしまった原因となる過去を話す。どうか、聞いてほしい」