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平成之半妖物語  作者: アワイン
3-2章 梅雨前線の発達
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12 おや、狸くん とってもお馬鹿だね

 静岡の賤機山しずはたやまの奥。正しくは高速高架道路の近くに町がある。奥には巴川の起点がある。田舎とは言い切れぬが、自然が程よくある町だ。

 依乃と奈央は直文に抱えられて、シェアハウスに連れてこられていた。

 かなり大きな洋風の建物。組織が経営するシェアハウスであり、中は意外にも整えられて綺麗である。男四人が暮らしていると聞いて、二人はある程度生活感があるかと思えば、新品と思うほどの清潔感。

 居心地悪くなく、いつでも客が来てもいいように整えられていた。依乃は直文から鍵を渡されて、適当にくつろいでも良いと言われた。その後すぐに変化して空へと飛んでいった。

 二人は傘を傘立てにさして、建物の中に入る。鍵をかけておいて、二人は客間用のスリッパに履き替える。依乃と奈央はリビングらしき場所のソファに座っていた。

 さぁと雨の音を聞きながら、二人は部屋の中を見回した。


「……凄く、清潔感が溢れる……」


 依乃に奈央は頷いた。


「……私の部屋よりも綺麗……。やばい、どうしよう……綺麗にしなきゃ……!」


 慌て始める奈央に、依乃は苦笑すると、玄関からカツっと音がした。

 少女たちは身構える。鍵はかけてあるはずだ。泥棒かと思ったが、泥棒ならば別の手口で侵入するはずだと考える。二人は恐る恐る玄関の方に行って覗いてみると。


「──八一さん!?」


 奈央が声を上げて、姿を見せた。玄関にいる八一は変化を解いた。奈央の姿が目に入ると、笑ってみせた。


「おっ、奈央か。ただいま」

「おかえりなさ……じゃなくて! なんで泥だらけの澄先輩を抱えてるの!?」


 奈央の言う通り、彼女の姿は泥だらけである。賤機山しずはたやまにあった出来事を話したいが、優先事項を述べる。八一は奈央に声をかける。


「話は、高島澄が泥だらけだから彼女を綺麗にしてからだ。有里さんもいるよな?

私が彼女をお風呂場まで運んでおく。二人は私の式神と共に彼女をキレイにしてくれ。何だったら、二人共ここで泊まっていけばいい。部屋と客用の布団はあるし、ホテルのようなアメニティぐらいの用意はしてある。あと、彼女の入浴後の運搬と着替えは式神がやる。私はこの子の私物をキレイにしておく」


 一気に八一の指示が来て、奈央は戸惑う。


「で、でも、着替えはないよ!?」


 彼女の不安げな表情に、八一はウインクをして笑う。


「大丈夫だよ。何かあったときの為に、必要経費でここに君達の分の着替えも用意してある。親御さんにも連絡を入れておくし、有里さんの方には直文が話を通しておく。君たち全ての個人情報を入手している旨は聞いているだろう? 個人情報を入手して巻き込んだ分の配慮はさせてもらうさ。奈央じょーさん」

「やだ。素敵……」

「そういう奈央のチョロさを矯正きょうせいしたいと思うときがある」


 彼らのやり取りを依乃は微笑ましく見つめた。



 八一が澄を風呂場に運んだあと、彼は風呂場をすぐに出て澄の私物を奇麗にしていった。

 お風呂が沸かされ、八一の人形の式神が近くで顕現けんげんする。依乃と奈央は先輩の着ている服諸共、全部脱衣場で脱ぐ。すぐにお風呂場に入って、式神と共に体を綺麗にしていく。

 脱衣場の上には、タオルと下着と服が置かれていた。澄の分はいつの間にか洗濯して、乾かして畳まれていた。近くに彼女の荷物もある。

 式神が澄を制服に着替えさせて運んでいく。二人は置かれている服に着替え、置いてあるドライヤーを借りて髪を乾かす。

 一息ついて、脱衣場を出てリビングに向かおうとしたとき、二人は直文が帰っていることに気付く。

 帰ってきていた彼に依乃は駆け寄る。


「直文さん! ……おかえりなさいっ」


 ほっとして目の前に来る彼女に、直文は表情を和らげた。


「ただいま、依乃。変化を解いてさっき帰ってきたばかりなんだ。……簡単に八一から話を聞いたよ。ごめんね。勝手にあいつが話を進めて。君のご両親には話をしておいたよ。お泊まりオーケーだけど失礼のないようにって、君のお母さんから伝言だよ」

「ありがとうございます」


 言われて依乃は頭を下げて感謝をするが、彼の抱えている動物に気付く。ふわふわとした生き物で目を閉じて、寝息を立てている。尻尾ももふもふとしており、肉球は梅の花のように愛らしいもの。犬ではないが、イヌ科である生き物。

 奈央は目を輝かせて、その動物を言い当てた。


「……もしかして、狸ですか!?」


 手を伸ばそうとする奈央に、直文は微笑んで答える。


「そう、茂吉だよ」


 双方の質問の意図に誤差があり、直文からの答えに二人は硬直した。

 狸が茂吉。隠神刑部いぬがみぎょうぶの半妖であるのは少女達は知っているが、愛らしい狸がイコール茂吉に結びつかないのだ。


「じゃあ、俺は今のうちに茂吉を清めてから部屋に置いておくから、二人はその間リビングにいる八一から状況を聞いてくれ」


 彼は何事もないかのように告げて、脱衣場に入っていった。脱衣場のドアが閉じられ、二人は向こうにいる狸をドア越しから見る。もふもふをしようとした行き場のない向日葵少女の手。その手に長い尾が巻き付き、奈央は驚くと変化した八一の腕の中に収まっていた。


「なぁおー。茂吉をもふもふしようとしたのかー? するなら、私の尻尾と耳にしておけ。今、疲れてるからな」

「なっ、や、八一さん!?」


 二本の尾を彼女の頬に押し当てて、もふもふとさせる。八一の狐の尾にもふもふとさせられ、奈央は満足気に堪能していた。突っ込む前に、依乃は先程の狸を茂吉と断定したことを聞く。


「あ、あの、稲内さん。先程の狸が寺尾さんというのは本当なのですか?」

「ああ、本当だ。力をだいぶ消耗すると、私達はあんな風に獣の姿になってしまう。力が幾分か戻れば、人の姿に戻る」


 奈央を解放して、八一は変化を解いて微笑む。


「……さて、二人も出てきたし……ホットミルクでも飲みながら話しましょうか」


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