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平成之半妖物語  作者: アワイン
3-2章 梅雨前線の発達
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8 狸くん狸くん 何がしたいの

 傘に雨が当たる音を聞きながら依乃と奈央は、高校の近くにある公園まで歩いて行く。

 二人は調子が悪いと理由をつけて部活を休んで学校を出た。勿論、嘘ではある。しかし、嘘をついて部活を休むよりも、自分の身を守りたかった。依乃は不安げに歩きながら、奈央は声をかける。


「は、はなびちゃん。大丈夫だよ……。大丈夫! 久田さんと八一さんが守ってくれるから」

「う、うん……そうだね……」


 戸惑う依乃は、上手くいくかどうかの不安も感じていた。彼女の霊媒体質で茂吉を誘き寄せる。正確には、茂吉に憑いている怪異を誘き寄せるのだ。

 彼女の体質は、遠くにいる怪異すらも寄り付ける程の強力なもの。お守りを外して直文に預けてある。依乃が囮になるのを直文は反対していた。彼女の茂吉と澄を思う説得で折れ、幾つか条件をつけて作戦を許可した。


「……でも、うまくいくかな……」

「作戦をうまく行かせる為に、八一さんと久田さんがいるんだから……きっと大丈夫だよ」


 二人は歩いて、公園に向かう。

 二人が向かう場所は元々大学があった公園だ。広いグラウンドがあり、スポーツを楽しめる。水の広場と花木園があり、人々の憩いの場となる。日本庭園もあり、心ゆくまで休める。近くには図書館があり、学習の場にもなっていた。

 公園の入り口について、二人は歩いて行く。

 普段は地域の人々がいるが、雨が降っているせいか、人はいない。丁度いい機会だ。二人は歩いて花時計のあるエリアへつく。


「おーい!」


 遠くから二人に声をかけて追いかけてくる人物がいた。二人が振り返ると、大きな傘をさして走りながら来ていた。


「よかった。いた……」

「直文さん……?」


 依乃は驚き、二人の前に来て彼は微笑む。


「よかった……無事だった」

「久田さん!? なんでここに……!?」


 驚く奈央に、彼は苦笑して二人に笑った。


「二人が心配になって……茂吉はまだ来てない?」

「……はい、まだ」


 恐る恐る依乃は返して、顔を見て顔を強張らせる。


「そっか、じゃあ、ちょうどいいな」


 直文が浮かべない歪んだ笑みを浮かべており、二人に手が伸びていく。気付いた奈央が傘を横に投げ飛ばした。彼の腕を掴んで怒鳴り声をあげる。


「っ! はなびちゃんに、何を、しようとしているんですかぁぁぁぁ──っ!」


 背負投げの要領で、勢いよく彼を花時計の方へと投げ飛ばした。傘があらぬ方向に吹っ飛び、木の葉となって消える。その彼は花時計の花壇に突っ込んだ。

 依乃はぽかんとする。

 奈央は花時計の前までゆく。起き上がろうとする彼に向かって、少女の浮かべぬ嘲笑ちょうしょうを浮かべて相手に人差し指を向ける。


「はっ、無様だな。八変化の狸であるお前が花壇に突っ込むとは、抱腹絶倒ほうふくぜっとうで腹筋崩壊しそうになるな。そんな無様なお前に拍手してやるよ。ひゅー、流石! 天下の大狸の半妖だ!」


 男の声を口から発して、パチパチと拍手を送る。起き上がり、彼は睨んで顔についた泥を拭う。


「……やいちっ……!」


 知っている声が名を呼び、顔を向ける。そこには奈央の姿はなく、雨に濡れた私服姿の稲内八一があった。彼は指を鳴らして、にこやかに笑った。


「せーかい。さっすがもっきー」

「やっぱり、寺尾さんだったのですね……!」


 依乃は後ろに下がる。化けた姿から仮面をしたヘアバンドの男となった。

 依乃を囮にするには危険が伴う。直文が出した条件は、化けた八一を護衛に置く。奈央の姿を借りて、八一は茂吉が来るのを待っていた。

 肝心の奈央が何をしているのか。八一のポケットから着信音が鳴る。彼はポケットからスマホを出した。画面には「奈央お嬢さん」と表示され、八一は通話を始めた。


「はぁい、もしもし、奈央。どうした?」

《もしもし!? 今、久田さんに図書館の屋上に居るんだけど、寺尾さんに取り憑いている怪異がわかったよ!》


 依乃は図書館の方に首を向けると、キラリと遠くで何かが光る。

 双眼鏡のガラスレンズ。傘をさした奈央は直文と共に図書館の屋上にいた。奈央は茂吉に取り憑いた怪異の特定をしている。普段は下調べをして挑むのだが、唐突に始まった故に調べる時間はない。しかし、奈央は神使狐の狐憑きとなり、いつくかの神通力を得ている。

 ゆっくりと八一達の方では見て調べる時間はない。

 故に、奈央に調べて貰った。奈央の得た目の力は幽霊だけが見えるだけではなく、取り憑いている怪異の姿を詳しく見ることができる。その一つの目の力を使用して、彼女は彼に伝達をした。


《寺尾さんにいているのは『おのたぬき』。久田さんに確認をしてもらったお墨付き報告だよ。八一さん!》

「サンキュ、奈央。じゃあ、私は」


 斧を手にした男が八一に襲いかかってくる。依乃は目を丸くし、奈央は息を呑む。八一は微動もせず、電話を続けている。

 ぎぃんっと硬い音が響いた。男は斧を強く握り、斧の刃を届かせようとしていた。

 かけのついた二つの鉄の棒が刃を押さえている。

 十手じってと言う武器だ。敵の攻撃を防ぐ役割もあり、打撃武器の一つでもある。八一を守ったのは、アッシュグレーの短い髪を後ろに束ねた男性。メガネをかけて、シンプルなスニーカーとサマーニットとジーパンなどのオシャレな姿をしている。

 彼は顔を上げて、深いため息をつく。


「……ったく、世話をかけさせる。お前といい八一といい、どうして平穏に事を済ませないんだよ!」


 言われて、八一は笑う。


「ありがとさん、たくぼっくん。……と、言うわけで啄木と一緒に捕縛に入るから安心してくれ」


 電話をしながら、奈央のいる図書館の方にウインクをする。ウインクをされたのを双眼鏡から見た奈央は顔を赤くして、ぷんすことと怒っていた。




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