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平成之半妖物語  作者: アワイン
3-2章 梅雨前線の発達
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5 狸を捕まえよ

 澄と別れたあと。

 奈央と八一と依乃の三人は私鉄近くにあるハンバーガー屋にいた。席は隅の方に座り、ポテトと飲み物を頼んだ。依乃と奈央はジュースを頼み、八一はアイスティーを頼んでいた。多めの量のポテトを頼んだ八一は、ポテトを一本手にして二人に話しかける。


「このあと、直文も合流するからゆっくりしてくれ。あっ、ここの料金は私の奢りだから気にしないで。奈央、君の両親から勉強を見るように頼まれてるから、これはご褒美の前払いな?」

「はぁい……」


 萎れたポテトを一本摘んで、奈央は食べる。スパルタ確定で落ち込んでいるのだ。依乃はジュースを一口飲んでから、八一に尋ねた。


「稲内さん。……私たちに声をかけたのは何かあったからですか?」

「そう、かなりヤバいから早めに声をかけた。それと、協力を仰ぎたくてね」


 八一は笑わず、真剣に話す。彼が真面目な様子から奈央は察して、だらしなくするのをやめて彼に聞く。


「八一さん。それは、本当に私たちが協力できる内容なの?」

「当然だ。奈央、むしろ、協力というか任務(こっち)の通達なんだ」


 八一はポケットから一枚の折り畳まれた紙を出して二人に見せる。

 見せられたものに奈央はきょとんとしており、その反応に八一は気付いた。


「あっ、そっか、奈央は初めてだよな。桜花の」

「うん、説明は受けたけど……本格なのは初めてだよ。はなびちゃん、危険なのはわかるけど、報酬はたーんと貰えるんだよね? 私も今後の貯金をしたいって話して、お父さんとお母さんに口座と通帳を作ったけど……どんな感じ?」


 期待を込めて聞かれているのだ。

 聞かれた依乃は遠い目をし、任務の時を思い出していた。

 依乃は親を説得して組織が関わっている銀行で口座と通帳を作った。振り込まれた額をしばらく放心したのは、依乃にとって記憶に新しい。

 彼女の初任務は、過去にタイムスリップをして奈央を連れ戻す。摩訶不思議体験を味わったとはいえ、危険なのは間違いない。年収は税金を支払う額を越えないように支払うと書類には書いてあった。凄まじい任務の後に支払われると、お小遣い稼ぎの感覚でいられない。

 依乃は将来大学に通う時の資金か、親の為に使おうかと考えている。

 親友の質問に彼女は悟った表情で話す。


「奈央ちゃん。普通のアルバイトじゃないから、そのお金は今後の為に大事にしたほうがいいよ」

「……はなびちゃん……すっごく悟り開いてるけど……いや私は金額のことを聞いたんだけど……」


 若干引いている奈央に八一は呆れた。


「あのな、お嬢さん。有里さんは正しいぞ。と言うか、仲間入りについて私からも説明したし書類も読んだのか? これからするの学生のアルバイトじゃないんだぞ。こっちで諸々保険の手続きしたとはいえ、死ぬとか大怪我を負うとかありえる。任務での報酬金を何に使うか、本気で考えたほうがいいぞ」

「えっ……あっ……」


 お金に目が眩んで忘れていたらしく、奈央は顔を赤くして恥じていた。眩む気持ちもわかるが、現実を見なくてはならない。八一は微笑したあと、紙を広げて二人に見せる。


「これ、内容。後で私が燃やしておくから」


 二人は内容を見た。


【緊急任務 直文、啄木、八一と協力し、茂吉を捕縛せよ。※注意 現在茂吉は半狂乱状態にあり、直文と八一から傍に離れることは現状推奨しない。また高島澄に近づく事も推奨しない】


 簡潔に書かれていた。すぐに見せて、彼は折りたたんでしまう。二人は茂吉から「澄に思い出させたら殺す」と宣言されたのを聞いた。その件もあり二人は動揺を隠せなせなかった。奈央は目を丸くして八一に尋ねる。


「……っ八一さん。これ、どういう事……!?」

「前、ニュースになってるだろう? これ」


 聞かれてスマホを出して、彼はそのニュースの内容を見せた。前にテレビやネットのニュースで話題になっていた。山の中でバラバラになった遺体が見つかった事件だ。

 残酷な事件のネット記事を見て、奈央は息を呑む。


「これって……今朝事件になってた……! まさか……」


 先程の任務の内容と合わせて嫌な予想をした。依乃も同じ予想をし、背筋に悪寒を感じて震える。茂吉がやったのだ。八一は二人に聞き出した。


「二人とも、私達組織の弱点は知っているな?」

「……血。人の……ですよね」


 依乃は小声で話し、八一は頷く。


「そうだ。人の姿で居るなら多少は耐性はあるけど変化した場合、そのまま浴びると暴走。悪神系や不浄を司る系は血は大丈夫だけど神獣系はアウトだ。つまり、直文と啄木、私と茂吉。私達は駄目だな」

「……待って。八一さん。人の姿なら多少は大丈夫って言うけど……それを浴び続けるとどうなるの……!?」


 焦った奈央に、八一はポテト長い一本手にして両端を掴む。


「血を浴び続けると、保っていた理性は次第に薄くなって薄くなって」


 両端でつまんだポテトがパックリと二つに別れ、八一は二人に見せつける。


「このポテトのように理性が折れて失う。……この表現は優しいけどな。聖水っていう浄化の水をぶっかけて汚れを落とせば大丈夫だけど」

「……寺尾さんにかかるかどうかが、問題なんでしょう。八一さん」


 奈央の指摘に八一は厄介そうに頷く。


「そう、しかも、厄介なことに血を浴び続けてたせいか、茂吉は怪異に取り憑かれてる」


 かなり厄介な状況に二人は言葉を失い、店のドアが開く。

 店員が「いらっしゃいませ」と声が上がった。奈央と依乃は人の血の弱点であると知っている。彼らは暗殺する術にも長けており、血の出ない殺し方も知っているはずだ。茂吉は用意周到の印象がある。あえて血を浴びている可能性を強く感じて、依乃は二人に話した。


「寺尾さん。もしかして、あえて血を浴びてるとか……」

「えっ、そんなのありえるの……!?」


 奈央が驚く。足音が近付く三人に彼は声をかけた。


「ありえる。今のあいつならやる可能性はあるよ」


 三人が顔を向けると、私服姿の直文がやってきて八一の隣に座る。依乃は優しく声をかける。


「直文さん。お疲れ様です。今日もありがとうございました」

「こちらこそ、君もお疲れ様。頑張ったね、依乃」


 優しく声をかけられて、彼女は肩をすくめる。互いにお熱い様子に八一はからかった。


「お熱いことだな。直文」

「ありがとう。それを言うってことは、俺たちが仲がいいのを褒めてるんだろう? なら、田中ちゃんと八一もお熱いな」

「にこやかに言うな! 妙な所で天然カウンターしてくるな!」


 顔を赤くして照れる八一に、直文は頭にはてなを浮かべて首を横に傾げる。ちなみに八一のからかいと直文のカウンターは花火の少女にはだいぶ効いていた。依乃は顔を赤くしてぷるぷると震えていた。奈央も照れが伝染し、顔を赤くなっている。花火の少女が直文の天然に振り回されている様に、二人は優しく見守るしかなかった。


「……それよりも直文。あいつがやる可能性ってもしかして、か?」



 気を取り直して八一が聞き、直文は頷く。


「当然、高島澄ちゃんが関わる。隠神刑部いぬがみぎょうぶの八百八の眷属けんぞくの一人……茂吉の親類の一人が彼女の存在を知っていた。組織の存在は高位の狸しか知らない。外から存在が漏れている」 


 話を聞いて、依乃は渋い顔をした。


「……また外的要因ですね。確か寺尾さんが探る役目なのですよね。直文さん」

「そうだよ。あいつがああしてるってことは、敵が俺達が近付いているのがわかっているからだ。……多分、あいつは身を挺して尻尾を出るのを待ちつつ、彼女を守りながら自分の目的を果たそうとしている」


 運ばれてきた水を直文は一口のみ、カランと揺れる氷を見つめた。


「血に汚れているからか判断能力も落ちて、君たち二人も殲滅対象になりうる。狂っているから、変な思考回路におちいることがある」



 とんでもない聞かされて、少女達は口をあんぐりと開ける。奈央は呆然とし、依乃は息を呑んだ。奈央は茂吉をあまりいいように思ってないが、依乃は茂吉が暖かな人物であるも知っている。

直文(あいつ)をよろしく頼むよ】と。かつて送られた言葉は寺尾茂吉という人物の根底を表しているように感じ、依乃は三人に声をかけた。


「あの……寺尾さんは怪異に取り憑かれているのですよね?」


 三人は花火の少女に向く。彼女は真面目な顔で提案をする。


「なら、一つ。思い浮かんだ作戦があるのですが……」


 彼女の話し出した作戦に八一と奈央は目を見張り、直文は険しい顔をしていた。



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