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平成之半妖物語  作者: アワイン
3-2章 梅雨前線の発達
131/196

移り気を引き起こさない一途な狸

 潮の香りが僅かに感じる。

 空は青く白い雲が海に向かって流れていく。茂吉は海と繋がった湖の近くにあるガーデンパークにいた。

 静岡県浜松市にある浜名湖の浜松ガーデンパーク。国際園芸博覧会というイベントが行われ、浜名湖花博という愛称で呼ばれていた。現在は花博の跡地として残り、それぞれの四季に合わせて色とりどりの花を展覧している。

 入場は無料であり、一般の人々にも楽しめる。また園内にはいつくかの施設があり、彼は紫陽花の種があるエリアに来ていた。ちらほら咲いているが、まだ咲くのは少し早い。色んな色の紫陽花を彼は間近で鑑賞していた。

 紫陽花を見て彼は花言葉を思い出す。

 花の一つに色々な言葉があり、色や種類によって異なる。

 青色の紫陽花の花言葉は、冷淡、無情。

 白い紫陽花の花言葉は寛容。ピンク色の紫陽花の花言葉は元気な女性、強い愛情、移り気、浮気、変節、和気あいあい、家族、団欒。

 良くない意味もあれば、良い意味もある。


「って、女々しいな」


 苦笑をしていると、五、六人ほど近くに人が近づいてくる。男女混合で年齢もバラバラではあるが、平均すると五十代ぐらいだろう。その中の一人から声がかかった。


「あら、お兄さん。一人なんて珍しいわね。貴方も花を見に?」


 雰囲気からして最年長だ。若い男が花を見に来るのも珍しいだろう。実年齢は三桁なんだよなと思いつつ、茂吉は笑顔を浮かべた。


「──ええ、はい。こう見えて、紫陽花。好きなんですよ」


 優しげに話すと、おばさんは嬉しそうだ。


「そうなのねぇ。実は私達このガーデンパークのボランティアをしていて、様子を見に来たの。前、紫陽花の余分な枝を選定したのよ。今日、綺麗に咲いてよかったわ」

「……あっ、もしかして、ガーデンパークフレンズですか?」 


 浜名湖ガーデンパークのボランティアは、ガーデンパークフレンズと名付けられている。彼は花博で働いていたボランティアが、ガーデンパークのボランティアとして働く話を聞いたことがある。

 聞かれていたおばさんはまた嬉しそうに声を上げた。


「正解! 若いのによく知ってるわね~。私達、花博のボランティアをしていたの。今はガーデンパークのボランティアをしているのよ。……お時間があるならパーク内を案内しましょうか?」


 気分が良かったのだろう。折角のご厚意だが、彼は申し訳なさそうに笑った。


「すみません。実はこのガーデンパークに何度も来ているので知っています。せっかくの申し出なのに……申し訳ありません」


 軽く頭を下げると、おばさんははっとして慌て始めた。


「あらあら、そうなの。お節介だったわね。ごめんなさいっ……!」

「いえ、またの機会に案内してくださると嬉しいです。では、また」


 おばさん達から離れていき、彼は紫陽花の咲いているエリアから去る。平日であるため、小さな子連れの親子か、老夫婦ぐらいしかやってこないだろう。


 晴れた空に白い穏やかな雲。少し暑さを感じる日差し。


 平和ではあるが、茂吉の懸念事項が終わったわけではない。いい気分転換になったと考えたとき、ポケットから軽やかな音楽が流れる。ポケットからスマホを取り出す。着信画面に名は『直文』と載っていた。

 息をついて画面をスワイプさせて、耳にスマホを当てる。


「はぁーい、しもしも、貴方のもっくんでーす☆」

《はいはい、もしもし。茂吉。お前、明後日用事はあるか?》


 用事という用事は入れてはいない。茂吉はスケジュールを思い浮かべつつ話す。


「んー、個人的な所用はあるけど、それは大したことないよ?」

《じゃあ、空いているな。どうだ? 明後日、文化祭で演劇部の演劇が行われる。席は取ってあるから、行くかどうかはもっくん次第になるけど、どうする?》


 演劇部。そこに誰が所属しているのか、茂吉は知っている。わざと誘っていると理解した。直文も分かって、連絡してきている。元より様子を伺うつもりであり、良い機会だ。

 茂吉はスマホに向かって、イエスと答えを出した。


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