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平成之半妖物語  作者: アワイン
1-1章 平成之半妖物語開幕
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9 無関係ではない彼女

 茂吉と名乗った彼は親指を立てて明るく笑う。


「というわけで、俺がなおくんの仲間です。よろしくね、はなびちゃん!」

「あっ、はい、よろしくおねが……ええっ!?」


 友達と直文しか呼ばないあだ名に彼女は驚声を上げた。どこで知ったのか、なぜ知っているのか。怪しさ全開に、■■は直文の後ろに隠れる。茂吉は不思議そうに首を横に傾げた。


「あれれ、なおくん。ちゃーんと俺達の事、話したの?」

「……他者の情報開示には制限がある。もっくん。協力者ならなおのこと、明かさない方がいい」


 直文は不機嫌そうに話す。二人の会話から知らぬ情報が出て■■はびっくりする。茂吉は深い溜め息を吐いて、相方に近付く。


「はぁ~、あのさ、直文。彼女は保護対象だろう? 協力者って言う立場ほどの外側の人間じゃなくて、今回の件の渦中に近い。上司からも話していいって許可を貰ったでしょ」


 指摘に直文は眉間に皺を寄せた。諸事情があって話せないと言うが、直文個人の気持ちで話したくなかったようだ。茂吉は肩に手を置いて真剣に告げる。


「此方側に深入りさせたくない気持ちはわかる。けど、もう巻き込まれている。話すの話さないもお前の自由だけど、どちらが彼女の為になるか考えろよ。ほら!」


 肩から手を離して、彼は直文の背中を思いっきり叩く。

 直文はよろけて■■の目の前に来ると、気まずそうに視線を横に逸らす。少女は黙って直文を見つめる。やがて直文は咳払いをして、真っ直ぐと彼女の瞳を見据えた。


「……はぐらかしていて、ごめん。君にとって、俺達のことを話していいものかどうかもわからなくて黙ってた」


 直文の瞳が若干潤んでいる。本当に話したくなかったようだ。深呼吸をして、彼は真剣な顔で話す。


「……君は勘づいているだろうから、少しだけ打ち明けるよ。俺達は半分人であり、人でない。『半妖』と呼ばれる生き物だ。俺達は半妖で構成されている組織に属している」


 打ち明けられた真実に彼女は目を丸くした。半妖。漫画やアニメ、小説の中の存在かと彼女は思っていた。だが、その所作はあった。瞬きをするうちに直文が消えて、容易に陰陽術を使える。この時点で彼女は人でないのは薄々感づいており、確信に変わった。


「黙っていてごめんね」


 謝る直文を彼女自身は責めるつもりはない。半妖と言う存在は同じ絵空事であり、信じるのは難しい。同じ絵空事を抱えている彼女はすんなりと受け入れられた。■■は彼の言葉を嘘だと思っていない。ない。


「気にしないでください。それに、直文さんが話したくないと思ったことは話さなくていいです。話せる時が来たら、話してください」


 優しく笑って見せると彼は驚く。無理に話さなくていいと少女は尊重してくれた。少女の気遣いに感謝を覚え、直文は口元を緩めた。


「ありがとう。はなびちゃん」


 温もりを感じる笑いに、彼女は頬を赤くして照れて笑う。

 茂吉は彼女を見透かして怪しく笑った。二人の間に良い空気が流れると、その間ににまにまとする茂吉が入る。


「おーい、良い雰囲気のところ悪いけど、そろそろこの柘植矢さん達を本部に持ち帰りたいんだー。いってもいいよね?」


 彼女は我に返って、恥ずかしくなる。不安げに直文は顔を向け、茂吉は仕方なく笑う。


「まあ、ギリギリ及第点かな。なおくん」


 ある程度茂吉が許してくれることに直文は黙ってガッツポーズを作る。だが、少女が我に返って声をあげた。


「ま、待ってください。その大きな風呂敷にいる柘植矢さんは生成。未成熟ってことですよね? 人に戻れる可能性はあるのですか?」

「あったとしても、今回はその気はないよ。だって、今の目的は柘植矢さんを生け捕りすることだもん」


 軽く茂吉は答え、■■は目を見開く。彼が抱えているのは、新田に居た柘植矢さんなのだろう。冷静に直文は教える。


「戻れたとしても、自我のない廃人として元に戻るだけだ。なった時点でもう同一化してるから、自我は崩壊した。ならば、骨を納めた骨壷として親の元に返した方がいい」


 予想できなかった答えに、少女は言葉を失う。

 戻っても廃人としても戻る。廃人となった彼らを世話をするのは、覚悟と労力と金銭的な問題があるのだ。行方不明になっていた人が廃人として帰ってきた場合、騒ぎになるのは目に見えている。

 直文の言う方法が、問題が少なくない。合理的ではあるが、ある意味倫理的ではない。直文は風呂敷を見つめて、静かに言い放つ。


「柘植矢さんとなった彼らは俺達の仲間の一人に喰われて糧となる。人として残っている骨はできるだけ遺族に届けるつもりだ」


 柘植矢さんを食う。理解できない話に彼女は冷や汗をかいた。 


「理解できないって顔だね? ふふっ、実はね。今回の一件の被害者を俺達は救うつもりなんてないんだ♪

被害者は出さないけど、出たら仕方ないねって感じ。でたら、俺たちで納骨デリバリー!

普通の人間が怪異に遭遇するのは、交通事故に当たるようなもの。確率は宝くじよりも低いけど天文学的確率より低くない。だから、彼らは運が悪かったのさ。それに創作が元になった怪異ってたけのこのように、にょきにょき出てくるから俺たちにとっては好都合。何せ、俺達の仲間の一人の先生が飢餓猛獣でなんで食べちゃう半妖だから、見かけたら捕まえて腹を満たすように依頼されているんだ!

捕まえて臨時収入でガッポガッポ。だから、ウィーンウィーン何だよね☆」


 ふざけて話している。■■は倫理観がどこかずれているように見えた。生成している人を救えないから、仲間に食わせて救う。骨壺に納めて帰す。しかも、ビジネスであり、怪異を野放しにしているという意味だ。

 茂吉は明るく笑って少女に話す。


「まあ、今ある命は死ぬけど、魂は三途へと絶対に向かう。その点においては救われるから気にしなくていいと思うよ」


 それが救いなのかと反論を■■はできなかった。

 行方不明になった小学生はともかく、彼女には虐めっ子が救われるという点において、しこりがあるからだ。死んで地獄に行けばいいのにと思ったことがある故に、中途半端に何も言えない。

 直文は考えるように風呂敷を見つめて茂吉に話す。


「茂吉、創作の怪談が誕生する条件を知っているよな」

「ああ、ものによっては生まれ方は色々あるけど、多くは残留思念と生きている人の思いから生まれるね。最悪なのは、悪霊や怨霊がハンバーグのように練られてできたもの。気持ち悪いの塊だからねぇ~。ああいう生成の仕方は珍しいね。それに、柘植矢さんの創作怪談自体はそう簡単に誕生できるもんじゃない」


 明るく話すが、茂吉は言葉を途切れさせる。笑みを消して目を丸くして、直文に首を向けた。


「直文。もしかして、柘植矢さんは故意に生み出されたのか?」


 彼の問いに頷いて、直文は■■を見る。


「彼女は柘植矢さんに追われる最中に小さなボロいお社を見たと言う。これが無関係とは思えない」


 茂吉は彼女を見つめる。彼から見つめられて、少女は身を縮めた。


「小さなお社。それって、この子の名前が失った要因になったもの?」

「え」


 驚く彼女の反応に、茂吉は指を鳴らして笑う。


「ビンゴ。これ、無関係じゃないね。ええっと」


 茂吉はポケットから小さなメモ帳を取り出す。彼女に渡して「開いてみてみなよ」と言った。一ページ目を彼女はメモ帳を開いた。

 彼女は言葉をつまらせる。メモ帳に書かれているのは多くの名前。しかも、黒く塗りつぶされ、霞がかったような彼女と同じ状態の名前だ。■■■■。■■■■。どれを見ても読めない名前だ。しかし、名前だと認識できる。わからないのに、湯気のように掴めないもの。彼女はメモ帳に書かれた名前を読む。


「■■■■。■■■■……嘘、なんで!?」


 発音してもわからない。茂吉は塗りつぶされた名前を指差す。


「それは、ここ五年間に名前を奪われ、その後に失踪した人々の名前。どれも共通しているのが、小さなボロい社にお参りをしている。名付けるなら、名取りの社かな?」


 話を聞いて、彼女は驚愕する。見ての通り、五年前から同じように名前を奪われた人がいたようだ。だが、彼らは失踪しており、■■は無事だ。彼女は自分が失踪していないことを不思議に思っていた。直文は難しい顔をして腕を組む。


「……妖怪山操(さんそう)ではない。山の妖怪のように返事をするわけでもない。名前を教えたわけでもないのに、参るだけでそれを奪うことが出来る。都市伝説ではない。むしろ、これからなろうとしている可能性もかもな。茂吉」

「そうだね。正体はともかく、これだけ神隠しされているともう俺達の案件だ」


 二人は真剣に話し、茂吉は彼女に声をかける。


「と、言うわけではなびちゃん。俺は本部に向かうよ。そこの直文からこの件の全容を聞けば、わかると思う。ではドロン!」


 言葉と共に印を切ると、ぼふんと擬音が出るほどの煙が出る。煙が消え、小さな青い葉っぱ一枚だけが落ちる。二つの風呂敷と茂吉の姿は消えていた。

 アニメや映画のように煙を巻いて消える演出に、少女は驚きながらも目を輝かせる。直文は葉っぱを拾い上げて、「本当、もっくんは」と苦笑した。

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