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平成之半妖物語  作者: アワイン
1-1章 平成之半妖物語開幕
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8 酔狂言なお調子者の登場

 直文は笑みを消し、片手を素早く降り動かす。

 いくつもの光が闇を走り、何体かの柘植矢さんに刺さっていく。相手は避けたり、弾いたりするが、数が多く防ぎきれない。その度濁った声が響く。直文はもう片方の手にある(ひょう)を放った。柘植矢さんは避けようと体を動かすが、(ひょう)の刃に当たって傷口ができる。手品の如く、直文は追加の(ひょう)を両手に用意した。

 投げ飛ばして追加。また投げ飛ばして追加。柘植矢さんに容赦なく攻撃を仕掛けている。柘植矢さんに人の武器が効いているのだ。彼女は直文の背中を見て疑問を吐く。


「……直文さんは陰陽師のような人なんだよね。何でそう簡単に怪異になりかけた人に攻撃ができるの?」


 普通の人は怪異になりかけた相手を攻撃できないはずだ。直文は(ひょう)を追加しながら、彼女に顔を向けて言い難そうに笑う。


「教えられるのは一つ。俺にとって、あれは君を傷つける化け物だから」


 一瞬の隙を見せた。六体の一体が急速に近づいていく。柘植矢さんは直文に突撃しようとしたのだろう。彼は見ないで片手にある全て(ひょう)を、その柘植矢さんに投げ刺した。柘植矢さんは濁った声をあげ、動きを止める。

 直文は六体に向き直ると真顔になった。


「かといって、油断するつもりはない。容赦もしない」


 ■■は直文の感情が読み取れない。今の彼の表情は能面のように無表情であった。

 何もない宙から彼は、(ひょう)を一枚を出す。六体は怯み、柘植矢さんとした足で遠くへ逃げようとする。一つのグループで逃げ始める柘植矢さんを見つめて、直文は興味深く見つめた。


「成る程、分散して逃げないあたり、個々の自我はなくなったのか。柘植矢さんは創作が元。つまり、個々が同一体であり、意思も一つ。だが、恐怖を覚えて逃走した、生存本能が残っている……生成か」


 淡々と分析をしたのち、彼の手から(ひょう)が消える。代わりに数枚の鳥の形をした紙が出た。


「顕現。柘植矢さんを逃がすな。押し止めておけ」


 それを空へと投げ飛ばす。見たこともない鳥に変化する。直文の命令通り、数匹の鳥が柘植矢さんが逃げていった方向へと、空を駆けていく。直文はしゃがんで心配そうに彼女に手を差しのべる。


「大丈夫かい?」

「えっ、あっ、はい……」


 直文の手を取る。彼の手は冷たくて、彼女は自分の体が熱くなっているのだと理解した。柘植矢さんと追いかけっこをしている間、彼が何をしていたのかはわからない。彼女は直文が人でないように思えて、顔を見られずにいた。

 直文の手を借りて立ち上がる。彼女の頬にひんやりとした冷たいものを当てられた。


「ひゃあっ!?」


 びっくりして顔を上げた。直文は申し訳なさそうに結露のついたペットボトルを離す。


「あっ、ごめん……。茂吉がこれをやると笑顔になるよって教えてくれたんだけど、本当にごめん。タイミングを間違えた」

「い、いえ……」


 ペットボトルを見るとスポーツドリンクだった。いつの間に用意していたのだろう。近くに保冷バッグはない。「はい」と直文からスポーツドリンクを渡されて、彼女は何気なく見る。

 彼女の頭にタオルがかかった。ふわふわとした吸水性の良さそうなタオルで、少女は再び驚く。顔を見ると、柔らかく笑っていた。


「ここ最近の夏は暑いからね。タオルとスポーツドリンクをあげるね」

「あ、ありがとうございますっ」


 気遣いに驚きつつ感謝をする。直文の微笑みは人らしい暖かみがある。彼女に向けられる感情は真のものだ。■■の抱いた僅かな恐怖は拭われ、肩の力が抜けた。彼は首を横に振り、眉を八の字にして落ち込む。


「むしろ、謝罪をしたいぐらいだ。この件に裏があるのを確認しようと、危ない目にわざと遭わせた。本当にごめんね」


 謝られて彼女は夕方の言葉で気付いた。


「あっ……詫びと礼って」


 彼は笑って「そういうこと」と首を縦に振る。最初から確認の為に、彼女を泳がせたようだ。だから、詫びと礼は必ずさせてくれと言ったのだ。柘植矢さんの消えた道を見て直文は口を開く。


「新田の奥にいるあれはしばらくあのままだから、放って置いていて良いよ。あとで仲間が回収する。俺達は逃げていった奴らを追おう。君は俺の後ろについて来て」

「は、はい!」

「……ああ、ごめん。走れそう?」

「問題ありません!」


 元気よく答える彼女に、直文は頭を軽く撫でられる。少女は頭をさわって彼の顔を見ると、労りの表情であった。


「無理だけはしないように。追えなくなったらゆっくりとくるんだ」


 体調を見抜いて言っている。■■は申し訳なくなって頷いた。

 彼女が水分を取り、息を整える。直文は一息置いて、走り出した。速さは普通の人よりも早く、■■は慌てて追いかけた。彼の背中が見える。その遠くに六体の柘植矢さんがおり、一束になっていた。柘植矢さんの周囲に、直文の式神が追い詰めている。


「散」


 一つの言葉と共に、鳥が空へと舞う。直文は手から何個かの(ひょう)を出す。柘植矢さんは直文が追いかけてきたのを見て、一斉に逃げ出す。

 逃げる柘植矢さん追う直文。彼は生かさず殺さずの程度で、柘植矢さんに(ひょう)を投げ続け攻撃を仕掛けていた。彼女は直文を遠くから追う。直文の姿は、テレビで見た草食動物を追う肉食動物の姿を想起させる。

 直文は六体の柘植矢さんは生成と言っていた。生成とは未成熟の状態を指す。どこか人の部分が残っているはずだと彼女は考える。

 柘植矢さんを追っている内に、公園が見えてきた。集団が公園へと入ろうとする。直文は柘植矢さんを公園へと追い詰めた。

 寄り道さえしなければ、公園からの距離は近い。公園との距離が近くなり、少女は直文の追い詰める姿を見る。公園は砂利が多く、遊具の数が少ない。柘植矢さん達が公園へ入り、中央へと向かった。

 瞬間、砂場の下から大きな布が現れる。砂を落としながら、黒い布が柘植矢さんを包み込んでいく。

 端が結ばれ、柘植矢さんは風呂敷から出れなくなった。

 少女は公園に入ると、公園の真ん中にある大きな風呂敷に■■は驚いた。


「……ええっ!? これっ……!?」

「柘植矢さん捕獲専用網。生成でまだ肉体があったから、簡単に捕まえられた」


 直文が優しく説明をしている最中。


「寿限無寿限無牛蒡のすりきれ、いやいや牛蒡じゃない。けど、ポンポコピーのポンポコナーのってあるから狸関係ある?

いやいや、ないよ。俺、何いっているのかな。落語をバカにするなって話だね。けど、創作怪談の怪異を利用するなんてヒドイッ! 俺、怪談好きなのに!」


 辺りに調子のいい声が響いた。ふざけた明るい口上。彼女は驚き、周囲を見る。人らしき人は地面にはいない。直文は呆れた。

 まだ続く。


「話は変わるけど、長生きなのは良いことだよね! けれどけれど人は諸行無常盛者必衰。俺たちはある意味永久不滅人生平々凡々。見た目は若作り、年齢はひ・み・つ♪

俺は直文こと、なおくんの友達兼相方! 幼少期寺生まれ寺育ちのせいで、寺生まれのTさんと愛称をつけられた男! 破ぁ! ……なぁんちゃって♪」


 木から勢いよく何かが現れ、静かに地面へと着地する。肩甲骨まである濃い茶色の長い髪をハーフアップにまとめて、ヘアバンドをしている。ジーパンとサンダルにTシャツの身軽な格好で、二人の前に現れる。顔を上げると、年は相応であるが大きな目に可愛い笑顔が似合う童顔のような顔立ち。

 だが、見た目は直文と同じくらいの歳だろう。


「自称酔狂言な男。寺尾茂吉参上!」


 片目ウインクをして無邪気に笑い、モゾモゾ動いている少し大きな風呂敷を片手で持っている。木から現れて、バランスを崩さずに着地。謎の口上をあげて自己紹介。彼女はポカンとしていると、直文は呆れていた。

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