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平成之半妖物語  作者: アワイン
2 番外
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ex そして、彼らは取り逃がし「あのクソ上司」と怒り叫ぶ

 ある日の休日の昼。直文と依乃、八一と奈央はあるチェーン店のカフェで勉強をしている。休んでいた奈央の復習も兼ねており、依乃は予習をしている。

 直文と八一は勉強を教えていた。イケメンの美男子がいるとやはり目立つ。目線の集中砲火に二人の少女は巻き込まれて緊張する。

 ご飯と飲み物が運ばれてくると、区切りをつけて休憩。二人は運ばれてくるご飯を食べていくが、依乃は友人の首にかかっているものを見た。同じ勾玉のネックレス。奈央から外す方法を尋ねられた機会もあるが、彼女自身も知らない。

 一息ついている今なら聞けると依乃は直文を呼ぶ。


「……直文さん」

「どうしたんだい。依乃」


 優しく聞いてくる直文だが、これが地獄の始まりだとは知らない。


「この勾玉を外す条件とは何ですか?」


 この質問に、本命童貞年齢四百数年(久田直文)転生人間童貞二十五年(稲内八一)が硬直した。いや二人共、正しくは本命童貞である。

 ちなみに本命童貞とは。本気で好きな本命の相手に対し、どう振る舞っていいかわからなくなることを指す。態度や対応がまるで童貞のようにぎこちなくなってしまうこと。

 彼らは性経験は豊富ではあるが、本命にはどう対応すればいいのか手探り中。

 直文は依乃の接し方に対し、先輩や同僚などに相談をよくしている(相談して返ってくる答えはだいたい『そのままの君でいて』)。

 八一はいじめたり甘やかしたりして、手慣れているように見えて実は必死である(奈央のチョロさ故に、目移りされるのが嫌だからからかっている。外堀も埋めている。実は必死である)。


 後々、該当する野郎共が現れるがそれは後々。友人の質問に奈央も声を上げる。


「あっ、それ、私も気になる! 八一さんったら聞いても教えてくれないんだもん!」

「あははっ、だから、なおじょーさんが成人したら教えてやるって言ってるだろー?」


 八一はにこやかに笑うが、内心は滅茶苦茶動揺していた。直文も表情が出ずに無表情。しかし、額にはびっしりと汗が滲み出てきていた。

 あのクソ上司と怒りつつも、二人はこの場をどうかわそうか考えている。

 勾玉のネックレス。魂からリンクして力を与えたり、分け与えたりとかなり便利。しかし、デメリットは条件を満たさないと一生外れない。外れないというが、相性が悪いとネックレスは普通のネックレス、良ければ外れなくなる。つまり、相性が良ければ外れないのだ。なんだこれ。

 狐は拳を強く握る。


【……やっぱり、あのクソ上司……粒子分解するまで殺ればよかったか……!?】

【落ち着け。八一。やったことあるが、あの人。そこまでしても死ななかったぞ】

【あるのかよ。直文。けど、そこまでして死なないって……】

【あの人の役職上、簡単に殺すことはできないからな……】


 普通の人にはわからぬ方法で直文と八一は話す。話は物騒だが、上司に関して苦労している。いい上司ではあるがクソ上司である。直文はコーヒーを一口のみ、八一に話す。


【どうする、八一。流石に外す方法について話すのがまだ早い】

【外す方法があまりにもあれすぎるから、今は別の話題で誤魔化そうか】


 意見は一致した。話題をそらそうと、八一は話しかける。


「そういえば、奈央。夏祭りの踊りは参加するのか? 前みたいに踊るんだったら、私も付き合うけど」

「陸上部の大会と練習があるから無理なんだ。あっ、でも、お祭りには行くよ!」


 高校入学後、部活の練習が多くある。また多くの勉強をしなくては追いつかない学校である。部活の疲れもあり、奈央は悲鳴を上げながら勉強をしている。

 八一はそうかと微笑むが、依乃が困ったように二人に声をかける。


「あの、明らかに話題をそらさないでください。これを外す方法……教えていただけると本当に嬉しいです。慣れればいいんですけど、着替えるときとか人の目に付きやすいというか……」


 確かに勾玉のアクセサリーをつけるのは目立つ。明らかな話題逸らしは効かないらしく、直文は頬を赤く染めながら困っている。


「日常生活に支障をきたしていないなら、大丈夫だけど……外す条件はおいおいわかるというか……。君達はつけていたほうがいいというのは本当だよ」


 目を泳がせて真っ赤な顔で困る彼に、依乃はじっと見つめる。彼が言えないほどのものなのか。依乃が考えているうちに、ある可能性に行き着き顔を赤くする。


「もしかして……キス……をしないと外れない……とか……?」


 花火の少女が純でよかったが、直文は照れだす。


「えっ、ええっと……まあ……その……ね」


 困る彼を見て、八一は助け舟を出す。


「──実はこれ。真実の愛を証明しないと外れないんだ」


 表面は飄々とした笑みを取り繕いつつも、内心は激しく動揺している。何処ぞの童話かファンシーな映画アニメの設定に、二人の少女は拍子抜けする。

 直文は八一の助け舟に驚き、普通の人にはわからぬように話す。


【八一。お前それ………】

【嘘でもないし真実でもない。この場違いな場所で本当の条件を言ったらとんでもないし、その条件すらもとんでもないだろ!】


 間違いない正論に直文は複雑そうな顔をする。八一は厄介そうに頭をかき、ネックレスを見た。


「要は、強制相思相愛装置のようなものだ。私も直文も外すように頼んだけど、制作したあの人すらも外れない不良品だよ」

「……八一さん。何度も話を聞いても、二人の上司がとんでもない人だっていうのがわかるよ」


 奈央に依乃は何度も頷く。

 半妖の彼らには外そうとすると、バラエティのように電流が流れる仕様。愉快に聞こえて、ドチャクソとんでもない代物である。依乃はネックレスを見て、恥ずかしそうに肩をすくめる。


「けど、真実の愛の証明って……聞くと照れますね……」


 照れた依乃の言葉を聞いて、直文も口を押さえる。照れた彼女から聞く言葉の衝撃が大きかったらしい。

 告白、お付き合い、デート、プロポーズ、結婚、ハネムーン、諸々を想像した。熱を発するように顔を赤くする。首を横に振り、赤い顔のまま直文は気まずそうだ。赤い顔の直文に、八一はにまにまとしながら聞く。


「おや、なおくん。何を想像したのかなぁ?」

「……聞くなよ」


 照れている直文とニマニマしている八一の後ろを通る男性がいた。帽子とサングラスをしており、イケオジがするような紳士な姿をしている。また、手にはテイクアウトの飲み物。もりもりと多くのカスタムしたものをストローで吸っている。

 その相手は足を止めて、八一と直文に声をかけた。


「真実の愛の証明、待ってるぞ。その時は必ず式場に呼んでくれ☆ 直文、八一♪」


 サムズアップされ、ヘリウムの軽さで言われる。だが、直文と八一にとっては鉛のように重い。しかも、二人にとっては聞き覚えのある腹立たしい声だ。

 男性は何事もなかったかのようにダッシュして店を出る。流れるように、二人は席を離れて男性の後を追った。外からは「この、クソ上司ぃぃぃぃ!」と重なるように二人の怒り声が響いて聞こえ、上司に対する罵詈雑言が飛んでいる。

 まさかの組織の上司の登場に、残った少女達はしばらく呆然としていた。


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