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平成之半妖物語  作者: アワイン
2 終章
109/196

ex 任務お疲れ様 第二回桜花反省会

「任務お疲れ様! 第二回桜花反省会! いぇ~い☆」


 ある居酒屋のカウンター席にて。直文、啄木、八一、茂吉と揃っている。八一はバイクで居酒屋に来ているため、今日はお酒は飲まないようだ。烏龍茶の入ったコップを片手に、八一は茂吉の相方に顔を向ける。


「直文。こいつといつもこんなことしてるの?」

「いつもじゃないよ。八一。大きな任務が終わったときだけ」


 ジョッキを片手に苦笑している。直文の格好は眼鏡とスーツ姿であり、仕事帰りに誘われたのだろう。誤魔化の術は解いてあり、学校の生徒にバレない。初めて呼ばれた啄木は、つまみの枝豆を食べながら茂吉に突っ込む。


「いや、これ、ただの飲み会だろ……茂吉」

「そうだけど、こういう仲間との交流も大事だろ? たくぼっくん」


 狸の彼に八一は同意する。


「もっきーの言うとおりだぞ。私達は常にストレスフルな職場にいる。なら、こうして飲んで! 食う寝る遊ぶ。大切だよなっ、もっきー♪」

「ひゅう! さっすがーやっちー☆ わかってるぅー☆」

 

 両手の指をぱちんと鳴らして、二人はハイタッチをし合う。狐と狸の化かし合いと言うが、八一と茂吉は仲がいい。二人が揃うと厄介であったりする。ついに揃ってしまったと直文と啄木はげんなりした。

 茂吉は啄木に、八一は直文の肩を組み始める。狸は啄木の頬を突く。


「ねぇーねぇー、たくぼっくーん。君の目的の子との進捗を聞かせてよー。見つかったんだろー?」

「さあな、つうか答えても教えるつもりはないからな」

「へぇー、じゃあ、前の飲み会で酔ってウマウマを踊った動画を上司に見せていい?」

「ぶっ!?」


 と、スマホからビデオを起動させてそれを見せる。啄木は飲んでいたビールを勢いよく吹き出して、咳き込み始める。長身の成人男性が赤い顔をして愉快に踊りだすのはきつい。弱みを握られたようなもの。赤い顔をして、目を吊り上げて茂吉からスマホを取ろうとする。


「このっ! 茂吉、何勝手に撮ってやがるっ! しかも、酔った時の俺は動画や写真におさめるなって言ってんだろぉ!」

「えー、あの時、たくぼっくん。すっごく酒飲んでたのが悪いじゃーん」


 軽々と避けていく茂吉に、羞恥心を抱きながら啄木は取ろうとする。苛立ちを見せている啄木を見ながら、直文は呆れている。


「ちょっと、おにいさん。

おにーさん。

おにいさん。

僕の相手をしてくださいよー」


 声色は山野の時のもの。彼が顔を向けると、悪戯っ子の微笑みを浮かべる八一がいた。明らかに良いものではなく、嫌そうな顔をすると、狐の彼は笑う。


「あっはっはっ、まぁまぁ、そんな嫌そうな顔をするなって。彼女との馴れ初め、聞かせてほしいなぁ~♪」


 からかう気満々である。仲は良いが、八一と茂吉は意地が悪いのが厄介だ。

 前の反省会の時、彼からこっそりと酒を飲まされ、重い思いを露呈させてしまった。前の黒歴史案件も含め、煽られている意趣返しに今の八一の秘密を暴露する。


「お前が生まれ変わったあと、大好きな人の為に二十五年間童貞を守り続けているらしいな。ある意味、すごいよ」


 八一は硬直する。アニメならば石像のようにかっちんと固まる表現であろう。耳に入ってきたらしく、啄木は呆然とする。

 生まれ変わって二十五年間人として生きてきた間、童貞を守り続けてきている。こんな面白そうな話題を茂吉は逃すはずもなく、八一に食いついた。


「ちょっと、ちょっと、やっちー! それほんとー!?」


 キラキラと目を輝かせる狸。狐はぶちまけた麒麟に苦情を言う。


「……っ!! 直文! 知ってるなら言うなっ。つうーか、なんで知っているんだよ!? どこで知った!?」

「たかむらさんがポロッとこぼした」

「あのクソ上司ぃっ!」


 流れるように情報の出処を知り、八一はカウンターを強く叩く。八一ですらもクソ扱いするほどの難がある人物のようだ。直文はしてやったりと笑ったあと、感慨深そうに話す。


「だが、八一がそんなことをするほど、田中ちゃんに入れ込むとは予想外だよ」

「……そうか? それに、恋はどんなタイミングでするのかわからないもんだぞ」

「それはそうだけど、本当に恋だけなのか? 俺にとって恋はきっかけに過ぎないと思うけど」


 彼からの指摘で八一は黙って頭を掻く。恋をしただけで、彼女に入れ込むまではしないはずだ。恋は盲目という言葉がある。夢中になりすぎると、理性や常識を失い、客観視できなくなるという。八一自身は恋をしたがもう恋心だけではなく、別の気持ちを抱いている。家族同然の仲間に誤魔化しはできず、素直に話す。


「……私は奈央の心に癒えにくい傷を負わせてしまった。できるだけ与えるのは悲しみじゃなくて、癒やしや楽しさ。そんな優しいものを与えたいんだ」


 江戸時代に八一が死んだのは、奈央のトラウマになりつつある。制止を振り切って逝った。彼女を帰すためとは言え、平和しか知らぬ奈央には心に傷を負わせてしまった。外傷は治せても、心の傷は治りにくい。組織の半妖である彼らはよく身に染みている。

 八一の優しい表情を見て、直文が口を開いた。


「俺は、彼女……依乃の我慢強さと笑顔と優しさに惹かれて好きになったんだ。八一は田中ちゃんの何処が本当に好きになったんだ?」

「っ……お前、そういう所だぞ」


 とんでもない質問をされて、八一は顔を赤くして罰の悪そうな顔をする。平然と言う直文はキョトンとしていた。相手が彼女の思いを吐露したというのに、吐かないとは道理に合わない。

 茂吉と啄木は興味津々に見てきており、八一は酒が飲めないことを恨んだ。酒の勢いならば何を言っても恥ずかしく感じないからだ。直文と麹葉に話したことは嘘ではないだろうが、本当に好きになった理由があるらしい。

 八一はため息を吐いて、話し出す。


「帰れるかもわからない中、明るく頑張っている姿と無邪気に明るく笑ってくるところ。率直に伝えてくる真っ直ぐさ。……あれに私はやられました。……ああもう、これでいいだろ! これ以上は見せ物じゃないからな!!」


 カウンターの上で腕の中に顔を埋めて照れた。今世童貞の暴露から防御力が落ちたのだ。これ以上は八一をからかわないほうが良いと判断して茂吉は席につく。

 啄木はビールを飲み直す。飲もうとした瞬間に手を止めて茂吉に声をかける。


「……そういえば、茂吉。お前は知っているとは思うが、静岡に」

「わかっているよ。啄木」


 ふざけた声色ではない。陽気さも含まれていない。感情も感じ取れないほどの無機質な声。彼らは横顔を見るが、茂吉は真顔で真正面を見つめている。ビールジョッキを手に茂吉は明るい笑顔を浮かべた。


「わかっているから、この話題はやめてほしいな。俺、壊れちゃうよ~」


 わざとらしい明るさに、三人はこれ以上何も言わない。事情を知っているからこそ、これ以上は何も言わないのだ。仲間とはいえ個人でもあり、その重さは個々でしかわからない。

 三人は黙っているが、茂吉が「あっ」と声を上げて八一を見る。


「そういえば、八一。お前、その勾玉のネックレス、上司からもらったの?」

「ん? ああ、復帰祝いに二つほど。効果は聞いているよ。外し方もな。奈央がはずれないって訴えてきたけど、外れないのは私達が相性がいい証だろう? 彼女は恥ずかしがってたけどな。ふふっ……外し方は愛し合うことなんだろ?」


 狐のように笑う八一に、茂吉は天を仰いで目を押さえた。啄木は哀れみの目で彼を見る。直文は気まずい顔をしていた。三人の反応に八一は目を点にする。


「……えっ。なんでそんな不味そうな反応をするの? 啄木。知ってるか?」

「……知っては……まあ……知っているけど……そっか、八一。お前、あの件の一連を詳しく知らないのか」


 啄木の言葉に八一は疑問そうだ。

 直文は仕方なく狐の彼に耳打ちをして、そのネックレスの外し方の詳細を教えた。同じように付けている仲間から話した方が、信憑性は増す。

 八一は聞いているうちにキョトンとした顔から、段々と真顔になっていく。聞き終えたあとの顔には表情がなく、ただ店内にはピリピリとした雰囲気が放たれる。。

 発生源は八一である。彼はバッグから財布を出して五千円札を一枚カウンターに叩きつけた。


「これ、私の分。お釣りはいらないから」


 財布をバッグに仕舞う。店の戸を開けて外に出ようとする彼に茂吉が恐る恐る尋ねた。


「……やっちー……どこ行くの?」


 八一は首を横に向ける。怖いほどの笑顔だ。ぼきぼきと片手の指を鳴らしながら、一瞬だけ髪と瞳の色を変えた。


「上司に殺ってくる」


 ぴしゃんと戸が強く閉じられた。

 その一言で居酒屋の客の一部が何かを察して、呆れや同情を見せる。上司の被害に遭ったことがある組織の仲間だ。外からはバイクのエンジンの起動音が聴こえ、走る音が遠ざかる。

 その場に残った三人は顔を見合わせて、八一に同情していた。




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