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平成之半妖物語  作者: アワイン
2 終章
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ep 狐達と向日葵の約束

 奈央を捕まえて、八一はお詫びに良い所に連れて行くと話す。強引にバイクを止めてある駐車場に連れて行かされ、ヘルメットを渡された。逃げるのも抵抗も無駄であると奈央は悟り、彼のバイクに乗った。

 彼らはヘルメットをしっかり被る。彼女はバイクに乗り、八一はバイクを走らせた。安倍川をまたぐ橋を渡り、バイパスに通じる道を走る。


 バイパスを通って三十分以上。


 周囲の風景が山から街中へと変わる。バイパスを降りていき、十数分ほど走っていると、バイクは駐車場に入り停まった。

 二人はヘルメットを取り、奈央は言葉を失う。

 目の前には有名なアイス屋。江戸時代で約束した指定の場所通りである。少女の顔を見て、八一は愉快そうに話す。


「ほら、お嬢さんのリクエスト通り。藤枝市にある有名なアイス屋」

「……えっ!? 分かったの!?」


 驚愕する向日葵少女に八一はジト目になる。


「限定されればわかるって……もしかして君の中で私は江戸時代止まりと思ってないか? 今の私はここで生きてる現代人だぞ」

「そ、そんなこと思っているわけないよー」


 実際に思っていた。見透かされて誤魔化すが、八一は深くは聞かない。バイクから降りて、奈央に手を差し出した。


「ほら、手を貸して」

「じ、自分で降りられるからいいよっ!」


 奈央はバイクから降り、八一はニヤニヤと笑う。周囲に親密な関係であると見せつけるつもりだ。奈央は気付いて、八一を若干警戒している。まあバイクで遠出をする男女はカップルにしか見えないと、あえて彼は口にはしない。


 ヘルメットをバイクの収納スペースに仕舞い、店の中に入った。


 奈央は初めてであり、興味津々に店の中を見た。八一は優しく見守りながら、奈央と共に見て回る。

 十分に見て回ったあとは、店の有名な抹茶アイスを彼の奢りで買う。濃さによって味が違うらしく、二人はそれぞれ異なるものを選んだ。

 イートインスペースの椅子に二人は座る。

 表情をにこやかにして幸せそうに微笑む向日葵少女。若干のチョロさに心配するも、狐の彼は優しく見守りながらアイスを食べていた。

 食べている最中、奈央は手を止めてしょんぼりとする。


「麹葉さん……」


 呟いて、いない彼女の名前を言う。もう一人。いや、もう一匹の真っ白な神使の狐と約束をした。彼女にも会うと約束して、アイスを食べようと約束したのだ。


「彼女なら、君の中にいるよ」


 八一に言われて驚き、彼は指で奈央を指す。


「麹葉さんは君の中で生きている。君に取り憑いた神使の狐。奈央から離れられるとしても、彼女は君の中に居続けるつもりだろう」

「……えっ、なんで……」

「多分、私への意趣返しだな」


 そう話して、彼は痛快な笑顔を浮かべていた。


「してやられたよ。彼女はどうしても私のそばに奈央を置きたいらしい。協力者でなければ、無理矢理保護させて関係者にしてしまえばいい。それに、君の中にいれば、間接的とはいえ約束を果たせる。麹葉さんは彼女なりに約束を果たしたんだな」


 話を聞いて、彼女が狐憑きの話をした意図を理解した。麹葉は最初から八一の作戦に反感を持っていた。記憶を消しても絶対にそばにいられるようにした。麹葉と奈央が会えているかというと、厳密には違うだろう。

 八一は話を続ける。


「麹葉さんは君に害を加えない。無理矢理引き剥がすのも良くないし、彼女が離れても得た神通力はそのままになる。上司は君を保護兼仲間として受け入れるとのことだ」

「それってつまり……依乃ちゃんと同じ立場になるってこと?」

 

 八一は頷き、奈央は一瞬だけ喜びの表情を見せる。が、すぐに笑うのをやめて、自身の立場を見直した。妖怪を狙われている立場になり、襲われる可能性もあるのだ。

 自戒しようとするも、八一と一緒に居れる喜びに勝てず、微笑んでしまった。笑っている奈央は、八一によって額を小突かれて叱られる。


「喜ぶな。平凡から遠ざかったんだから、少しは落ち込め」

「そうだけど、大切な人と一緒に居れる嬉しさが勝って、顔のニヤケが止まらないよ……」


 向日葵少女はニヤケを抑えようてしている。八一は何も言えなくなった。しばしして呟く。


「……君のそういう所がずるいんだけどなぁ」

「えっ、なに? 八一さん」


 聞かれが、八一は冷えたアイスで押さえながら食べた。


「なんでもない。んー、お茶のアイスうまー」


 まるで顔の熱さを抑えようとするように食べている。

 奈央は不思議そうにアイスを口に運ぶ。苦いがミルクのクリーミーさがお茶の苦味を抑えている。これも麹葉も食べているのかと考えていると、彼女はあることを思い付く。


「あっ、ねぇ、八一さん。もう一個アイスを食べていいかな?」

「えっ、食べるのか?」

「はい、でもこれは麹葉さんの分かな。私の中にいるので、私がもう一個食べる形になるけど」


 麹葉の分を買って、自分自身を食べる。

 神使や捧げられる供物や信仰心などの思いを食事としており、奈央の抱く思いを麹葉は受け取っているだろう。奈央には彼女は見えないが、彼女の中にいる白い狐は嬉しそうに笑っていた。

 彼女の思いは心地よいのだろう。


「なるほど、じゃあ私も奮発して直文と有里さん達にお土産でも買っておこうかな」

「じゃあ、アイス。溶けないうちに帰らないとだね!」


 明るい向日葵の笑顔を浮かべる彼女につられて、八一は「そうだな」と笑う。浮かべたのは稲穂の色のような優しい笑み。その微笑みは目の前の向日葵にしか向けられない。少女が気付くのは大分先の話であるが、その話はまた今度。




 再会を果たして実は外堀を着実に埋められている話を聞いて、少女に憑いている麹葉は呆れる。だが、これからも一緒に二人が居られるのであれば、狐の彼女は安心して見守れる。初めての大切な人達を守る為に、麹葉は彼女の中に居続けるのだ。



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