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赤子は泣いていた
老婆の喘鳴の中で生まれた赤子は
希望の光だった
昔を懐かしむように回帰する哀蚊の喜びは天にも昇らんばかりのものだっただろう
同じようにいや厳密には違うが干からびてしまった
母親との決別のために緒を切る
父親もひどく疲れ切っていたため立ち合いは25分の車検みたいに済ませたかったがあまりの赤子の可愛さに破顔した
この子の見届け人は誰でもよかったのだ 少なくとも三人は
この子のおちんちんが剥けるくらいまでは生きる
老婆はおお神様 我らを救いたまえと訳の分からん事を叫び
神棚に一礼し 仏典の95ページ目に自らの小指を傷つけて
出血した血で思いつかんばかりの名前を書いたが
両親はこの子が呪われるからと婆さんにけたぐりをした
赤子は泣いていた




