2. ブランコ
このユラユラ大きく揺れる感覚は身体が覚えている。しばらく考えてブランコを思い出す。
そして、時折チラチラと眩しく目に入る光は、木漏れ日か?
まどろみから目が覚めると、そこは小さな公園のブランコにゆられる午後だった。なぜそこにいるのか思い出せず、今朝出社してからの行動を思い出そうとしている。でも何も思い出せず、脳裏に浮かぶのは、ほんの今見た不思議な夢のこと。あのザラッとした味覚はまるで本物のように感じた。
目が慣れてくるまでは、そんな事を考えながらブランコに揺られた。
ぬるい空気に包まれ、泥濘のように進まない時間。
どれだけ経っても目は慣れてこない。木漏れ日を頼りにするが、周りは薄暗く見えない。
何かがおかしい気がする。
さっきから耳鳴りのように頭に響く音は、周波数が高く女性か子供のものだと思う。その辺に遊ぶ子供たちの笑いとママ友たちのおしゃべりが混じり合った喧騒?
たまにギィギィと軋む鉄の音はブランコの鎖?
やはりここは公園なのか?
ブランコから降りようとしたが、足元は底が見えない真っ暗な闇。あぁ、ただ目が見えていないだけなのかもしれない。そう思い足を伸ばそうとしたが、何度やっても足は動かなかった。もし本当に足場がなかったらと片隅にあるのか、身体は麻痺したようにピクリとも動かせない。
そして、なんの変化もなく時は流れ続けた。
抜け出せない現状に次第に恐怖を感じ始めてからどれくらい経っただろうか、その恐怖にも慣れてしまい退屈になり何度もウトウトと居眠りをする。
実際にはどれくらい時間が経ったかわからないけど、その時、一瞬感じた違和感を逃さなかった。
かすかに薬品のような匂いがした。
消毒のような、アルコールか何かだと思うが、とにかく全く公園らしくない匂い。
違う…ここは公園じゃない。
ここはどこだ?まだ夢か?
もう一度、感覚を研ぎ澄まして考え直す。
軋む鉄の音と喧騒、麻痺した身体、薬品の匂い、もしかして…何か薬物を投与されてふらついているのか?鎖に縛られてそれを楽しむ奴らの声が聞こえるのか?
こんな時にそんな非常識な妄想をしてしまう自分のことを、ヤバいなと思い苦笑いした。本当にそんな漫画みたいな事があるはずも無いだろうと冷静になった。