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1. 一番最初は味覚
人が生まれるときに一番最初に得る感覚はなんだろう?そんなこと考えたこともなかった。
自分が最初に感じたのは味覚だった。
何も無い世界にただひとつ生まれたのは、無機質な生きものの気配のない鉄の味。
舌に触るザラザラとした砂と血の混じり合った感覚は、今でもハッキリとおぼえている。すべての記憶をなくしたとしても忘れないと思う。
有るはずの身体は、どこまでも深く深く沈みこみ…土と混じり合っていた。地球の裏側か、それよりももっと遠く宇宙のはてにある手足。無限の距離というものを、初めて理解した瞬間だった。
地面が見えた。
コンクリートの地面には、小さな世界があった。
ひとつひとつの砂粒は色も形も全部違っていた。個性豊かな彼らがこちらを見つめていた。
夏の夜にヒンヤリと冷たいコンクリートを頬に感じて心地よかった。
しばらくして黒い海が地面に広がり彼らを皆黒く染めていった。
痛みは遅れてきた。