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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
イワト隠れ
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イワト隠れ -12-

「つーか、バケモン退治のアイテム、お前らだけのモンになっちまったじゃねーか」

 自分に非があるのは感じているのか、修二が唐突に話を変えてきた。

 盗賊の性か、生離姦唾螺討伐のアイテムにやたら執着している。

「まあ、トドメを刺したのは彼らですし。それに、彼らはおれ達とパーティを組んでいたわけではないですから。生きてるだけで良しとしましょう。金と経験値は等しく入ったようだし、それで構いませんよ」

 逆に、豪は淡泊だ。

「どんなアイテムだろうね。巫女服だったら、着てみたいかも」

「やめときなさい、呪いの装備かもしれないわよ」

 女性陣はなかなかに独特な意見をお持ちだ。彼ら彼女らの視線(というか圧)に押される形で、得られたアイテムを呼び出した。


 コージは「タケミカ槌」という名のハンマー。

 フミトは「破邪の弓」という名の弓。

 ミズキは「太陽の杖」という名の杖。

 それぞれ、強そうな武器を手に入れていた。


「おおー、何だかすごそうな武器だねえ」

 さすがは強いボス相手の戦利品といったところか。だが――。

「ハンマーか……。俺は剣使いだから、持ってても使わないな」

 使えるのかもしれないが、武器の浮気をしようものなら、嫉妬深いルミナティソードにコージが斬り刻まれそうだ。

「ウチも別に杖使わへんから、持ってるだけになってまうんよなあ」

 ミズキはうーんと唸ること四秒。いいこと思いついた、とばかりにマイのもとに歩み寄っていく。


「あんた、魔導士やろ? よかったら貰ってくれへん? 見たところ杖使てへんかったけど、これ持って魔法使えば、なかなかの威力になると思うで」

 マイは驚いた表情で呆けていたが、はっとして首を横に振る。

「ちょ、いくらアタシでも受け取れないわよ!」

「せやけど、ウチが持っとっても宝の持ち腐れやから。マイも功労者やねんから、遠慮することあらへんで」

「でも……」

「ええから、持っとき」

 そう言ってマイに押し付けた。マイはおどおどするが、ミズキはウィンクして受け取らせた。

「……ありがと」

「どういたしまして」


 その様子を見ていたコージは、豪に問う。

「あんたも戦士だよな? 使うか?」

「いや、おれは遠慮するよ。斧の方が勝手がいいから」

 盗賊に目を向けるが、鼻を鳴らして背を向けた。

「いらねえよ。見りゃわかんだろ」

 確かに。ハンマーを振り回している盗賊など見たことも聞いたこともない。コージも使う予定は無いが、ひとまずアームヘルパーに収納しておいた。


「そういえば、修二はあいつからアイテム盗んでたよね? 何が取れたの?」

「さあな」

 別に取りはしないんだから、教えてくれてもよさそうなものを。亜香里はやれやれ、といった様子だ。

「オレがゲットしたのは弓なんで、さっそく装備しとくっす! なんか強そう」

 結局、戦利品を有効利用できたのはフミトだけだった。三人とも命があって、レベルが上がった。それでよかったと思おう。


「いろいろ大変だったけど、みんな無事でよかったなあ。これで太陽も元通りになったやろうしな」

 ミズキが扉を開けた。

 ――暗かった。

「あれ? 暗いなあ……」

「どういうことっすか? あの蛇を退治したら、太陽の光が戻るんじゃなかったんすか?」

 誰もが混乱していた。アマツテラスが身を隠す原因となった生離姦唾螺はもういない。それならば、明るさが戻っていない理由の説明がつかない。

「鏡があった部屋に行ってみよう。何か分かるかもしれない」

 コージの意見に全員が賛同し、再びアマツテラスの間に移動した。




 アマツテラスの間の扉前に到着した。大きな扉の奥から、何か声が聞こえている。

 誰かがいる。アマツテラスですら、脅威に感じる程の存在が――。

「開けるぞ」

 コージは両開きの扉を一気に開け放った。そして――。


「ヘイヘイヘーイ! アマツテラスちゃんノリ悪いよー!」


 黒のクロスデザインマイクロビキニの上にスケスケシースルーという姿で、ジュリアナ扇子を振りながら、バブリーなダンスをしている残念美女のウズメがいた。あろうことか、太陽の化身が祀られている場所をダンスフロアにしていた。

「……」

 一行はその光景を見て固まってしまった――これは一種の石化の呪いだろうか、と思うほどに。どこからか流れるディスコソングが、全く神聖な場所に合っていなかった。こめかみに青筋を立てた修二がゆっくり歩み寄り、ビキニの紐に指をかけて刺激を上げようとしていた彼女の背中を足蹴りした。


「痛ったーい!」

「おい、ウズメ……。てめえ、ここで何してやがる」

 バブリーなる石化から復活したフミトが、マイに尋ねる。

「なあ。あのエロ女、お前らと一緒だったんじゃなかったのか?」

「あのクソ女、化物がいた部屋に入ったところまでは一緒だったんだけど、化物が出たら一目散に逃げてったのよ。一緒にいても役には立たなかっただろうけど、思い出したらアタシもむかっ腹が立ってきたわ」

 会話をしている間も、修二は仁王立ちしてウズメを睨みつけている。


「んもうー。暗くてしょうがないから、アタシがひと肌脱いで、アマツテラスちゃんを連れ出そうとしてんじゃーん」

 逆効果じゃないだろうか。鏡に触れただけで引きこもるような奴が、こんな陽キャ丸出しの騒がしい女と気が合うとはとても思えない。

「せっかくバケモン倒したのに、お前がいるから出て来ねえんじゃねえのか」

「ひっどーい! ウチらマブダチじゃんね、アマツテラスちゃん」

 鏡に光は戻らない。それどころか、何となく震えているような。


「うーん。アマツテラスが戻って来てくれへんと、一生暗いままやで……」

 ミズキが鏡に近づく。コージとフミトもそれに続く。すると、コージのアームヘルパーからアイテムが勝手に飛び出してきた。

「な、何だ?」

 驚くコージの前で、魔除護符――東屯所のタケから貰い受けたアイテムが光っていた。アイテムを手に取ると、さらに驚くことにどこからか声が聞こえてきた。


(たすけて)


「……!」

 思わず手を放してしまった。

「ど、どうしたん?」

「い、いや……。護符に触ったら、なにか声が聞こえた気がして……」

 コージはもう一度、護符に触れた。フミト達も続いた。頭の中に、声が聞こえた。


(お願い、たすけて)


 間違いなく聞こえた。三人はお互いの表情を見て、声が聞こえたのが自分だけではないことを悟った。うまく表現ができないが、心に直接触れられているような、昔からずっと一緒だったような、見えない存在をそこに感じられた。


(わたくしは高天界(たかまがかい)を統べる者。人々からは、アマツテラスと呼ばれています)


「ア……アマツテラスだって!」

「フミト、静かにしいや!」

 まさかの神様からの直接交信に焦る一同。突然のことに混乱してしまっているが、暴れる心臓に手を当てて無理やり落ち着かせる。そして、聞こえてくる声に耳を委ねる。


(あのふしだらな女を、ここから追い出してください!)


「……へ?」

 フミトが気の抜けた声を出した。


(はるか昔、高天界で好き勝手に暴れて追放された傍若無人な愚弟がおりました……。あの女は、それと同じにおいがするのです)


「……」


(あの女の前に出て行こうものなら、常に踊りに付き合わされそうで……。そうなれば世界は休みなく照らされ続けることになり、夜が無くなってしまうことに)


「ああ……」


(あの破廉恥な装いをわたくしに強要し、さらにはそれを口実にして、あれが神の正装だと後世に広めてしまうかも!)


「確かにって感じやなあ」


(せっかくナリカンダラの闇が晴れたというのに、これではわたくしは出ていけない! 嗚呼(ああ)っ) 


 そこまで言うと、アマツテラスはむせび泣いてしまった。頭の中に女神の泣き声が響くという、厳かさの欠片もない状況では、ため息しか出て来なかった。

「ウズメ」

「なんだね神キラー、一緒にアツイ夜を過ごしたいのかーい? アマちゃんとあーしを同時に抱きたいって? 欲望に正直な男は嫌いじゃないゾ!」

 ついに女神に勝手なあだ名をつけ出した。ここまで来ると、怖いものなしだ。そして神キラーってなんだ。おばさんキラーのような言い方をしてくれたが、どこの世界に作業着プラス軍手姿の三十路のおっさんに惹かれる女神がいるというのだ。


「とりあえずお前は出ていけ。おい、手伝え」

 フミトがウズメの肩をがっしり掴んで押していく。修二たちパーティも腕を引っ張って連れ出すのを手伝ってくれた。

「なになにみんなでお盛んデー? アツーイ夜いっちゃう感じ?」

「やかましい。しゃべるな」

 修二の手刀がさく裂した。ぎゃあぎゃあ言っていたが、何とかその場から追い出した。とんだトラブルメーカーだ。しばらくして、フミトだけが戻ってきた。


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