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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
イワト隠れ
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イワト隠れ -10-

 ― クラリオ ―


 最悪の事態になることを覚悟したコージの身体を、温かい光が包み込んだ。ピントの合わないレンズのようになっていた視界がはっきりし、周りの音がより鮮明に聞こえてくる。コージは起き上がった。


「コージ、大丈夫?」


 そう声をかけてくれたのは、呪いを受けて声を失ったはずのミズキだった。コージは訳が分からず、コージの方が呪いを受けたかのように声が出て来ない。

「間に合ってよかったあ。初級回復呪文のクラルやのうて、中級回復呪文のクラリオにしといて良かったわあ。中級いうだけあって、回復量はクラルの倍やで」

 そう言ってピースを向けてくる。コージは、やっと声が出た。


「ミズキ、呪いを受けたんじゃ……?」

「うん、受けた。でも、お婆ちゃんの髪飾りが、ウチを助けてくれたみたいや」

 ミズキは身に付けた髪飾りを大事そうに撫でる。鬼婆を倒した後に手に入れた「老婆の髪飾り」。この装備がもつスキルであるアンチサイレンスは、失声状態を防いでくれる。死してなお、鬼婆はミズキを守り続けているのだ。

「ほら、いくで」

 差し出された手を握って、立ち上がる。逆境でも、ピンチでも、決して折れない頼もしい笑顔に迎えられ、コージは再び剣を握った。


 敵の矢が豪の肩を貫いた。鉄の鎧を身に付けているというのに、それをものともせず貫通した。

「ウチ、行ってくる!」

 ミズキが豪に向かって走り出した。傷ついた者がいれば、誰であろうと見捨てず治療をする。太陽が隠れてしまっているこの状況では、ミズキがコージ達にとって太陽の代わりになっていた。

 ――いつまでも照らしてもらってばかりじゃ、いられない。

 コージは闇雲に向かっていくことはせず、敵とフミト達の闘いを観察した。何か、奴の弱点は無いか。


 ― アクアピストル ―


 マイが呪文を唱え、水の弾丸を放つ。鉄をも貫かんばかりの勢いの弾丸を、生離姦唾螺は片手で簡単に受け止める。下半身に至っては、固い鱗のせいで当たってもビクともしていない。水の攻撃は通用しなそうだ。


 ― 閃光斬 ―


 豪が光を纏った斬撃を放つ。闇を纏った剣で受け止められ、弾かれた。強烈な斧の光が、とめどなく湧き出る闇に押し負けた。


 ― 氷縛の矢 ―


 フミトが氷縛の矢を放ち続ける。上半身の巫女を執拗に狙うが、術や弓矢で相殺されてしまい、氷が飛散する。攻撃を受け止めないということは、攻撃が当たりさえすれば、敵は凍り付く。水は強いが、氷は弱いのか。

 膠着状態。こちらは攻撃を続け、敵は防御に集中している。いや――攻撃を続けさせられている。今攻撃している三人の誰か一人でも攻撃を止めれば、敵のペースにハマる。早く手を考えないとまずい。みんなの体力が無限にあるわけではないのだ。

 だが、活路が見いだせない。全員で一斉にかかって、隙を作ってくれるのを待つ他ないのか。


 豪の回復を終えたミズキはフミトの傍にいた。そして、フミトの氷縛の矢に合わせて、ミズキは魔法の吹き矢を放った。氷を纏うフミトの矢と、風を纏うミズキの矢。氷と風が交わって吹雪となり、凍てつく刃の矢となった。

『ウオオ……』

 唸り声をあげた生離姦唾螺は、持っていた武器を全て放り投げ、六本の手を合わせて協力な闇を放った。闇と吹雪が衝突し、互いの効力を消し合った。わずかに競り勝った矢が、吹雪の力を失いながらも敵の腹を抉っていった。


「なんだ、今のは……」

「複合技だ」

 いつの間にか隣にいた修二が冷静に分析する。

「特定の術や技を組み合わせると、より強力な攻撃ができるようになる。セレーネから聞いた話で、実際に見たのは今のが初めてだけどな。それより、気づいたか?」

 鼻を鳴らして腕を組む盗賊は、再開された戦闘を見てコージに問う。

「何がだ?」

「あのバケモンの動きだよ。上半身――特に、心臓に届きそうな攻撃は、確実に術で打ち落としてる」

 そう言われて、コージも再度観察してみる。マイが放ったイグニスショットを防ぐ素振りも見せず、鱗に包まれた胴体に着弾している。逆に、豪が巫女の胸目掛けて振った斧は、蛇の尾で防いでいる。修二の言う通りだった。


「上半身は見た目相応の防御力ってことだろうよ。元巫女だけあって、生身でも術には強いようだが。――バケモンでも、身体は女だ。気分は良くねえが、そんなことも言ってられねえ。心臓を狙うぞ」

「頼ってもらって光栄だな。俺が囮になれば、やれそうか?」

「いや、囮は俺がやる。盗賊の動きで翻弄させてやるよ。()()()こそ、やれんのか」

「……やってみせるさ」

「ここにいる中で奴の心臓を貫けるのは、弓使いと、あの吹き矢の姉ちゃんくらいだ。――敵に気づかれないように伝えな」

 こちらの返事を待たず、修二は姿を消した。コージは大きく息を吐き、そして気合を入れた。


『ガアアアア!』


 直後、生離姦唾螺がおたけびを上げた。予想以上に粘るフミト達に業を煮やしたのか、防御をやめ、六本の腕を広げ、手の先から術を乱射した。黒く染まった闇の球体や雷が激しく打ち出され、フミト達は回避行動に移った。


 ― オビシェル ―


 亜香里が結界を張り、襲い掛かる暗黒の猛襲から必死に仲間を守る。その中には、フミトとミズキも入っていた。

「ぐぅ……! 長くはもたない……!」

 結界を張る手が震え、冷汗を流している。六本の手を交互に使って術を放っているため、敵の攻撃に隙間がない。結界から出ようにも、結界を覆うように黒い雷が駆け巡っていて、無傷では出られない。

「くそ!」

 フミトが結界の中から矢を放つが、闇に焼かれて消滅してしまった。マイも魔術を放つが、同じく消滅してしまい、反撃の糸口すら見い出せない。

「ああもう、イラつくわ! ところで修二は? あいつ、どこ行ったのよ!」

「分かりません。それより、何か策を考えないと。このままでは亜香里さんが倒れてしまう!」

 呪術に加え、尾による物理攻撃も放ってきている。結界にヒビが入り、蜘蛛の巣が張ったようになる。

「もうアカン!」

「ミズキ、離れろ!」

 ミズキが叫び、フミトがミズキを庇ったその時。


 ― スモークボム ―


 修二が突然、生離姦唾螺の目の前に現れた。そして、奴の目の前に煙幕を打ち出し、視界を奪った。

『ウオオ!』

 二本の手で目を覆い、集中が切れた。敵の猛攻が止まった。それが合図だったかのように、亜香里の張った結界が割れて飛び散った。

「フミト、ミズキ!」

 コージは敵に向かいながら、二人に指示を出した。声には出さず、ジェスチャーで心臓を狙えと伝えた。二人は頷いた。

「おれ達も!」

「分かってる!」

 マイと豪が加勢する。一気に畳み掛ける!


 ― 大木斬 ―


 その名の通り大木すら切り倒さんばかりの一撃を豪が放った。敵の左腕、目を押さえていない二本が同時に切り落とされた。


 ― ウェントスカッター ―

 ― フルメトラベム ―


 マイが攻撃魔術を二つ同時に放った。鋭い風の刃が皮膚を切り裂き、続いてマイの指から放たれた稲妻が焦がし尽くす。敵の右腕二本も使い物にならなくなった。

『イイイイイ!』

 残った二本の腕を向け、掌に闇の球体が集まる。ところかまわず術を放つ気だ。だが、そうはさせない。


 ― 火炎剣 ―


 コージは炎を纏ったルミナティソードを振り、右腕を焼き落とした。

「おっと。俺を忘れてんじゃねえよ」


 ― スティールエッジ ―


 コージに合わせて修二がタガーを振るった。最後に残った左腕もボロボロになって落ちて行った。そして、光が修二のアームヘルパーに吸い込まれていった。スティールエッジは攻撃した相手からアイテムを盗むことがある技。ちゃっかり何かを掠め取ったらしい。

「ついでにアイテム貰っといてやる」

 修二はニヤリと笑うと、敵を蹴って距離を取った。これで、奴の腕は全てなくなり、女の頭と身体が付いただけの大蛇になった。


「フミト! ミズキ!」

「準備オッケーっす!」

「行くで、フミト!」

 六本の腕を奪ったいま、魔術で邪魔されることはない。フミト達は息を合わせて矢を放った。氷と風が合わさり、吹雪となった矢が心臓目掛けて放たれた。いける。その場にいた全員が勝利を確信した。だが、敵はまだ諦めていなかった。


『ブワア』


 大きな口を開けたかと思うと、奴はなんと口から暗黒の光線を放ってきた。これまでの比ではない強力な攻撃は、吹雪の矢と衝突し、あっさりと吹雪を飲み込んでしまった。

「まじかよ!」

 フミトはミズキの腕を引いて走り出す。

「フミト!」

「バカ、やめろ!」

 修二の制止も聞かず、コージは二人のもとに掛けた。だが、光線はコージを追い抜き、フミト達を容赦なく襲った。


 轟音。噴煙。黒い火の粉が舞い上がる。

 光線が着地した床は黒く焼け焦げており、そこに居たはずの二人の姿は無い。


「まさか……消し飛んだのですか」

「う、嘘でしょ」

 豪とマイの声が、ずいぶん遠くから聞こえた気がした。時間が止まってしまったようにも思えた。


『ブワア』


「おい、感傷に浸ってる場合じゃねえぞ! 次が来る!」

 修二の一言で、豪達は散って退避した。コージは仲間を失った喪失感で、立ち尽くしたままだ。

 煙が晴れたら、フミトがひょっこり出てくるんじゃないか。

 ミズキが緊張感無く空腹を訴えてくるんじゃないか。

 そんな期待をよそに、煙が消え、火の粉も消えた。二人の姿はどこにも無い。


「おい……冗談やめろって」


 前にも、フミトが死んだふりをしてコージを騙したことがあった。草原の主キョトーオを倒した後、直前まで重症を負っていたフミトが、コージを驚かせようと息を止めていたのだ。いつもの悪ふざけ。だが、そんなことはもうしないと約束した。それなのに、姿が無い。もう、いない。

 ――また、一人になってしまった。


『ガア』


 容赦のない攻撃が放たれた。抵抗する気力も無くなってしまっているコージ目掛けて。コージの背後から黒い闇が迫る。

「あんた! 躱しなさいよ!」

 マイの絶叫は、耳を通り過ぎただけで、意味のない音にしかならなかった。そして、生離姦唾螺の放った光線が、コージを容赦なく襲った。再び轟音とともに噴煙が上がる。闇が全てを焼き尽くす。


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