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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
イワト隠れ
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イワト隠れ -8-

 静かな眠りを邪魔してしまった非礼を詫びて、三人は静かに地下墓地を立ち去った。シンメトリーのフロアに戻り、すぐ右――つまりは東の通路を進む。突き当りに、大きな両開きの扉が見えてきた。


「今までで一番大きな扉だな」

「いよいよっすかね……」

 フミトが武者震いし、顔をパンパンと叩いて気合を入れる。ミズキも緊張気味だ。それぞれが武器を手に、戦闘準備を整える。

「行くぞ!」

 コージが扉を開け放つ。フミトとミズキがぞれぞれ矢を向ける。


「……あれ?」

「誰もおらんなあ……」

 だだっ広い割に豪奢すぎない装飾が施された空間には、奥に祭壇があるだけ。あの五人も、生離姦唾螺もいなかった。

「なんだ、ここは……」

 今まで通った神殿内のどの空間よりも広い。何かがいるとすれば、ここだと思うのだが――。コージの予想とは裏腹に、全く敵の気配はしない。それどころか。

「なんか、ここ……落ち着くなあ」

 ミズキが呟いた。そう、神聖で、得体のしれない圧が感じられる状態でありながら、全く嫌な感じがしない。それどころか、ここにいると落ち着いて、力を与えてくれるような気さえした。


「奥の祭壇……なんか置いてないっすか?」

 またしてもフミトが何かに気づく。闇に包まれた世界の中で、その場所だけあたたかい光が集っていた。三人はゆっくりと歩み寄る。そして、その光の正体が分かった。

「鏡……?」

 ミズキがぽつりと言う。人の頭を二つ並べてもすっぽり入ってしまいそうな大きさの、綺麗な円形の鏡だった。銅のような、鉄のような、そのどちらでもないような不思議な縁。縁に囲まれた、一回り小さい円が明瞭な光を宿している。本来なら自分の顔を映す部分が、今は光のみを映していた。


「これは……」

 コージが震える手でそれに触れた。すると、鏡の光が消え、何も映さない、ただの錆びた銅板と化してしまった。

「え、え?」

「ちょ、コージ? 何したん!」

「なんか光が消えて、ただの鏡――ですらなくなっちゃいましたけど……」

「い、いや、そんなこと言われても、俺は触っただけで……」

 今まで生きてきた中で、一、二を争うほど惑乱している。悪気は無いが、何か大きなことをしでかしてしまったという全貌の見えない恐怖に襲われている。

「……ん? これ、たぶん、マフツノ鏡とちゃう?」

 マフツノ鏡――イワト神殿内に納められているという聖なる鏡。……ということは、さっきの光は、アマツテラス。そう考えると、得体が知れないのに落ち着くという感覚にも説明がつく。


「そこに宿ってた光が消えたっちゅうことは……アマツテラスが引きこもりよったってことになるんかな」

 引きこもりって。仮にも神を相手に、他に表現のしようがなかったのか。

「もともと引きこもってただろ。だから暗くなったんじゃねーか」

「俺が触って光が消えたのは、一体なんだったんだ?」

「ちょっと様子見に来とったけど、また引きこもったんとちゃう? 頃合いを見計らって出てこようかと思うて、ちょっとドア開けたら、なんや知らん人おったから、ドア閉めて、また閉じこもってしもたんやないかな」

 そう言われると、どこぞの引きこもりの話に思えてきてならない。どんな神様だよ。


「なんか、これ以上ここにいても仕方ない気が……」

「せやなあ……。ウチらがいたら、余計引きこもってまうかも」

「とりあえず、ここには生離姦唾螺はいないみたいだし、行くか……」

 俺の中の神様像が一変したな、とコージは思う。三人はそそくさとアマツテラスの間から退出した。一行が出て行ってしばらくしてから、鏡が再び光り出した。


 扉が開いて、ひとつの影がマフツノ鏡に忍び寄った。




 シンメトリーのフロアに戻り、北の通路を進む。ここが分岐の最後、つまりはこの先に生離姦唾螺がいる。一歩進むたびに邪悪な気配が強まっているような気がしてくる。

「なんや気分悪くなってきたなあ……」

「やべぇくらい空気が悪くなってきてる。身体が重い……」

「二人とも、気をしっかり持つんだ」

 フミト達を励ますが、コージ自身も内側から圧迫されるような息苦しさを感じていた。鳥肌が立ち、逆毛立ち、音が遠くなるような耳鳴りがする。危険な存在に近づいているのだと、全身が警告していた。

 それでも、進まなければ。自分たちの居場所を守るために。


「……ここだな」

 通路の最奥に到着した。目の前には、アマツテラスの間と同様に、大きな両開きの扉。決定的に違うのは、角の生えた牛のような悪魔的な装飾が扉に施されていたことと、閉まる扉の隙間から邪悪な気配が漏れ出ていること。


 ――いる。この先に。


「鳥肌やべえ」

「ここにおるだけで、寿命が縮みそうな気がするわ」

 たとえボス戦でも、弱音を吐かなかったフミトが、恐怖している。

 たとえ封じられた鬼婆でも、救ってみせようとしたミズキが、拒否反応を示している。

「できれば逃げ出したいくらいだな」

 もちろん、コージも二人と同じ。手が震え、心臓の音が早くなる。扉の奥の敵に聞こえてしまいそうなくらいに、激しく拍動する。大きく息を吸う。


「やってやろうぜ」

 コージは手を差し出した。フミトとミズキも、視線を交わして頷き、コージの手に自分の手を重ねた。

「レベルなんて関係ねえ。最後に勝つのは仲間の絆と、ぜってえ勝つっていう気合だ。あのバカどもに、オレがそれを分からせてやる」

「引きこもった神様を社会復帰させんといけんしね。出てきても安全な社会に、ウチがしたらんと」

 自分たちを鼓舞するように、思いを言葉にする。そして、三人の思いが、それぞれを蝕む恐怖を凌駕する。震えは、止まった。


「行こう」


 コージは扉を開け放った。

 暗黒の中に、さらなる暗黒が瘴気のように漂う。壁のキャンドルの灯で中は見えるのに、蜃気楼のように遠く感じた。しかし、敵はいた。ガイドがその存在を告げた。


――――――――――――――――――――

※注意※ 恨苦の蛇女 生離姦唾螺が現れた!

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