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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
イワト隠れ
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イワト隠れ -7-

 イワト神殿に到着した。人の手で管理がされなくなった建物はツタが纏わりつき、壁には亀裂が入っている。ミズキの照らす光で見える範囲しか見えないというのに、全体的に傷んでいるであろうことが想像できる。明るい日中で見たとしても、恐怖感を与えることだろう。

「心の準備はいいか?」

 コージの呼びかけに、二人同時に頷く。コージも頷き返すと、両開きの扉を開け放った。


 室内の壁に設置された蝋燭には火が灯され、中を怪しげに照らしていた。柱や石像が規則的に並ぶそこは、広い美術館のホールのようだった。人の気配はしない。閉じた空間ではなく、広間の奥から逆U字形の通路が続いている。

「思ったより広いな」

「ダンジョンって感じっすね」

「神殿がダンジョンやなんて、世も末やなあ」

「世界が闇に包まれた時点で、既に終末の雰囲気が漂ってるけどな」

「そんじゃ、オレらが終末を食い止めないとっすね」

「ウチも戦えるようになったし、足手まといにはならへんで。中は蝋燭で明るいし、そろそろライト消すで」

 ミズキは光を消した。ミズキの光に比べたら心許ないが、蝋燭の明かりでも視界は充分だ。三人は奥へと進んだ。

 中はアイバットだらけだった。だが、もはや三人にとってはうるさい蚊程度の存在だった。フミトの矢、コージの衝光波、そしてミズキの魔法の矢。全員が遠距離攻撃できる三人は、ただ打ちまくるだけでどんどん始末していった。


 長い通路を進んでいくと、開けた空間に出た。とんでもなく巨大な試験管を逆さにしたようなその空間の天井はやたら高く、赤い絨毯が床全体に敷かれている。上から降ってきたアイバットを退治するのに衝光波を放ったときの明かりで、天井が球状になっていて、てっぺんがガラス張りであるのが分かった。外が明るければ、ガラス越しに陽が差し、それはそれは神々しい空間になるのだろう。今は神々しいどころか、クリーチャーの巣窟になってしまっている。

 そして、またクリーチャーの影が忍び寄る。「クリーチャーが現れた!」の表示とともに、ゾンビワームが二体飛び出してきた。

「今度は毒に気をつけろよ!」

「分かってますって!」

 コージとフミトが別々の敵に向かい合った。ミズキも魔法の吹き矢を構えて臨戦態勢だ。


 ― 衝光波 ―

 ― 氷縛の矢 ―


 先手必勝とばかりに、同時に攻撃を仕掛ける。コージの衝光波を受けた敵は呻き声をあげながら消えていった。一方、氷縛の矢を受けた敵は、頭が凍り付いたものの、倒すには至らなかった。

「ミズキ!」

「任せてや!」

 ただでさえ鈍足な敵の動きを封じた今、ミズキの矢の格好の的だった。雷が駆け巡ったあと、黒炭になった敵は声すらあげられずに消えていった。戦闘に勝利した。コージとミズキのアームヘルパーに、アイテム「解呪薬」が吸い込まれていった。

「フミト、ごめん。アイテム、ウチのになってしもた」

「構わねえよ。どういうアイテムだったんだ?」

「ちょい待ち、ええと……。解呪薬いうて、失声の呪いを回復してくれるんやて! 失声状態になると、文字通り喋れんくなるから、魔導士や神官には助かる道具やで」

「呪いなら、神官の得意分野じゃねえの?」

「そうなんやけど、ウチはまだレベルが低うて……。いや、ちょい待ち」

 自分のアームヘルパーを操作して、プロフィールを確認したミズキは、ニコリ。

「失声の呪い、解けるようになったで! レベルが上がって、新しい呪文覚えとった!」

 ここにきて、ミズキがパワーアップ。コージ達も念のために確認してみると。

「俺は変化なしだな。レベルが変わってない」

「オレはレベル上がってます! 新しい技も覚えてる!」

 フミトもパワーアップだ。コージ一人だけが成長していないのは、物悲しい。フミトも大喜び……かと思えば、実に渋い顔をしている。

「フミト、どうした? 微妙な顔してるけど」

「だって、新しい技が微妙なんすもん……。これ、見てくださいよ」


――――――――――――――――――――

陽炎(かげろう)

自分の残像を残して姿をくらまし、敵を惑わす技

――――――――――――――――――――


「カッコいい弓技を覚えたのかと思ったのに……期待外れっすよ」

「敵の攻撃を躱すのに使えそうだけどな」

「逃げ隠れすんのは、オレの性分じゃねえっす!」

「そんなら、攻撃するときに使うたらええやん? 本物と残像で攻撃力倍になったりせえへんかな」

「なるか! 別に身体が分裂するわけじゃねーんだから」

「ま、まあ……なんかで役に立つさ」

 肩を落とすフミトを微妙にフォローしきれなかったが、パワーアップしたということで納得してくれ。

「さて。どの通路を進もうか」

 左、前、右。自分たちが通ってきた通路を背にして、進める道は三つある。西から進んで来たから、北(左)、東(前)、南(右)のどの方角に進むかだ。

「選択ミスってここに戻っても、どこを通ったか迷ってしまいそうな造りやな……」

 ミズキの言う通り、完全なシンメトリーになっている空間の中は、方向感覚を失ってしまいそうだった。

「右か左から進んで、仮に戻るハメになったら、すぐ隣を進むことにしよう。右の通路に進んで、ハズレで、またここに戻ったら、必ず右隣の通路を進む。左の通路に行くなら、ここに戻った後は逆に左隣の通路を進む。そうやってルールを決めれば、なんとか迷わないで済む」

「なるほどなあ。ウチは構わへんで。あとは、右から進むか左から進むか決めるだけやな」

「じゃあ、多数決でいくか」

 それぞれ右か左のどちらに進みたいかを同時に言い、その結果、右に進むことになった。ちなみに、コージとフミトが右、ミズキは左と言った。

「じゃあ、ミズキには申し訳ないけど、右から進もう」

「オッケーやで」

「了解っす」




 逆U字の通路を進む。すると、地下に降りる階段が現れた。

「お、もしかして当たり引いた感じっすかね? 封印っていったら地下って感じがするし」

「タイムカプセルとちゃうんやから」

「とにかく、進んでみよう」

 薄暗い階段を慎重に降りる。足元が危ういので、ミズキがリヒターンを唱えて明かりを出してくれた。階段を降り切った先には、扉がひとつ。

「開けるぞ」

 二人の反応を見てから、コージは扉を開けた。ミズキが中を照らすと、四角い空間に棺桶がずらりと並べられていた。

「か、棺桶! なんなん、この部屋?」

「ま、まさか、ゾンビ部屋か!」

「そ……そんなら、この棺桶が一斉にガバって開いて、一気に襲ってくるん? 嫌や嫌や!」

「お前らちょっと黙れ」


 村長の家で神官の死体を見てからというもの、ミズキ達はゾンビ恐怖症になりつつあるようだった。神官は骨になっていて、ゾンビでもなければ襲われてもいないというのに。気を取り直して観察してみると、大量の棺桶の奥には、西洋風の女性に翼が生えた姿の女神の石像が置かれている。両手を広げて、まるで棺桶の死人たちを優しく包み込むような神聖さがあった。

「もしかして、ここは地下墓地なんじゃないか……?」

 クリーチャーが出てきそうな邪悪な雰囲気がないし、死者を丁寧に眠りにつかせているように思える。

「なんや……ビックリしたわあ」

「お前、神官なんだから、神殿に地下墓地があることとか分かるだろ? なんで一緒にビビってんだよ」

「そんなん知らんわ。神殿いうたかて、ウチがいたヴェルナ神殿とここは全然造りがちゃうもん。ヴェルナ神殿には地下墓地なんてなかったし」

 ある程度は現実に倣った世界なのだろうが、あまり宗教観を忠実に再現しすぎないようにしているのだろう。西洋風の神殿に、和風の巫女が仕えているあたり、今更ながら自国らしい。盆に、祭りに、クリスマスに、ハロウィン。世界中のイベントがごっちゃまぜに存在するこの国を、ある意味では忠実に再現しているとも言えなくもない。


「とにかく、ここはハズレだな。戻ろう」

 コージが踵を返して、大勢の死人が眠る部屋を後にしようとしたとき。

「あ、あそこ、何かあるっす!」

 フミトが女神の石像を指さして掛けていく。さっきまでは怖がっていたくせに、墓地と分かると臆せず奥まで進んでいる。コージはここが地下墓地だと言っただけで、ゾンビが出て来ないとは言っていないのだが。それはともかく、フミトに続いて石像のところへ行くと、石像の前に置かれた台座の上に、確かに何かが置かれていた。暗めの赤で染められた箱に、蓋のアーチ、側面部分に金色の装飾が施されたそれは、どこからどう見ても――。

「宝箱や!」

 RPG定番の宝箱が初登場した。

「これ、開けちまっていいのかな」

「神官の立場からしたら、はいどうぞ、とは言いづらいねんけど……。まあ、ええんちゃう?」

「軽いなお前」

「人ん家や神殿に勝手に入ったり、部屋のドア蹴破ったりしておいて、今更やろ。それに、こんな目立つ場所に置いてあるんやし、普通に考えたら旅のお助けアイテムやろ」

「じゃあ開けるぞ」

 実はそれはトラップのスイッチで、箱を開けたらゾンビが大量に這い出てくるかもな――と思ったコージだったが、思っただけで言わないでおいた。この二人の前でそんな冗談を言おうものなら、絶対にめんどくさい事態になる。幸いなことにトラップではなく、宝箱の中にはちゃんとアイテムが納められていた。

 納められていたのは、緑色のしおりのような紙。

「何やろ、これ」

「調べてみようぜ。アイテム情報!」

 紙を手に取ったフミトが情報を調べる。紙の説明がホログラムで表示された。


――――――――――――――――――――

風の神札(ふだ)


魔法の吹き矢に使うと、風の力を纏った矢

を出せるようになる

――――――――――――――――――――


「魔法の吹き矢って、ミズキが持ってる道具のことっすよね?」

「だな。今は雷の力を込めた矢しか出せないけど、これを使えば風の力を込めた矢も出せるようになるってことじゃないか?」

「なんや使いどころがピンポイントなアイテムやなあ。ウチらは魔法の吹き矢を持ってるけど、持ってなかったら全然使いもんにならんやんか」

 確かにそうだ。回復薬や毒消し薬に比べたら、汎用性が低すぎる。

「今更っすけど、コージさんはその吹き矢をどこで手に入れたんすか? 萬屋にそんなのありましたっけ?」

「いや。倒した敵がドロップしたんだ」

 コージが初めて戦闘に出た日、グリーンワームとアイバットに同時に襲われた時の事。当時は飛び道具も遠距離攻撃の技もなかったため、空を飛ぶアイバットとの戦闘に苦戦を強いられた。先に倒したグリーンワームがアイテム――魔法の吹き矢――をドロップし、その吹き矢のお陰でアイバットとの戦闘に勝利することができたのだ。

「グリーンワームが持ってたんすか? あんな弱っちい敵のくせに、そんなアイテムを落とすんすか」

「北屯所の平八さんの話だと、旅人を襲って手に入れた宝を持ってるやつが稀にいるらしい。俺が戦ったやつが、たまたま魔法の吹き矢を持っていて、それを俺が倒したから入手できたんだろうな」

「あのグリーンワームにやられる旅人がいるんすかね……?」

「分からないけど、いたんだろうな。現に、倒したらドロップしたわけだから」

 本来なら元々持っていた持ち主に返すべきだが、当の持ち主は十中八九クリーチャーにやられてしまっているから、ドロップしたアイテムは自分のものにしていい――と平八からも言われている。


「それより、そのアイテムはミズキに使ってもらったらどうだ? 俺やフミトが持っていても仕方ないだろ?」

「そうっすね。ほら、ミズキ。早速使ってパワーアップさせちまえよ」

「うん、ありがとう」

 手渡された風の神札を魔法の吹き矢にあてがう。すると、神札は緑の光を帯びた風となり、魔法の吹き矢に吸い込まれていった。

「終わった……のか?」

「たぶん。何となくやけど、使い方が分かる感じがする」

 ここにきて、道具までパワーアップした。心強い。

「じゃあ、今度こそ、ここには用はないな。行こう」


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