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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
イワト隠れ
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イワト隠れ -1-

 行く先々で脅しを受けたが、どうにか依頼をこなしきった。どこの屯所の長も個性が強すぎるメンツばかりだった。完了報告と、流れで預かってしまった南屯所の亀丸の手紙を届けるため、一行は北屯所へと舞い戻った。

 入り浸っているわけではないが、慣れ親しんだように感じる北屯所の待機所。豪華な料理も出なければ、温泉も出ない。それでも、ここが良い。コージとフミトは無言で肩を抱き合った。

「何してんの、二人とも……?」

 訝しげに見てくるミズキは放置し、靴を脱いで上がり、平八の部屋を尋ねた。

『コージ殿たちか。手紙を届けていただいたのだな』

「はい、みなさんに届けました。それと、亀丸さんからお返事の手紙を預かってます」

 手紙を取り出し、渡した。

『どうやら仕事を増やしてしまったようだな、かたじけない。後で確認させていただこう』

 なんという常識人だろう。その場で開封して、コージ達が見てはいけないものを見えるような状況にして確認していた他の副団長たちに、平八の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

『謝礼もお送りするので、後で確認してほしい。話は変わるが、良い連絡だ。我々のクリーチャー討伐依頼を引き受けてくれる者たちが増えているのだ。ここのところ貴殿らに頼りきりになっていたが、多少は負担を減らしてやれそうだ』

 街の安全を守るために東西南北の屯所が存在し、街の平和を脅かすクリーチャーが侵入しないよう、砦としての役割を担っている。団員の数に対して敵の数が多いため、人手が足りず、クエストという形で討伐依頼を出している。コージが北屯所に初めて来たのも、その依頼を受けてのことだった。コージは頼りきりにされているとは感じていなかったが、こういう気遣いができる上司はとても尊敬する。

『ここに来たばかりのコージ殿と同じ、戦闘未経験者も増えた。昔の自分だと思って、仲良くしてやってほしい』




 待機所へと戻った。そこに見知った顔がひとつ。

『おお、お前ら!』

 北屯所の又五郎だ。コージが初陣を飾った日の夜、夕飯をご馳走してくれたのは彼だった。

『何だか久しぶりだなあ』

「久しぶりっていうほど間あいてねえぞ、オッサン」

『つれねえこと言ってんじゃねえ、フミト! また飯でも付き合え』

「機会があったらな!」

『その機会を作れって言ってんだ! 小僧め』

 そう言ってフミトの頭をわしゃわしゃした。嫌がる素振りは見せるものの、振り払ったりはしない。又五郎の後ろには、四人の男女の姿。

『おう、そうだ。平八さんから聞いたかもしれねえが、うちの依頼を受けてくれる奴らが増えてな。こいつらもそうだ。おいお前ら、先輩だぞ』


 サファリジャケットとカーゴパンツを着た、トレジャーハンター風の恰好の盗賊の男。

 頭から足まで鉄の装備で身を固めた戦士の男。

 ミズキと似た装いの神官の女。

 魔導士として旅立ったリョウと同じ、ローブを着た魔導士の女。

 全員二十代前半に見える。そして、彼らはパーティのようだった。


「先輩? こいつらがか?」盗賊の男が言った。

「我々より強いとは、お世辞にも思えませんが……」戦士が続く。

「うーん。人は見かけにはよらないって言うから、実は腕利きなのかもしれないよ?」と神官。

「アハハハ! こいつらは見た目通りじゃないの? 頭悪そうな顔してるし」魔導士がフミトを指さした。

「顔と実力は別だろ!」

 吠えるフミトを、コージは肩を掴んでなだめた。平八からは仲良くするよう頼まれたが、相手の態度がこれではとても良好な関係を築けるとは思えない。

『おいお前ら、態度悪いぞ! 同じ仲間なんだ、喧嘩腰になってんじゃねえよ』

 又五郎が窘めるが、四人は大笑いして全く受け付けない。それどころか、盗賊の男は又五郎を指さして小馬鹿にしたような目を向ける。

「NPCに注意されちまったよ。作りもんのくせによ」

 NPC――non player character、プレイヤーが操作しないキャラクターのことだ。その言葉が出るということは、彼らは仮想世界のキャラクターではなく、コージ達同様に現実世界に生きる人間で、VRヘルメットやアームヘルパーを装着してルナにやってきた人間ということだ。仮想世界の人間である又五郎は、何のことか分かっていない様子だ。

『はあ? 何言ってやがんだ、お前』

「まあ、いずれ有名になって俺達の名を知ることになるんだ。名前教えておいてやるよ。俺は修二だ。職業は盗賊」

「おれは豪。戦士をやっています」

「私は亜香里! 神官だよー」

「あんたたちに名乗っても一銭も得しないけど、まあいいわ。アタシはマイ、魔導士よ。よろしくしなくていいわよ」

 この調子だ。戦士と神官はまだ友好的だが、盗賊と魔導士は友達になれるとは思えない。少なくともコージはなりたいと思わない。又五郎はコージ達に向き直って手を合わせて謝る。

『悪ぃなお前ら。こいつら、まだ慣れてないからよ』

「そういう問題じゃ無いんじゃね?」

 不慣れな新人にしては態度が悪すぎだ。新入社員がこんなだったら往復でビンタしてしまうかもしれない。


「おいおっさん。そんなカス共に構ってないで、とっとと説明してくれよ。俺達はヒマじゃないんだ」

「言わせておけば、この野郎!」

「ふん、やるか?」

 修二とフミトが一触即発の雰囲気になってしまった。今にも殴りかかりそうなフミトをコージは手で制して止める。

「フミト、やめとけ」

『ったく、説明すっから、喧嘩はやめろ』

「俺らは別に相手にしてねーぜ? おっさんが俺らをほっぽりだして、そいつらと話しはじめやがったんだろ」

「相手にしてもいいけど、どっちが勝つかは明々白々よ? だって、アタシたちのパーティはレベル30以上が加入条件だもの。あんたたち、そんなにレベル高くないでしょ?」

 マイが言ったことが本当なら、コージ達では相手にならない。移動途中に確認してみたら、コージはレベル16、フミトはレベル18、ミズキはレベル14だった。悔しいが、大口を叩くだけの実力はありそうだ。

「行こう」

 又五郎がジェスチャーで手を合わせて謝ってきたので、三人はこれ以上声をかけずに立ち去ることにした。

「へっ、カスが尻尾撒いて逃げてくぜ」

 フミトの手は、血管が浮き出るほどに強く握られていた。背中から嘲笑を受けながら、三人は屯所を後にした。


「なんや、感じ悪い人らやったな」

 ミズキですら嫌悪感を示すくらいだ、フミトの怒りは爆発寸前だっただろう。それでも、我慢した。仮にいま修二とフミトに初めて会って、パーティに加える者をどちらか選べと言われたら、コージは迷わずフミトを選んだだろう。どれだけ実力や能力があろうと、それをひけらかして他人を馬鹿にするような奴とは一緒にいたくない。

 街にでも行って気分を変えようかと誘ってみたが、フミトは首を振った。

「闘いに出ます。強くなんねえと、自分が許せねえ」

「あんなやつらの言葉を真に受ける必要はないぞ? 落ち着けって」

「二人に付き合えとは言わないっす。けど、オレは馬鹿にされて黙ってるしかできない自分でいたくない」

「別にレベルが高いからって、イコール強いってことやないやろ? ただの手伝いクエストこなしてるだけでも、経験値は入るんやで? もしかしたら、あの人たちは手伝いクエストしかやったことない、戦闘は素人かもしれんやん」

「……コージさんはどうっすか? あいつら、戦闘は素人だと思いましたか?」

 あの四人は全員隙が無く、特に盗賊と戦士は桁違いだった。こちらが攻撃の素振りを見せようものなら、その瞬間に制圧されてしまっただろう。同じ戦士だから分かる、豪に挑んだところで、コージでは勝負にもならなかったはずだ。

 コージは首を横に振った。

「悔しいけど、あいつらは強い。やり返したくても、やり返せなかった」

「人は人やろ? ほっといたらええやんか」

「なら、お前もオレのことはほっとけよ」

 フミトはそう言って歩き出してしまった。

「フミト……!」

 ミズキも後を追う。コージも続いた。


 コージにはどちらの気持ちも分かる。修二が「カス」と言い放った時、目線は明らかにミズキに向いていた。パーティの中で一番レベルが低いのがミズキだと分かったのだろう。当然、フミトも気づいていた。本当なら、殴りかかって黙らせてやりたかったことだろう。けれど、実力の差は明らかで、返り討ちに遭うのが目に見えていた。そうなれば、ミズキにも危害が及んでいたかもしれない。だから、フミトは耐えたのだ。きつく手を握り締めて。

 フミトが強くなりたいと思ったのは、ミズキをけなした相手を黙らせるくらいの力が欲しいと思ったからだ。当のミズキは全く気にもしておらず、逆に気が立っているフミトが無茶な戦いをしないか心配している。互いが互いを思いやっているのに、すれ違ってしまっていた。


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