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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
守護四天王
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守護四天王 -5-

「それにしても、いきなり戸が開いて亀丸さんが登場した時はびっくりしたな。まるで到着するのが分かっていたみたいなタイミングだったし」

「監視カメラでもあったんすかね?」

「メタバースにそんな現実的な話持ち込むんかな? そういうシナリオやったんとちゃう?」

『いえいえ。団員ではない者が敷地内に入った際に検知できる魔術を張り巡らせておいただけですよ』

 突然会話に加わってきた亀丸は、いつの間にかコージの隣に腰かけていた。しかも片手にはコーヒーカップ。足を組んで優雅にコーヒーを啜っていた。

「ぎゃー!!」とフミトが叫び、

『元気でいいことですが、貸し切りではないので、お静かに願えますか』と注意された。


「いつからそこにいたんですか!?」

『八秒前から。食堂にはもう少し前にいましたが、コーヒーを注文していたもので』

「いや、全然気づかなかったんすけど……」

『修行が足りませんねえ。虎松ならワタシが食堂に入った瞬間に気づくと思いますよ』

「どっちも忍者みたいやなあ」

『あながち間違ってはいないかもしれません。虎松は幼少期から命の危険と隣り合わせの人生を送ってきましたから、人一倍気配や敵意といったものに敏感なんですよ。それは忍びが持つべき資質と似たものがある。ワタシは彼との喧嘩を通じて気配の読み方や消し方を習得しましたから、そういう意味ではどちらも忍者のようなものです』

「喧嘩って……。仲悪いんすか?」

『昔の話です。大変生意気な子ですから、どうも馬が合わなかったんです。それに人員問題でも衝突しました。若くしてワタシと同じ副団長となったはいいが、人生経験や人徳の問題で部下があまりおらず、団長の命で一時期は彼のところにばかり人員が割り当てられていたんです。そうなれば相対的にワタシ達のところの部下が少なくなる。特にワタシのところはほとんど部下が取られてしまいましてね。虎松の手腕に疑問を投げかけたこともありました』

「昔の話ということは、今はその確執は無くなったんですね」

『ええ。東屯所の副団長を務められている小平次さんのご配慮のおかげでね。ワタシ達の間に入って、文句があるなら喧嘩でもしろと言われてしまいました』

「それ配慮したって言うのか?」

「たぶん、不満を内に溜め続けて爆発するよりも、お互い言いたいことを吐き出して発散させた方がいいって思ったんだよ。口だけじゃなくて、拳も出たみたいだけど」

 フミトは若干引いているが、コージは小平次の取り持ちに納得した。不満を内に溜め続けて爆発した経験をした者なら、その配慮が痛いほど染みる。内に溜め続けた不満は、いずれ謀反という形で内部崩壊を起こす可能性がある。おそらく、小平次はそれを事前に防いだのだ。

『そういうことです。生意気な子だという印象は今でも変わりませんが、実力は本物だと思っていますよ。ワタシは剣の腕は並程度ですから、彼への嫉妬があった。その感情とも付き合えるようになった今は、彼を副団長たる実力があると認めています。彼が成長したいま、人員問題も解決していますしね』

 そう言ってコーヒーを啜った。カチャリ、とカップを置き、手を組むと、目つきが変わった。


『さて。それでは本題に入りましょう。まず、御礼ですが』

 黒光りするカードを差し出してきた。クレジットのブラックカードのように見えるが何だろうか、と三人が思っていると。

『この南屯所の食堂で見せれば、無料で食事ができるランチパスです。有効期限なしですよ』

 ミズキの目が光った。

「もろてええん?」

『ええ。御礼ですから』

「コージ、ありがたく貰っとき」

 親戚からのお小遣いを遠慮する子供に、受け取るよう背中を押す母親のような強い口調で指示してきた。無料となればミズキは遠慮会釈なく食堂を食い荒らすはず。亀丸はミズキの大食らいっぷりを知らないからこんなものを差し出してきているが、彼女の鉄の胃袋を知っているコージはおいそれと受け取れなかった。

『米の一斗や二斗、毎日召し上がっていただいたところで、さして痛くはありませんよ。ですから、ご心配なく』

「一斗! ……ってどんくらいすか?」

 知らずに驚いていたのか。一合や一俵と比べると、米の単位としてはあまり聞きなじみはないが……。

「十合で一升、その十倍が一斗。一斗の四倍が一俵や。一合が大体百五十グラムで、一斗はその百倍やから……十五キログラムってとこやな」

 即答するミズキ。さすが食い物にかけては博識だ。

「毎日十五キロ食っても痛くないのか!? あ、でもミズキならそれでも足りないかも……」

「失礼やで、フミト。いくらウチでも十キロが限界や」

 むしろ十キロなら食えるという事実にコージは戦慄した。普通のレストランなんか下手気に連れて行けない。従量課金制食べ放題では、貯金がすぐに底をつく。


「さっそく使うてええ?」

『ええ、もちろん。ランチのビーフシチューとシーフードドリアは特におすすめですよ』

「すぐもろてくるわ」

 ランチパスを持って風のように消えて行った。いつランチパスを取ったのか、全く動きが見えなかった。

『あんなに喜んでいただけると、差し上げた甲斐があります。あの身のこなし、彼女は実は忍者かもしれませんねえ』

「食い物が絡んだとき限定で本気になるだけっす……」

「あんなものを貰ったら、ミズキは毎日入り浸りそうだ」

『ずっと居ていただいても構いませんよ。ランチパスを差し上げたのは、あなた方が頻繁にここに訪れてくれたらいいなあと思ったからですし』

「それはどういう……?」

『あなた方が中々の実力者なのは見れば分かります。今はまだ副団長クラスには及ばずとも、いずれは我々と肩を並べるようになる。そんな気がしましてね。その時、我々の力になってくれれば心強いですから。ランチを無料にするくらいで(なび)いてくれるのなら、将来に向けた投資としては安いものです』

 要するに、ランチパスで引き抜きしようとしているわけだ。コージ達は旅人という扱いで、どこかの屯所の団員として属しているわけではないため、他の屯所から人員を奪うことにはならない。どこの屯所の依頼を受けるも受けないも自由なパーティだが、亀丸の属する南屯所の依頼を多くこなしてくれれば、屯所としては負荷が分散され、コージ達は食費がかからず報酬も得られる。ウィンウィンの関係になれるということだ。


「それ、言っちゃっていいんですか? 正直すぎません?」

 正直が必ずしも良い結果にはならないとコージは理解している。おそらく亀丸も。その上で、意図を隠さず伝えてきたのは、さらなる裏の意図があるのか。

『腹の探り合いをしたいのならお付き合いしますが、探っても何もでませんよ? これでもワタシは正直者ですから』

 どうしてこんなに胡散臭いのだろう。正直に言っていたとしても裏があるように感じてしまう。

『おや、信じてもらえませんか。悲しいですねえ。ワタシはあなた方の実力を認めていますのに』

「では、ミズキがどれだけ食べても、見返りを求めないと思って良いですか……?」

『心外ですねえ。ランチパスはお使いの御礼と言ったでしょう』

 食ったんだから依頼を受けろ、なんて後から言われたのではたまったものではない。そう思って念を押したが、その心配は一応なさそうだ。そこへ、ミズキが戻ってきた。大量の料理が乗った配膳台を押しながら。

「いやあ、どれも美味しそうで迷ったわあ」

「……配膳台を押しながら戻ってくる客は初めて見た」

「前代未聞っすね……」

『色々注文されましたねえ。品数が多くて、選ぶのも大変でしたでしょう』

「せやねん。おすすめは必須として、ピラフもナポリタンもカツサンドも美味しそうで。迷ったから全部頼んでおいたわ」

 迷った意味。迷った末の結論が”全て選ぶ”なんてどこまで破天荒なのか。料理を並べて席に着くやいなや、もの凄い勢いで食べ始めた。

「見てるほうが胸焼けしそうだな……」とため息をついたコージに対して、

「どれも美味しすぎるわ」とニコニコのミズキ。

『喜んでいただけて何よりです。他のどの屯所よりも美味しい食事を提供している自信はありますよ。いつでもいらしてくださいね』

「もちろんやで」


 亀丸が手をあげると従業員がやって来た。

『ワタシはコーヒーをお替りしますが、お二人はどうします?』

「じゃあ、俺もいただきます」

「オレはアイスで。ガムシロとミルク多めに欲しいっす!」

 ほどなくしてそれぞれ注文したものが運ばれてきて、喉を潤した。

『では、お嬢さんが食事をしている間に、手紙を渡しておきましょう。これです』

 懐から封筒を取り出し、コージに手渡した。

「確かに預かりました」

『よろしくお願いします。届けていただく御礼に、弁当を作らせましょう。本日中に召し上がってください、とお伝えするところですが、おそらく心配ないですね』

 目の前で空になった皿を重ねていく神官レディを見ながら、亀丸は笑ってコーヒーを啜った。ほとんど待たずに大量の弁当が届けられた。ファストフードよりファストだ。なぜにここの従業員はこんなにも給仕力が高いのか。

「弁当気になるなあ」とミズキが視線を送ってくるので、急いでアームヘルパーに仕舞っておいた。今食べたら弁当の意味が無い。

『それでは、ワタシはこの辺りで失礼しましょう。強制はできませんが、気が向いたら我々の依頼も受けていただけると幸いです。クリーチャーの脅威に晒されているのは、どこの屯所も変わりませんから』

 亀丸は去っていった。新たな配達物を受け取ることにはなったが、当初の依頼の目的地はあと一つ。屯所巡りの旅も大詰めだ。

「次の注文してくるわ」

「まだ食うのかよ!?」

 ゴールはまだ先かもしれない。


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