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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
守護四天王
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守護四天王 -2-

 北屯所を出て、バス停に向かう。街との行き来しかしたことが無かったが、他の場所にも連れて行ってくれるようだ。

「ウチ、ルナの中でバス乗るん初めてや」

「街の移動は全部徒歩だったのか? 大変じゃなかったか」

「ウチのアパート、ヴェルナ神殿のすぐ近くやねん。せやから、移動する必要なかったわ」

「そうは言うけど、お前、アマト鉱山まで行ってたじゃんか。まさかあそこまで歩いたのか!?」

「うん、ちょうど同じ方向に向かう旅人がおって、鉱山まで一緒に連れて行ってもろたんよ」

 コージもルナを始めたばかりの頃は、バスやタクシーで移動できると知らずに愚直に徒歩で移動していた。フリーパスという便利なものを貰ってからは、公共交通機関での移動に頼って楽させてもらっている。

「家の近くだからって、よく神官になろうと思ったな」

「魔導士なってバトルするのも楽しそうや思うたけど、別にバトルやなくても人助けのクエストしてたらそれなりに稼げるやん? 神殿やないと神官なれやんし、直感で神官になるって決めたんよ。転職屋でなる職業より、なんかレア感あるやろ?」

 なんというか、就職理由が自由だな。面接がある世界じゃなくてよかった。

「あ、バス来たぞ。フリーパスでパーティ全員が無料で乗れるから、何もしなくていいぞ」

 コージが最初に乗ってフリーパスを見せ、バスの長椅子に三人横並びに座る。他に乗客はなく、貸し切り状態で発車した。

「なんや、バスん中から外見えへんやん」

 そう、この世界では、バスもタクシーも外が見えないようになっているのだ。窓が全てデジタルサイネージで、真っ白な画面を映し続けているようになっている。コージ達は慣れてしまって何の疑問も抱かないようになっていたが、改めて考えるとどうも奇妙だ。

「はめ殺しになっとって、窓開けられんし。変なつくりやなあ」

 これだけの技術が詰まった仮想世界なのだから、それっぽい景色を流して街を走っているようにもできそうなものなのに。まさか、ここのプログラムだけ手抜き開発したわけでもあるまいし。

『お待たせしました、西屯所、西屯所に到着です』

 浮かんだ疑問は、運転手のアナウンスで中断されてしまった。


 バス停留所のすぐ近くには、北屯所に良く似た木造校舎のような建物があった。北屯所と違うのは、屯所の入口横に四霊獣――青龍、朱雀、白虎、玄武――が描かれた旗が立てられていることだ。北屯所に比べて自己主張が激しいというか、目立つ。上空に目的地を示す矢印があるし、入口に「自警団西屯所」と書かれた看板が掛けられているので、最初の目的地はここであっているようだ。

「とりあえず、中に入ろう」

 戸を開けると。

「うわ」

「なんやハデやなあ」

 フミトとミズキの正直な感想が背中から聞こえてきた。失礼ながら、コージも二人と同意見だった。なぜなら、部屋で稽古をする隊員たちがみな、例外なく赤い鎧や武具を身に付けていたからだ。それどころか、壁に貼り付けられている軍旗まで真っ赤だ。血に染まった侍たちが、さらなる血を求めて武器を振るっているようにさえ見えた。


『君たち、何か用?』


 背後から声がした。驚いて振り向くと、小柄で童顔な短髪の青年が立っていた。彼もまた赤い鎧を身に付けており、右手には兜――これまた赤色で、鬼の角のような飾りを付けている――を抱えていた。表情からは敵意はないが、隙も無い。いつの間に後ろにいたのか、気配すら感じられなかった。

『ごめんごめん。驚かすつもりは無かったんだけど』

 稽古中の兵隊に近づくと、兵たちは稽古を止め、青年の前に整列した。

『副団長、お帰りなさいませ』

『うん、ただいま。稽古は捗ってるかな』

『はい!』

『最近は厄介なクリーチャーが多いからね。みんなの力を上げていかないといけない。自分の命を守るためにも、しっかり励んでね』

『御意!』

 整列していた兵たちは散り散りになり、稽古を再開した。その様子をぽかんと見ていた三人は、小柄な青年に視線を向ける。

「あいつが、副団長……?」

 フミトの発言に反応し、こちらに振り返ると、にこりと笑って彼は言った。

『うん、僕が西屯所の副団長の虎松(とらまつ)だよ。よろしくね』




『へえ、僕に手紙を届けるために、わざわざ来てくれたんだ。手間をかけたね、ありがとう』

 西屯所一階奥の応接間に通された三人は、平八の依頼の説明をし、預かった手紙を手渡した。手紙を受け取った虎松は、コージ達がまだ同席しているにも関わらず、お構いなしに広げて読みだした。

「ちょ! オレら中身見たら処刑されるって!」

『大げさだよ。せいぜい百叩きや水責めの刑になるくらいだよ』

「どっちにしろごめんだっつーの!」

『冗談だって。君たちが見ても、読めないと思うよ? 盗難に遭ってもいいように、暗号っぽい文章になってるから。本当に盗まれたら爪くらいは剥がされたかもしれないけど』

「とりあえず無事ではすまないんだな……」

『機密情報だからねえ。盗まれても困らない程度のものなら郵便屋を使えばいいわけで。それをわざわざ報酬を用意してまで依頼をするんだ。失敗したら多少の罰は覚悟してもらわないと』

「……すまん、二人とも。なんかわりと重いクエストを軽く受けちまった」

「いや、これは相手の説明不足っすよ……」

「まあ今更言うても仕方あらへん。さっさと残り二人に渡してしまおうや」

 同意だ。手紙を持ってる限り、拷問の恐怖が付いて回る。とっとと重荷を下ろすため、次なる屯所へ行くことにしよう。


『あれ、もう行っちゃうの? もうすぐ夕飯時だし、一緒にご飯でも食べてもらおうと思ってたんだけど』

「あらそうなん? そんならよばれてこか……」

 ミズキの口を塞いで引っ張っていくフミト、ナイス。ミズキには悪いが、飯より命だ。失礼ながら廊下を走って入口まで戻ってきた。隙あらば拷問しようとする性格は、同じ副団長の平八さんとはえらい違いだ。見た目は美少年なのに、バラより鋭い棘を発射してくる。綺麗なバラには棘があるとはいうが、棘の方から近づいてくるパターンはやめてほしい。

「せっかくタダ飯もらえるチャンスやったんに、もったいないことするなあ」

「飯は金で買えるが、命や身体は金じゃ買えないんだ。分かってくれミズキ」

 飯ならまたビュッフェに連れて行ってやるから。


『ところでさ』

「うわ!?」

 背後から声がしたと思ったら、また虎松が気配無く立っていた。侍というより忍者だ。

『平八さんが依頼するってことは、君たちはそれなりに腕が立つんだよね? よかったら誰か手合わせしてほしいなあ』

 長槍を片手で振り回して笑う。選択肢を与えているようで、断ることを許さない。有無を言わせぬ気迫があった。コージは唾をのむ。声が出ない。

『訓練だから、殺生は無しだよ。僕のことなら、殺すつもりでかかってきてもいいけど。じゃあ、先に外で待ってるね。ここは狭いから』

 虎松は三人を残して出て行った。問答無用で戦う気だ。

「コージさん、どうします……? あの野郎、軽そうだけど強さはビンビン感じたっすよ」

「分かってる。束になっても勝てる気がしない」

「ウチは戦闘得意じゃあらへんし、ご飯だけよばれて逃げへん?」

 どういう発想だ。食い逃げする気か。飯はどうでもいいが、逃げ出したいのは同じだ。こっそり裏から逃げられないだろうかとチラリと奥を見るが、ここの兵たちが通せんぼしている。上司には逆らえないだろうから、仕方ないか……などと思っていたが、コージ達を心配そうに見ている。その中の一人が近寄ってくる。

『素直に戦っておいた方がいいぞ。下手に逃げると、地面に首から下埋められるから』

「なんでだよ」

 コージの代わりにフミトがツッコんでくれた。お陰で肩の力が抜けた。

「このままこうしていても仕方ない。勝てないだろうけど、俺が相手するから、二人は待っててくれ」

「コージさん! 俺も一緒にやるっすよ!」

「ありがたいけど、ここは任せてくれ。この依頼を受けたのは俺だし。それに、危ない奴だけど、さすがに殺しやしないさ」

「怪我したら、ウチがすぐ回復したるからね」

「心強いな」

 コージは意を決して外に出た。夕日を背にたたずむ虎松は、朱に染まった鬼のようだった。角のある兜、鎧、長槍。それらすべてが赤で統一され、背景までもが赤を帯び、こちらをみる瞳にも赤い炎が揺らいでいた。


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