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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
神官を追って
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神官を追って -8-

 最後に老婆に祈りを捧げて別れを告げると、ミズキの先導で鉱山を抜けていった。普通に祭壇まで来ようとすると、コージ達のようにスリル満点のルートを通るしかないが、ミズキたち神官は別の安全な道を通ることができる仕掛けになっているのだという。事実、帰りは拍子抜けするほど何事もなく出口に辿り着くことができた。

 その後は特筆することもなく、街に着いた。その足でヴェルナ神殿に向かい、カイミルを訪ねた。カイミルはコージ達の到着を事前に分かっていたかのように、大広間で出迎えてくれた。


『おかえりなさい。封印の件は、解決したのですね』

「せやで! この二人が全部解決してくれたんや」

「俺たちは鬼婆を倒しただけです。心を救ったのはミズキだ」

「そんなら、三人の功績いうことで!」

 ざっくりまとめられてしまったが、実際その通りだ。カイミルはミズキに歩み寄り、ミズキを優しく抱きしめた。

『ミズキ、よく働いてくれました。無事で帰って来てくれてよかった』

「カイミルさん……。ごめんなさい。ウチ、カイミルさんの許可を得んと、勝手な行動をしてしもた」

『私が神託を受けて思い悩んでいる姿を見たのでしょう? 確かに軽率な行動だったことは否めません。しかし、それは私を、引いてはやがて来る脅威にさらされる可能性のあった人々を想ってのこと。その心は賞賛に値します』


 神託。コージはふと疑問に思ったことを尋ねてみた。

「カイミルさん。教えてくれた神託って、”アマト鉱山に封じられし悪しき鬼が目覚め、やがてこの世にいる腹の子を食いつくしてしまう”でしたよね」

『ええ。私が受けた神託は、確かにその通りです』

「けど、俺達が戦った鬼婆は、もう人を傷つけるつもりはなさそうでした。仮に俺たちが退治しなかったとして、”この世にいる腹の子を食いつくしてしまう”なんてことが、本当に起きたのかなって思って」

『聡明な方ですね。実は、神託はもう一つあったのです』

 カイミルは神々しい祭壇に身体を向ける。

『あなた方がここを訪れた時のことです。――神官と旅人の三人組が悪しき鬼の心を変え、孤独と脅威の繰り返しに終止符を打つであろう。私が神に祈りを捧げた際にいただいた神託です』

 神官と旅人の三人組。まさしくコージ達のことだ。


「つまり、どういうことっすか?」

 フミトが首を傾げている。温かい陽の光に照らされた祭壇の前に立ったカイミルは、彼もまた神の一部になったかのように見えた。

『神託は神のお言葉。神の意思を示してくださることもあれば、我々の心を正すために注意してくださることもある。これからの未来の一部を示し、備えよと仰ることも』

「最後のは、予言のようなものですか」

『はい。ただし、予言は定められた運命を示すものではない。その後の行動や言葉で未来が変わることもある。あなた方は、まさに未来を変えたのです』

 予言はオカルト的で、実際に起きたかどうかという結果でのみ評価される節がある。だが、あくまでも起こりうる未来の一つを示したものであり、”このまま何も対策を取らずに現状維持で過ごしていると、こういう未来が待っているぞ”という注意喚起の側面が大きいのだ。だから、未来はいくらでも変わる。予言だって、生きものなのだ。


「未来をええ感じに変えたウチらのお願いなんやけど、イオツミスマル譲ってくれへん?」

 感動的な雰囲気から一気に現実に戻された。お願いしたのはコージだから、御礼を言うべきところなのだが、何だか恩着せがましい要求になってしまった。

『イオツミスマルですか……』

「コージさんが必要らしいねん。ウチが決められることやないから、カイミルさんの許可が欲しいんや」

「そうなんです。申し訳ないですが、いただけないでしょうか」

 コージは頭を下げた。カイミルはふむ、と少し考えると、ニコリと笑った。

『良いでしょう。鬼婆を封印し続けている限りは、ここに戻ることがなかったはずのもの。負の運命の鎖を断ち切ったあなた方であれば、お任せしてもよいでしょう』

「やった! ありがとうな! コージさんに渡しとくわ」

 ミズキはアームヘルパーから勾玉を取り出し、コージに渡す。コージは二人に御礼を言って、自分のアームヘルパーに収納させてもらった。コージはイオツミスマルを手に入れた!

『それはこの世に二つとない貴重な宝です。くれぐれも、取り扱いは慎重に』

「はい、もちろんです」

 コテツに渡すまでは、の条件付きだが……。


『ミズキ共々、どうぞよろしくお願いいたします』

「ん?」

「それは、どういうことです……?」

 フミトとコージが顔を見合わせる。ミズキとカイミルはにっこり笑う。

『その宝は、本来は神官が扱うべきもの。コージさんが所有するのは構いませんが、近くに神官がいる必要があります。封印の時のように神具として祀ってあれば良いですが、そうでなければ、宝が穢れて、いつの日か禍いが降りかかりますから』

「そこで、ウチの出番や! ウチが二人についていけばええねん」

「でも、ミズキは神殿にいないといけないんじゃ……?」

『そんなことはありませんよ。大神官たる私は長期間神殿を離れることは叶いませんが、いち神官であるミズキにはそのような縛りはありません。旅をし、各地で神の御心を示すのも、神官としての立派な役目ですから』

「それに、お婆ちゃん言うとったやん! あんたらと共に行きやーって。だから、ウチは二人についていくで! 回復術も使えるし、役に立ってみせるでー!」

 なんという急展開。だが、断る理由がないし、神官が加わってくれれば心強いことこの上ない。コージとフミトは頷き合った。

「よろしく。今更だけど、俺はコージだ」

「よろしくな! ミズキって呼ばせてもらうぜ! オレのことはフミトって呼んでくれ」

「コージ、フミト。改めてよろしゅうな!」

 こうして、コージ達のパーティにミズキが加わることとなった。



 三人となったパーティ一行は、今回のクエストの依頼者であるトシヤに会いに行った。男二人で訪れた時は、子連れの母親達に冷ややかな視線を向けられたが、神官姿のミズキがいるだけで態度が全く違った。母親も子供も近づいてきて、たわいもない会話をしてくれる。もっとも、会話の相手はほとんどミズキで、コージとフミトはついでに挨拶される程度の扱いだったが。ミズキがどれだけ世間の人たちに好かれているか目の当たりにすると同時に、人望を集められるだけの人間性を兼ね備えた優しい女性なのだと知った。

 そして、輪の中にトシヤが入ってきた。

『ミズキお姉ちゃん!』

「トシくん! 久しぶりやなあ」

『ぜんぜん来てくれないから、ボク、心配してたんだよ。おかえり!』

「ただいま。心配かけてごめんなあ。聞いたよ、トシくんがこのお兄ちゃんたちに、ウチのことを探してってお願いしてくれたんやって? ほんま優しい子や」

 ミズキはトシヤを抱き上げた。


『えへへ。ミズキお姉ちゃん、また遊んでくれる?』

「実はな、お姉ちゃん、お兄ちゃんたちと旅に出ることになってん。せやから、しばらく会えなくなるの。ごめんな」

『そんなあ……』

 あからさまにしょんぼりしている。コージ達はトシヤの楽しみを奪ってしまうようで申し訳なくて、何も言えなかった。

「そんな顔せんの。周り見てみい? 友達なったら遊べる子たっくさんおるやん! それにな、そのうちトシくんが遊んであげる立場になるねんで。トシくんから遊ぼって声かけてあげな。ね?」

『うん……。分かったあ』

「偉い偉い! しばらくは会えへんけど、その代わり、今日はたーくさん遊んだるよ!」

『ホント? やったあ!』

 ミズキに降ろしてもらったトシヤは、右手でコージの、左手でフミトの手を掴み、走り出した。


「え、ちょっと」

「ト、トシヤ!?」

『お兄ちゃんたち、あっちで遊ぼ! ボクが遊んだげる!』

 小さな手で男二人を従えながら、トシヤは走る。ミズキはその様子を面白そうに見ている。

 トシヤと滑り台や砂場で遊んでいるうちに、他の子たちも集まって来て、最終的には二十人くらいでわいわいと遊ぶことになった。子供のエネルギーに圧倒されつつも、無邪気な触れ合いに心が洗われていく。ミズキが身体を張って守ろうとした世界が、ここにあった。「クエスト完了!」のガイドが表示されたことにも気づかないまま、コージ達はトシヤとの時間を精一杯に楽しんだのだった。


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