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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
神官を追って
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神官を追って -6-

『さらばだ』


 鬼婆は小刀を振り上げた。振り下ろそうとしたその時、彼らの頭上の天井がパカリと開いた。

『なんじゃ!?』

 鬼婆が見上げたその場所から何かが滑り落ちる音と悲鳴が遠くから響いたかと思えば。

「うわああああああ!!」

 フミトが勢いよく振って来て鬼婆を蹴り飛ばし、コージの上にどすんと落ちた。


「ぐは!」

「あぎゃ!」

 とんでもない登場の仕方をしたフミトに、さすがの鬼婆も動揺している。

『な、なんじゃお前は!?』

「お前こそ何だよ!?」

 尻餅をついた格好のフミトが威勢よく聞き返す。姿を見れば、追い求めていた敵であると想像が付きそうなものだが、心臓に悪いアトラクションに落下イベントという恐怖を連続で味わったせいか、当初の目的が頭からすっぽ抜けているようだった。


「……おい、フミト」

「コージさん!? どこっすか?」

「お前が踏んでんだよ。どいてくれ」

 自分の尻の下からの声に、慌てて立ち上がってコージを助け起こした。

「コージさん! 大丈夫っすか!?」

「ああ。……サンキューな」

「いやいや、こちらこそっすよ! 穴に落とされたと思ったら急にここに落ちて、俺もう地面に叩きつけられて死ぬかと思ったっすよ」

 お互い死にそうになっていたところを救い合っていた。そう思うとコージは笑えてきたが、笑みがこぼれる理由はそれだけではない。


「お帰り、相棒」

 フミトに聞き取れない程度の声量で、そう言っておいた。


『仲間か』

 落ち着きを取り戻した鬼婆が再び小刀を向けてくる。

「フミト、こいつが鬼婆だ」

「ええ!? 封印解けてるじゃないっすか! じゃあ、神官は……?」

「石になってるが、生きてる」

『お前も仲良く石になるか? その小僧には効かなんだが、お前には効きそうだ』

 鬼婆は術で砂嵐を起こし、フミトに放った。すかさずコージがフミトの前に立ち、全て受けきる。

『邪魔な小僧め』

「気を付けろ、フミト。この砂を浴びると石になる。俺はカイミルさんから預かった腕輪のお陰で術が効かないが、フミトは危険だ」

「まじっすか!? チートだな」

「おまけに普通に強い。一人じゃ勝負にすらならなかったんだ」

『二人なら勝負になると言うのか』

「ああ。俺達二人が揃った状態で、負けたことはないからな」

「ここに来るまでにレベル上がって、なんか新しい技覚えてたし、負ける気しねーっす!!」

 離れ離れになっている間も戦闘をこなし(正確にはトロッコが勝手に倒していっただけなのだが)、成長したフミトをコージは頼もしく思う。仲間がいる、それだけで強くいられる。


『そのような幻想、打ち砕いてくれる』

 あっという間にコージの目の前に現れる。コージを踏みつけ、高く跳躍すると、後ろにいるフミトに刃を向けて飛び掛かる。

『まずは貴様から片づけてくれる』

 フミトは矢を番え、敵に狙いをつける。


 ― 破魔金(はまがね)の矢 ―


『なに!?』

 驚異的な反射神経で辛うじて避けた鬼婆だが、フミトへの攻撃はやめて距離を取った。

『なるほど。今の技は脅威じゃな』

「くそ、新技でソッコーで決めようと思ったのに。空中で避けるとか、どうなってんだこいつは」


 ― 氷縛(ひょうばく)の矢 ―


 フミトは間髪入れずに技を放つ。やはり避けられてしまい、地面に刺さった矢の周りが凍り付くだけで終わる。

「何だその動き。ほんとにババアか、こいつは」

 悪態をつくフミトの猛攻のお陰で、コージは剣を回収することができた。氷縛の矢を連発しているせいで、地面や壁のあちこちに氷が張っている。敵は回避のみで反撃をしていない。フミトの放った新技は敵にとって危険なようで、不用意にフミトに近づけないでいるようだ。

「頼もしいな、まったく」

『むっ!?』

 鬼婆が空中に退避したタイミングを狙い、コージは吹き矢を放った。さすがに術を繰り出す余裕は無かったようで、身体を反らして避けていた。元とはいえ、鬼婆になる前は人間の老婆だったというのが信じられない動きをする。

『小賢しいことをする』

 空中で一回転して着地した鬼婆だが、着地点にはフミトの氷縛の矢でできた氷があり、そこを踏んだ鬼婆の左足が凍り付いた。氷縛の矢そのものが当たらなくても、氷に触れるだけで効力を発揮する技だったのだ。

『なに!?』

 この機を逃す手は無い。

「フミト、さっきの技の用意!」

「ラジャっす!」


 ― 瞬斬剣 ―


 コージが風のように駆ける。鬼婆はその場で小刀を構え、防御態勢をとった。――コージの狙い通りに。コージは構える鬼婆の横を通り過ぎた。

『どこを狙っておる』

「狙い通りさ」

 コージは通り過ぎたのち鬼婆の背後に接近し、羽交い絞めにした。

『な……放せ!』

「嫌だね。フミト! あの技を出せ!」

『な、何を言っておる!? それでは貴様もただでは済まんぞ!』

 鬼婆は精一杯に暴れるが、両腕を拘束されている上に片足が凍り付いている状態では、さすがに逃れることはできない。

「ご心配どうも。あんたを倒すには、これが確実なんでね。フミト、頼む」

「……コージさん」

「心配するな、信じてくれ。俺も信じてるから」

「……了解っす」

『き、貴様ら、正気か!?』


 ――発狂して鬼婆になった老婆に精神状態を心配されるとはな。

 笑い話のようだが、コージは本気だった。いくら氷漬けになっても、その気になれば砕いて呪縛から逃げられる。実際、草原の主であるキョトーオは自ら氷を砕いて自由になり、フミトを襲ったのだ。下手に攻撃しても弾かれてしまう。それなら、コージは動きを封じることに専念し、攻撃はフミトに任せるのがベストだ。

「あんたに恨みはねえし、同情するとこもあるけど。人を石に変えちまうようなヤベェ奴をそのままにしておけないからな」

『……危険因子は葬るということか。どれだけ時が経っても、人間の傲慢さは変わらぬな。よい。ならば矢を放つがよい』

 鬼婆は抵抗をやめた。石になったミズキを見やって目を細めると、視線を戻してフミトを睨みつけた。

『さあ、やるがよい』

「言われなくても!」


 ― 破魔金の矢 ―


 金色に輝く矢が、ハレー彗星のように光の尾を引きながら鬼婆に向かい、そして胸を貫いた。その衝撃で、コージもろとも後ろに飛ばされた。


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