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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
はじめてのボス戦
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はじめてのボス戦 -4-

 ハンダ荒地を抜け、アラハド草原に差し掛かったあたりで、フミトが足を止めた。


「ここいらで腹ごしらえしません? そろそろ腹減ってきたっす」

「ここでか……?」


 隠れる場所も無い無防備な場所。見晴らしはいいが、敵が現れる可能性を考えると、どうしても不安になる。そんなコージの懸念をよそに、フミトは弓に矢を番えて地面に向ける。


避魔(ひま)の矢!!」


 フミトの放った矢が地面に刺さると、そこからドーム状に不思議な空間が広がっていき、それはやがて他者を寄せ付けない結界となった。


「こ……これは……?」

「オレのスキルっす! どうっすか!?」


 コージは結界を見渡して息を呑んだ。まるで外界から切り離されたようなその空間の中は、神聖な雰囲気すら漂っていた。


「避魔の矢はクリーチャーを寄せ付けない結界を作るスキルっす! オレ、レベル11になったんで、このスキルが使えるようになりました!」

「スキル?」

「ほら、よくあるじゃないっすか。レベルが上がると新しい技を覚えるってやつ。あれっすよ!」

「そんなのがあるのか……。全然知らなかった」

「コージさんは、まだスキル無いんすかね? プロフィール見てます?」

「いや……。そういうのって見ないと分からないのか?」

「……コージさん、ヤバいっすね」


 フミトに苦笑されてしまった。居心地の悪さを感じながらも、プロフィールを開いてみる。すると、「スキル・術技」の項目があり、確認すると「瞬斬剣」という技を使えるようになっていた。


「お! なんかあるぞ!」

「ちょっと押して説明読んでください」


 術技名はリンクになっていて、タッチしてみると内容の説明が表示された。


――――――――――――――――――――

【瞬斬剣】

目にも止まらぬ速さで敵を斬り付ける技

※戦闘中のみ使用可能

――――――――――――――――――――


 術技の説明を読んだら、どのように技を出したら良いのかが何となく頭に浮かんだ。


「かっけー! コージさん、次の戦いの時に使ってくださいよー!」

「お、おう……。すごいな。説明を読んだら、技の出し方が何となく分かった」

「オレも同じっす! 覚えたスキルの説明を読むことが、実際に使えるようになるトリガーっぽいっすね」

「スキルや技を覚えても、説明を読まないと使えるようにならないのか。そうなると、しょっちゅうプロフィールを確認しないといけなくなるな」

「レベルが上がったら要チェックっすね」


 レベルが上がればガイドが表示される。できればそのタイミングでどんな技を覚えたかが分かると良いのだが。何はともあれ、フミトのスキルの効果で安全な場所ができたので、安心して昼食をとれる。二人は街で買ったかつ丼とお茶を出して食べ始めた。食事の最中にアイバットが接近したが、コージ達に気づかずに結界の傍を通り過ぎて行った。結界の中に居れば、外からは見えもしなくなっていそうだった。


「このスキルすごいな」

「オレもびっくりっす! 戦闘ではコージさん頼りなことが多かったんで、せめてサポートくらいはできないとって思ってたんすよ。役に立ててよかったっす!」


 そう言ってかつ丼を頬張る。コージはフミトを足手まといだなどと思ったことは無かったが、フミトの方は思うところがあったようだ。普段の言動だけでは、真意までは汲み取れない。本音は言葉にしないとだめだと感じた。


「俺はフミトがパーティを組んでくれて良かったと思ってるよ。フミトからいろいろ教わった。セーブポイントのこととか、現実とのリンクとか、ルナのシステムの使いこなし方とか。今だって、フミトが教えてくれなきゃ、術技の存在にも気付けなかった。フミトには普段山ほど助けられてるんだから、戦闘の時くらいはかっこつけさせてくれよ」


 これがコージの本音だった。楽しくもない現実世界の社会的立場から脱却する勇気をくれ、仮想世界での生き方を教えてくれたのは、他でもないフミトだ。感謝こそすれ、邪魔者だなどと思うものか。


「……ざっす」


 照れ隠しなのか、フミトは身体ごと横に向けてかつ丼をかき込んだ。本音は伝わっただろうか。それとも、調子の良い社交辞令だと思われてしまっただろうか。どちらにせよ、コージの本音は正面からぶつけた。後は信じてもらう他ない。コージも黙ってかつ丼を食べ進めていった。

 食事が済んで人心地が付いた二人は、結界を解いて活動を再開した。いよいよ主が出るアラハド草原だ。改めて気を引き締めて、草原へと足を進めた。


「気を付けよう。いつどこから来るのか、分からないからな」

「けど、来るかどうかも分からないんすよね……。ずっと気を張ってたら疲れちまう。疲れた隙を狙って襲ってくるかも」

「尤もだな。無闇に歩き回るのもしんどいし……。水質調査の方を先に片付けるのはどうだ? 草原を抜けた先が湖だって言ってたし、帰りがてら探し回る方が効率が良いんじゃないか?」

「早く敵を討ってやりたいっすけど……了解っす」


 警戒しつつ、草原を進んだ。うっすらとしか草が生えていないところ。膝や腰の高さまである草が生い茂る草むら。灌木がぽつぽつと生えているような場所など、様々な景色の中を歩いた。草むらは特に注意して歩いたが、結局敵は現れず、過去に戦闘したことのあるザコ敵が現れただけだった。そして、草原を抜け、岩山が並ぶ麓に到着してしまった。


「草原の主、出て来なかったっすね」

「運よく遭遇しなかっただけなのか、レベル以外に条件があるのか……。とりあえず、先に湖に向かおう」


 草原とは打って変わって岩石砂漠のような風景をしばし歩くと、聞いていた通りの赤い色をした湖が見えてきた。鼻をつく薬品のにおいに、思わず咳き込んでしまう。とにかくひどい空気だった。


「おえっ……。ニオイ、きっつぅ~」


 フミトが両手で鼻と口を覆っている。コージも同じだ。こんな場所には、一秒でも長く居たくない。


「……早く水を汲んで、ここを離れよう」

「賛成っす」


 柄杓を呼び出し、腕を伸ばしてなるべく湖に近づかないようにして水を汲む。もちろん軍手着用だ。コテツの店で作業着と軍手を装備品として提供された時は不安しかなかったが、まさか軍手が役立つときが来ようとは。慎重にサンプリングしても、柄杓から容器に移し替える時に零れたり、水が跳ねたりして手の皮膚に付着するかもしれない。素手で作業するよりは安心感が全く違う。


「よし……採取した」

「あと九回もやるんすか、これ……」


 気が進まないが、仕方がない。なるべく離れた異なる十ヵ所から採取するのが依頼だ。幸い、対岸がはっきり見えるくらいの湖で、そこまで大きくははない。一周してもそれほど時間はかからない。それでもこのニオイをずっと我慢しなければいけないことには変わりないのだが。

 苦肉の策として、移動するときは湖からなるべく離れて歩いて、採取するときだけ湖に近づくという方法を取った。ずっと湖の周りを歩いていると、ニオイで鼻と頭がやられてしまいそうだったからだ。

 ニオイに苦しめられながらも、半分の五ヵ所目の採取が終わった。一ヵ所目の採取地点から、湖をほぼ半周した形だ。アマト鉱山が間近に見え、鉱山からの排水が小川に垂れ流されていた。本来ならば下流へと流れるはずの小川が堰き止められてできた人造湖がタスク湖なのだ。川に架かった橋を渡り、六ヶ所目の地点へと向かう。湖に近づくと、薬品臭が強くなる。やはり、慣れない。


「あと半分だ、ちゃっちゃと済ませよう」

「まだ半分っすか……」


 フミトが背後でぼやいているが、受けてしまったものは仕方がない。コージが腕を伸ばして柄杓を水面に付けた。コポコポと空気が小さな泡となって浮かんできた。掬った水を容器に入れ、六回目の採取が完了した。一刻も早く湖から離れよう。


「コージさん! 下がって!」


 背後からフミトが叫ぶのと、湖から何者かが飛び出してくるのは同時だった。「クリーチャーが現れた!」というガイドが表示された。


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