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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
はじめてのボス戦
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はじめてのボス戦 -2-

「セレーネ!!」


 コージは顔を赤くして叫んだ。すると、以前と同様に羽が付いたフリフリの衣装を着たセレーネが空から舞い降りてきた。


『ハーイ、コージ。久しぶりだね。楽しんでるかな? フミトも一緒だね!』

「何で俺は瞬間移動できないんだ!」

『どうしたの、そんなに大声出して。コージらしくないよ?』

「コージさん、怒ったってセレーネはゲームのキャラクターなんすから」


 恥ずかしさのあまり八つ当たりのようなことをしてしまった。挙句にフミトにたしなめられる始末。コージはベクトルの違う恥ずかしさを感じ、深呼吸して気持ちを落ち着けた。ひとつ咳ばらいをして、問いかける。


「フミトはコーディネイトと言えば俺のところまで瞬間移動できたのに、何で俺はフミトのところに行けないのか教えてくれ」

『コージが戦士だからだよ。コーディネイトは同じパーティの仲間のところに一瞬で移動できる魔法だけど、アーチャー、魔導士、神官みたいな戦士系以外の職業しか使えないんだ。でも、呪文を使える人に触れていれば、一緒に移動できるよ。コージは戦士だから、コーディネイトが使える他の人につかまって、連れて行ってもらってね』


 ということらしい。不遇の戦士であるコージが、ただただ黒歴史を作っただけになってしまった。


「ドンマイっす」

『コージ、気を落とさないでね』


 ステレオで慰めてくれるな。余計に虚しくなる。


『他に聞きたいことはある? 久しぶりに会えたから、もっと話したいな』


 アイドルさながらのリップサービスだ。呼び出しておいて八つ当たりだけで返すのも何だか申し訳ないのだが、別段聞きたいことがない。何か疑問に思っていたことは無いかと思い返すと、ここに来た目的が何だったかと、そこで考えを巡らせたことがあったことを思い出した。


「弁当って時間が経つと腐るのか」

「どういう質問っすかそれ」


 フミトに先にツッコまれた。自分でもアホな質問していると思ったが、それでもセレーネはニコニコしながら答えてくれた。


『ここでは食べ物もアームヘルパーの中にしまっておけるんだ。だから、腐らないよ! 温かいものをしまっておけば温かい状態で、冷たいものをしまっておけば冷たい状態で出せるんだ。せっかくのご飯が冷めちゃったら美味しくないもんね。でも心配しなくて大丈夫だよ! グルメなコージも安心だね!』


 別にグルメというわけではないのだが、なかなか良い情報を聞けた。温かい弁当も冷たいジュースも、時間を置いてもそのままの状態で口にできるということだ。フミトもその情報は知らなかったようで、「へぇー」と驚嘆している。


『また何か困ったら、いつでも呼んでね。じゃ、頑張ってね』


 コージ達の用が済んだと分かると、セレーネはふわふわと飛んで、光になって消えていった。


「メシの保存には困らなそうっすね」

「だな。もともと街に来たのは、昼飯の買い出しをするつもりだったからだ。屯所の食堂じゃ昼は食えないしな」

「なーるほどっす! コージさんさっすがあ」


 そう言ってサムズアップしてくる。後輩力の高い奴だ。クエストについては、フミトは反対しなかった(それどころかノリノリだった)ので、どちらも受注した。ひとまず水質調査をメインクエストにして、依頼主のもとへ向かうことにした。水質研究所なる場所の矢印が街の遠くに見える。歩くとなるとなかなかな距離だが、バスを使えばクエスト関連の場所にはだいたい停まってくれると知った今なら怖くは無い。二人はバス移動で向かうことで合意した。その前に。


「昼飯何か買ってこう。フミトは何が良い?」

「うーん。牛……」

「牛丼以外で」

「なんでっすか!?」


 理不尽な条件を突き付けられたフミトは、しぶしぶかつ丼で我慢することになった。チェーン店でかつ丼とお茶をテイクアウトし、冷めないうちにそれぞれのアームヘルパーに収納した。


「おやつも買ってきましょうよ!」

「遠足かよ」

「いいじゃないっすかー! 口が寂しいっすよ~」


 そう駄々をこねるフミトに付き合い、スーパーに入る。消費期限の心配をしなくても良いということで、数日かけても食いきれない量のスナックやキャンディなどを大人買いした。これから依頼や戦闘をこなそうとしているパーティとは到底思えない。


「これで食いもんの心配は無いっすね!」

「ほとんどおやつで、弁当は一食分しかないけどな」

「スーパー戻って買い足します?」


 まるでバーベキューに向かう最中のような会話だ。コージは脱力して首を横に振った。寄り道をしてしまったが、今度こそ依頼主のいる水質研究所なる場所へと向かうのだった。


 便利なことに、バスは水質研究所前で降ろしてくれた。クエストをこなすのに大変便利でありがたい。着いたその場所は、まさに、ザ・研究所という印象だった。広い敷地に研究棟が並び、最も大きく立派なガラス張りのビルが最奥に建っている。緑が多めな敷地の中央には噴水があり、そこから水路を流れた水が緑色の池を作っている。敷地に入る門の前のバス停で降りた二人だったが、門を通ってから建物に到着するまでの道のりがまた遠かった。空の矢印が差す場所は「水質環境研究棟」なる場所。コージ達は受付に依頼を受注した旨を伝え、依頼者のいる五階の研究室に向かった。


『こんにちは。ご依頼を受けてくださった方でしょうか?』


 研究室に着くと、白衣を着た黒縁眼鏡の男性が応対してくれた。コージ達が移動している間に受付から連絡が行っていたようで、二人の到着を待ってくれていたのだった。


「はい。私がコージで、こちらはフミトです」

「どーもっす!」

『ご丁寧にありがとうございます。僕は田内透(たうち とおる)といいます。立ち話も何ですから、どうぞこちらにお掛けください』


 田内に促されてソファーに失礼し、彼もまた座ってお互いに向かい合った。


『この度は依頼を受けていただいてありがとうございます。早速ですが、依頼についてご説明いたします。この街の北にハンダ荒地やアラハド草原がありますが、北東方向に進んで草原を抜けると、岩山に囲まれた場所にタスク湖という湖があります。その湖の水を採取して持ち帰っていただきたいのです。自分で行ければ良いのですが、僕は戦えないので、ご依頼した次第です』


 そう言うと、テーブルに細長い透明な容器を十本置いた。


『サンプリング容器です。一ヵ所だけだとサンプルとしては弱いので、お手数ですが湖の異なる十ヵ所から採取をお願いします。可能な限り、採取場所は離れていると助かります。依頼としては以上ですが、何かご質問はありますか?』

「水を汲んでくればいいってことっすよね。それは分かったんすけど、わざわざ湖の水なんて調べてどうするんすか?」

『すぐ近くにアマト鉱山という場所がありまして、昔はそこで硫黄や黄鉄鉱を採掘していました。廃坑から流れ出た汚染廃水が下流に流れてしまわないように、流れをせき止めてできたのがタスク湖というわけです。アマト鉱山は今はもう閉山していますが、廃水はいまだに流れ込んでいます。汚染水を貯め置くだけでは環境が破壊される一方なので、毒性を中和する処理をしており、定期的に確認が必要なのです』

「じゃあ、水を汲むにしても注意が必要ですね」

『はい。決して直接触れるようなことはせず、柄杓(ひしゃく)などを使ってください。まあ、薬品臭のする赤い湖の水ですから、手で掬おうとは思わないでしょうけど』

「湖の色、赤いんすか!?」

『ええ。しかも湖の底はヘドロですから、誤って落ちないようにお気を付けください』


 環境問題に関する調査依頼か。現実ともリンクしそうな話だ。正式に依頼を受け、コージ達は研究所を後にした。帰り際、百円ショップで柄杓を買ってアームヘルパーに収納しておいた。








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