はじめてのボス戦 -1-
朝からルナへと旅経つ。もう何も縛られるものは無い。平日だろうが夜だろうが、自由に動けるのだ。待機所で又五郎に会い、フミトが来ていないか聞くと、屯所の一階にある大部屋の寝室に泊まっているらしい。様子を見に行ってみると、下着一枚の姿で大の字になっているフミトがいた。布団を蹴飛ばしてぐっすり寝ている。あられもない姿に噴き出してしまったが、布団をかけ直しておいた。急ぎの旅でもないのだ、ゆっくり寝かせておこう。
食堂で腹ごしらえをして、街へ向かう。屯所の食堂では昼飯は出してくれないから、弁当を用意しておかないといけない。街へ行けばコンビニでも弁当屋でも何でもある。自分の住んでいる街のコピーみたいなものだから、どこに何が売っているかもわかる。今買うと昼までには冷めてしまうから、冷めても食えるものを用意しないとな。牛丼とかはダメだろうな。……仮想世界でも弁当が腐ったりするんだろうか。
買い出しに向かう前に、掲示板も寄っていく。屯所から街に向かうバスは便利な場所に停まってくれて、屯所から乗って掲示板近くで降りることもできるのだ。RPGゲームでは、自転車だったり空飛ぶ絨毯だったり、プレイヤーの移動を助けてくれる便利な道具が登場する。しかも、ストーリーを進めるに従ってさらに便利なものが登場してくるのだ。ルナでの初期の便利な移動手段がバスということなのだろう。もっと早く気付けばよかった。
何か貼り出していないかと思って見てみると、初めて見る依頼が二件あった。
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【Lv.16以上推奨】クエスト内容:タスク湖の水質調査
定期的にタスク湖の水質を調査しております。ただ、道中はクリーチャーがいて危険ですので、我々調査員は行けません。湖の水を汲んできていただけないでしょうか? まずは水質研究所までお越しください。
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【Lv.10~15の方限定】クエスト内容:父の敵
アラハド草原には主と呼ばれる存在がいて、父はそいつに殺されました。どうか、アラハド草原の主を倒して父の敵をとってください!
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それぞれ手伝いクエストと戦闘クエストだが、これまでとは違う点がひとつ。レベルの指定があることだ。プロフィールを確認してみると、コージはレベル10。戦闘クエストは受注可能だが、調査の方はレベルが足りない。あくまでも推奨だから、受注できないことは無いのだろうが……。
レベルの条件があるということは、これまでのクエストよりも危険度が上がったということだろうか。戦闘クエストの方はずいぶん限定的な条件だが、「アラハド草原の主」なる存在が仄めかされている。コージは受注をためらった。今は自分一人ではなく、フミトも一緒なのだ。自分だけの判断で勝手はできない。受注はせずにフミトに相談して決めよう。
踵を返そうとしたその時、ガイドが表示された。「フミトから着信中です」となっている。その下に、「応答」と「拒否」のボタンがある。電話のようだ。こんな機能まであるとは。コージは「応答」を押した。
(あ! コージさん! おはようーっす!)
朝から元気な挨拶で感心だ。それにしても、電話機も無ければイヤフォンもしていないのに、まるで電話で通話しているような感覚だ。
「おはよう。電話なんてできるんだな。知らなかったよ」
(オレも昨日知ったんすよ! お互い別行動することだってあるし、コージさんと連絡とる方法ねえかなって思って、セレーネ呼んでいろいろ訊いたんす。そしたら電話の機能を教えてくれたんすよ!)
セレーネ。ルナに初めてログインしたときに、ルナの説明をして、アカウント設定を手伝ってくれた案内人だ。あいつ、呼べるのか。そういえば、別れ際に、名前を呼んだら駆けつける的なことを言っていたような気もする。
(又五郎さんに、コージさんがこっちに来てたって聞いたんで、連絡してみました! コージさん、いまどこに居ます?)
「街だよ。ちょうどよかった、フミトに相談したいことがあるんだ」
今しがた掲示板で見たクエストの件を伝えた。フミトが反対するようなら受注しないつもり……だったのだが。
(主!? 何すかそれー! 盛り上がってきたじゃないすかー!)
ハイテンションフミトになった。どうやら乗り気のようだ。
「受注していいか?」
(もちろんっす! 確認したら、オレのレベルは11なんで、戦闘クエスト受けられます! 両方受けて稼ぎましょ! オレも今から街に行きます!)
「街の掲示板の場所は分かる? そこにいるんだけど」
(分かるっす! それじゃ、ちょっと待っててください!)
「オッケー。近くに停留所があって、バスに乗ったら近くで降ろしてくれ……」
コージが言い終わらないうちに、目の前に突然人型の光が現れ、
「お待たせっす!」
「え!?」
「瞬間移動してきちゃいましたっ」
フミトがVサインを向けてきたのだった。
「コージさん驚きすぎっすよ!」
「いや、驚かないわけないだろ……。どうやって来たんだ?」
「瞬間移動っす! パーティを組むと、離れていても一瞬で合流できるんす! これもセレーネから聞きました!」
「まじか……」
だんだん現実離れな仕様が明るみになってくるな。現実じゃないんだから、何でもありといえばありなのだろうが。どうやったのだろう。
「コーディネイト・コージ!」
フミトが呪文のような言葉を発した瞬間、フミトの姿が光となってコージの目の前に移動し、やがて光は再びフミトの姿となった。
「こう言えば、相手の目の前に瞬間移動できるらしいっすよ!」
「すげえ……」
バスで移動してきた自分が何だか馬鹿みたいに思えてくる。それはそうと、試してみたい。いい歳して恥ずかしくないのかと言われそうだが、試してみたい。
「コーディネイト・フミト」
恥を忍んで呟いてみた。そして、何も起こらなかった。
「……」
「あれ? 何も起きないっすね。オレはこの距離にいても数センチだけ瞬間移動したのに」
恥ずかしい。三十路のおっさんが呪文を唱えて、しかも何も起きないというのは、恥に恥を重ねたみたいで居たたまれない。頭を抱えて座り込んだコージを、誰が責められようか。
「あははは! コージさんかわいい~」
フミトに大笑いされる始末だ。頼むから何も言わないでくれ。




