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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
チュートリアル
3/68

チュートリアル -1-

 視界が一気に白くなり、晃司は思わず目を瞑った。恐る恐る薄目を開けると、先程の明るさは無くなり、それどころかヘルメット装着時の薄暗さも無くなり、慣れ親しんだ自分の部屋が見えた。

「え? あれ? どうなってるんだ」

 ヘルメットを装着している感触が無い。右腕のアームヘルパーの感触もない。頭部へ手を伸ばしてみたものの、やはりヘルメットは無く、自分の髪の毛を掴むだけだった。右腕を見ても何も装着していない。一瞬、夢を見ているのかとも思ったが、左腕にはしっかりとアームヘルパーが装着されている。VRヘルメットと右腕のアームヘルパーだけが忽然と消えてしまったのだ。呆気にとられている晃司の目の前に、天井から羽の生えた美少女が蝶のようにひらひらと舞い降りてきた。

「うわっ!」

 後ずさった晃司に構わず、彼女はにっこりとほほ笑む。


『ルナの世界へようこそ!私は案内人のセレーネ。これからよろしくね!』


 アイドルに、羽が付いたフリフリの衣装を着せたような見た目の少女は、床の少し上を浮いて、ふわふわと上下しながら、同じ目線の晃司とハグでもするかのように両腕を大きく広げている。


『まずは、あなたのお名前を教えてね! 本名でもニックネームでもオッケーだよ!』


 驚きの連続で置いてけぼりだった晃司の頭が、ようやく追いついてきた。どうやら、無事にゲームを始められたようだ。晃司の知っているゲームとは全く異なる、それどころか見たことも聞いたこともないような技術の結晶だ。いつの間に世の中はここまで進んでいたのだろう。装置を身に付けている感覚すら無くなるとは。驚きの次は、現代の技術力に感心してしまった。


『ねえ、あなたのお名前は? 教えてほしいな。本名でもニックネームでもオッケーだよ!』


 黙りこくったままの晃司に、セレーネが問いかける。ルナの世界に感動するあまり、彼女の問いかけを無視してしまっていた。そういえば、初回はニックネームとアバターを設定すると説明書に書いてあった。しかし、どうすれば良いのだろう。普通のゲームの初期設定なら、文字を入力すれば済むのだが、入力するためのキーボードなどどこにも無い。左腕のアームヘルパーのボタンをポチポチしてみたが、何も起きない。晃司はひとまず口頭で答えてみることにした。

「えっと……。コージ。カタカナで、コージ」

 何のひねりもなく本名から取ってしまったが、ニックネームなんてそんなものだろう。反応を待ってみると、セレーネは胸の前で手を組んで顔を輝かせた。


『コージ。あなたの名前は、コージでいいかしら?』


 どうやら、口頭で名乗れば良いようだ。晃司は肯定の返事をした。


『コージ、改めてよろしくね!』


 嬉しそうに言うと、晃司のまわりを一周した。落ち着きのない案内人だ。


『次は、アバターの設定だよ! アバターは、ルナの中でのコージの容姿を決めるものだよ。他のプレイヤーにはコージがアバターの姿で見えるようになるんだ! 今のコージの姿をそのままアバターにしてもいいし、好きな姿に変えることもできるよ! カッコいいイケメンにも、可愛い少年にも、渋いイケオジにもなれちゃうよ! コージはどんな姿になりたいかなー? 試しに、ここにアバターを出してみるから、考えてみてね!』


 セレーネが晃司の視界の左端に避けて手案内のジェスチャーをすると、カッコいいイケメンと、可愛い少年と、渋いイケオジが現れた。また度肝を抜かれた。目の前に急に現れたことにも驚いたが、何より彼らは本物の人間そのものだったのだ。カッコいいイケメンは腕組みをし、可愛い少年は笑顔でピースし、イケオジは渋く顎に手を当てている。その仕草が自然で、たまにする瞬きがまた彼らから生々しさを感じさせていた。アバターというから、てっきりイラストベースの二等身キャラクターを選ぶものと思っていたが、ここまでリアルだとは。


『この中から選んでもいいし、体型や顔を細かく指定してオリジナルキャラを作ることもできるよ! コージはどんな姿になるのかなー? 私楽しみ!』


 イケメンと少年とイケオジが銘々にアピールする中、晃司は自宅に居ながら場違いな気分を味わっていた。モデルが並ぶステージの上に、普通のアラサーが迷い込んだのと変わらない。三者とも今の自分とかけ離れていて、誰を選んでも恥ずかしい。試しに、彼らを自分に重ねてもみたが。腕を組んでも決まらない。笑顔でピースしたら痛々しい。顎に手を当てても渋くはならず、中二病を引き摺って大きくなったような残念なイメージにしかならなかった。

「俺はこのままの姿でいい……」

 キャラクター達が消え、セレーナが確認する。


『コージは今のままでも素敵だから、それもいいかもね! じゃあ、今の姿をアバターにしちゃっていい?』


 適当な慰めは、却って人を傷つけるものだと言ってやりたい。晃司は嘆息して頷いた。


『オッケー! それじゃ、ニックネームとアバター決定だね!』


 拍手する彼女。晃司との温度差は開く一方だ。


『じゃあ、ルナで過ごす上で知っておいてほしいことを説明するね! もし忘れちゃっても、また教えてあげるから心配しないでね』


『最初に、ルナを始めるときの大切な話。いまコージはアバターになってルナの中にいるけど、本物のコージは眠っている状態なんだ。だから、ルナを始めるときは必ず安全なところにいてね』


 おいおい。もう始まってるのに、今更それを言うか。確かに、説明書にもそんな事が書いてあったとは思うが。


『お外でやっちゃだめだよ。道路の真ん中で寝ちゃったら、車に轢かれちゃうよ』


 人を迷惑系動画投稿者みたいに言うな。あんな装置を付けた状態で外を出歩くのだって恥ずかしいってのに。


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