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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
パーティ結成
26/68

パーティ結成 -6-

「すげー! 倒しちまった!!」


 フミトが興奮しながら走ってきて、コージの肩を叩いた。


「コージさん、すげえ! あのうるさい声を出されても、普通に近づいてなかったすか!?」


 コージは両耳から何かを引っ張り出して、フミトに見せた。それは、マンドラゴラが吐き出した種だった。


「こいつを耳栓代わりにしたんだ。耳の穴にちょうどいいサイズだったからな」

「まじすか!? 機転効き過ぎてやべえ!」

「フミトのお陰だよ。耳栓の話をしてくれたから、大量に転がってる種を見て、こいつで耳を塞ごうと思ったんだ。それより、せっかくアイテムがドロップしたのに、俺のになっちゃった」

「そんなんいいっすよ! 倒したのコージさんだし。気にせず取っといてくださいっす!」

「じゃあ、遠慮なく。それより、今度こそ屯所まで戻ろう。かなり時間を食ったし」

「了解っす!」


 二人は屯所へと戻った。ゲームのようにターン制で戦えるわけじゃなく、直接攻撃以外にも思わぬ妨害手段があるもんだな、と思ったコージだった。屯所にいた平八に報告して報酬を貰い、待機所で体力回復をするため休息を取った。

 赤くなっていく空を見ながら、二人は今後のことを話し合っていた。


「オレらのコンビ最強だし、もっと強い敵がいるところに行ってもいいんじゃないすかね?」

「グリーンワームをどれだけ倒しても経験値も金も大して稼げないし、敵を変えるのはありだな。でも、俺達は平八さんほど強いわけじゃないから、相手は選ばないと」

「確か、夜は強い敵が出てくるんすよね。オレはまだ夜の戦闘経験が無いんすけど。今夜ちょっと行ってみません?」


 今さっき戦いから戻ったというのに、元気なことだ。三十歳を過ぎて、夜更かしする元気がなくなってきているという自覚がある自分が悲しくなる。体力の差の問題はさておき、コージは別のクエストを片付けてしまいたい。


「俺は今日は街に戻るよ。素材調達の依頼を受けていて、さっき手に入れたマンドラゴラの根を薬屋に届けたいんだ」

「そっかあ、残念。じゃあ、明日はどうです?」

「仕事終わりだから遅くなるよ? それに、ある程度で切り上げて帰らないと翌日の仕事に差し障るからな」

「え! コージさん働いてるんすか!?」

「いくらなんでもド失礼すぎるだろ」


 こいつは今の今まで人のことを無職だと思っていたのか。そう憤慨したコージだったが、どうやらそういう意味ではなかったらしい。


「オレも友達も……友達つってもネットで知り合った顔もしらない奴らっすけど、みんな仕事辞めてルナしてるんすよ。ルナで金が稼げるんなら、仕事してるのと変わらないっすもん。だから、普通に仕事して、ルナもやってるってすげーなって思って」


 逆にコージが驚いてしまった。フミトやその友人たちが仕事を辞めてしまっていることではなく、その価値観が、コージには無かったものだったからだ。会社に勤めるのが当たり前で、副業するならアルバイトでもするしかない、それ以外の方法は思いつかない。ウェブデザイナーやプログラマーのような個人で稼げるスキルは無く、株や投資に詳しいわけでもない。物書きや動画配信のような不確実な方法は足踏みしてしまう。コージのような人間は、結局、会社勤めをして食いぶちを稼ぐしかない。そう思っていた。


 だが、それ以外にも生きる方法があるのだと知った。今自分がいるルナが、まさにその場所なのだ。知ってなお、会社勤めという確実な方法にしがみつくのが当然だと思っていた自分に気づいた。ルナで金が稼げるんなら、仕事してるのと変わらない――フミトの言葉が妙に耳に残った。


「コージさん? あれ、怒ってます……?」


 考え込んでいたせいで黙っていただけだが、コージが怒ったのかと気にして恐る恐ると言った感じで訊いてきた。


「いや、そうじゃないよ。フミトの思い切りの良さは見習わないとなって思ってた。俺は会社勤めが常識だと思って、そのくせ毎日を悶々として生きてたからさ」

「普通じゃないっすかね? オレ、まともに働いたこと無くて、ずっとフリーターだったんすよ。面接行ったら、君を雇ってうちにどういうメリットがあるのか説明しろ、みたいなこと言われて、何か馬鹿らしくなって。それならバイトでいいやーって。でも、毎日クタクタになるまで働いても、月収十万行けば良い方なんすよね。でも、ルナなら遊びながら金が稼げるじゃないっすか。そんなに大儲けしてるわけじゃないけど、バイトしてたって変わんないんだから、ルナ一本でよくね? って思って辞めちゃいました。じゃないと一週間もぶっ続けでプレイできないっしょ?」


 そう言って笑うフミトは、吹っ切れてしがらみを断ち切った、すっきりした顔をしていた。


「じゃあ、また明日の夜っすね。ここに居ると思うんで、声かけてください! それじゃ俺は先に家に帰りますね。お疲れっす!」


 フミトは魔法陣からログアウトしていった。急に静かになった空間でひとつため息をついて、コージは立ち上がった。動かないと、一晩中悩んでしまいそうだった。

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