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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
パーティ結成
22/68

パーティ結成 -2-

 待機所に降りて外に出ようとした時、奥が強く光ったかと思えば、そこから急に若い男が現れた。団員たちはみんな出払ってしまっていて、人の気配など無かったはず。コージは心臓が止まるかと思うほどに驚いたが、驚きすぎて声も出ずに立ち尽くしていた。そんなコージに気づいた男は、コージの様子など気にもせずに話しかけてきた。


「おはよーっす!」

 底抜けに明るい挨拶をしてきたラフな格好の茶髪の青年は、背中の弓を揺らしながら寄ってきた。

「お、おはよう……」

「これから狩りっすかー?」


 コージが一歩引けば、一歩近づいてくる。人懐こいというか物怖じしないというか、とにかくコージと違って陽キャなのは良く伝わってきた。陰キャのコージとは属性が全く違う青年と知り合いであるはずはないのだが、どこかで会ったような気がする。どこで会ったのかと記憶を辿っている間も、青年はお喋りが止まらない。


「オレはこの辺りの敵を狩ってるんすけど、あんまり稼げないし微妙っすね。じゃあもっと強い敵がいるとこ行けよって話なんすけど、アーチャーだから接近戦苦手だし、同時に何匹も相手できないし、一人だと限界あるんすよね。せっかく転職してガッポリ稼ごうと思ったのになー。占いなんて当てになんねーなー」

 占いというワードで思い出した。サチコのいた転職屋だ。リョウの旅立ちの手伝いをするのに、転職屋に行ったとき、先客がいた。それが彼だ。ハイテンションで飛び出してきた彼とすれ違った。まさかこんな所で再会するとは。


「誰かパーティ組んでくんねーかなって思ってるんすけど、お兄さんもう出かけちゃうんすよね?  一緒に行ったら、オレ、朝飯食えなくなるもんなぁ……。腹減りすぎて死ぬしなぁ。ルナの中でも腹減るとか、テクノロジーってすげぇ! みたいな?」

 相変わらず一人で喋っている彼を止めて、ようやくコージが話す番になる。今、間違いなくルナという単語を口にした。

「ちょっと待った。君はもしかして、ルナのプレイヤーなの?」

 青年はきょとんとして頷く。

「はい。ってか、どこからどう見てもそうでしょ? オレ、サムライの格好してないでしょ? お兄さんもそんな恰好してるから、仲間だと思って声かけたんすもん」


 悔しいが仰る通りだった。この自警団の屯所の中でラフな格好をしているのを見れば、お仲間なのは一目瞭然だった。いや、そんなことより。


「君、どこから来たの? 誰もいない場所から突然出てきたように見えたけど」

「そこのセーブポイントからっすよ」

「セーブポイント?」

「あれ、知らなかったんすか? この世界にはセーブポイントってのがあって、そこからルナに入ったり出たりできるんすよ。毎回自分の家からスタートしたんじゃ、めんどくさいっしょ?」


 彼が現れた辺りを確認すると、床に魔法陣のようなものが描かれていた。彼によると、魔法陣の中でルナからログアウトすると、次にログインした時は家ではなく、魔法陣からルナを始められるらしい。そんな仕様があったとは知らなかった。


「お兄さん初心者っすか? よかったらオレがいろいろ教えますよ! その代わり、パーティ組んでくれないすか? 接近戦をこなしてくれたらオレは戦いやすくなるし、お兄さんは情報聞けるし、ウィンウィンじゃないっすか!?」


 パーティを組んで一緒に旅をしようってことか。そういえば、リョウも憧れの剣士ルイとパーティを組んで、一緒に旅に出て行ったんだった。一人で右往左往するよりは、詳しい人と動く方が効率的ではある。テンションが合わないことを除けば、悪くは無い話だ。


「分かった、パーティを組もう。俺も仲間がいた方が助かるし。だけど、ちょっと待っててくれるか? 昨日からずっとルナにいるから、いったん帰って飯食ってきたいんだ」

「お兄さんも飯食ってないんすか? それなら、一緒に食いましょうよ! オレも腹ペコだし」

「いや、こっちでは飯はさっき食った。現実世界の俺が昨日の朝から水一滴飲んでないから、一度帰りたいんだ」

「え、だから一緒に食えば……」


 話が通じない。こっちでいくら食っても栄養にならないだろう。コージが頭を悩ませていると、青年は合点がいったという感じで頷いた。


「お兄さん、こっちで飯食っても意味ないって思ってるんすね」

「そりゃそうだろ。こっちでいくら飯食ったって、本当に食ったわけじゃないんだから」

「言いたいことは分かるし、オレも同じこと思ってたんすけど。こっちで食ったらそれで大丈夫っぽいんすよね」

「は? いやいや。そんなまさか」

「実はオレ、一週間ぶっ続けでルナで遊んでたことあって、やべぇって思って一回元の世界に戻ってきたんす。戻ったら死んでるかもって思ってたんすけど、帰ってみたらピンピンしてて何ともなかったんすよ。腹減ってないし喉も渇いてないし、むしろ太ってねえ? みたいな」


 一週間もずっと仮想世界で遊び続けたのも驚きだが、それで生きているのがさらに驚きだった。人間は食事は摂らなくても二週間は生きていられるというが、水を飲まないと一週間と持たずに死ぬと聞いたことがある。運よく生き延びたとしても、彼が言うような状態ではいられないはず。嘘や冗談を言っているような感じでもないし、コージは訳が分からなかった。


「こればっかりは、実際に感じてもらわないと信じらんないっすよね。オレも信じられなかったし。一回戻ったらいいんじゃないすか? それで飢えも渇きもしてなかったら、信じてください」

「そうだな……。一度戻ってみる」

「オレはここで飯食ってくるんで、こっち来たら声かけてください。あんまり遅いと待ちきれないっすけど。それじゃ、また後で!」


 そう言って彼は食堂に行ってしまった。信じられない話だが、とにかく現実世界に戻ってみれば分かること。コージは魔法陣の中に入った。魔法陣が白く輝いてコージを照らした。アームヘルパーを操作し、「ルナから帰る」を選択した。視界がブラックアウトした。目を開けると、自宅の部屋だった。ルナに旅立った時と同じく、カーテン越しの陽射しを感じながら、起き上がった。

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