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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
挑戦!戦闘クエスト
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挑戦!戦闘クエスト -5-

 称号が「駆け出しバッター戦士」になったことには、もうツッコまずにおこう。今の自分のレベルに合った弱い敵を倒しているからか、所持金がなかなか増えない。クリーチャー討伐の報酬額が内職のそれと変わらない。レベルを上げてしまえば、強い敵と闘えるようになり、得られる報酬も増えるだろうか。


 そんなことを思っていると、また戦闘が開始された。今度はグリーンワームとアイバットが同時に現れた。一人で二体を相手にしないといけない。ルナの中はゲーム性を持ちながら、戦闘についてはリアルで、ゲームのようなターン制ではない。同時に攻撃を仕掛けられる。


 グリーンワームの噛みつき攻撃を躱したところに、アイバットの火球が飛んできてコージの背中に直撃した。不思議と痛みや熱さはなかったが、衝撃は伝わってきた。ガイドが表示され、「体力 75/80」となったのが見えた。大きくはないが、ダメージを負ってしまった。体力表示に気を取られている隙を突かれ、今度はグリーンワームの体当たりを受けてしまった。体力が72になった。

 焦りが隙を作り、敵からの攻撃を被弾し、さらに焦る。悪い流れができてしまっている。このままでは、いずれやられる。落ち着きたいが、落ち着く暇など与えてくれない。また火球が飛んできた。

「くそっ」


 コージは思い切り走った。いったん距離を取らないと、考える余裕すらない。幸いグリーンワームの速度は大したことないので振り切ることもできる。問題はアイバットだ。こちらの攻撃が届かない空から火球を放ってくるので、どうしても防戦になる。走るコージの横を火球が掠める。走るのを止め、振り返って剣を構える。アイバットがバサバサと向かってきている。目が光り、火球が放たれたのを確認し、軌道から逸れて構える。タイミングを見計らって思いっきりスイングし、狙い通り火球を撥ね返した。

「よし!」


 火球が当たって地に落ちてしまえばこっちのものだ。だが、アイバットは再び火球を発射し、撥ね返された火球と衝突し、小さな爆発を起こしただけで終わってしまった。同じ手は通用しなかった。それどころか、呆然とするコージに追い打ちをかけるように火球を出してきた。

「マジかよ……!」


 慌てて飛びのいて攻撃を避けた。さっきまでコージがいた場所が黒焦げになった。アイバットが目を大きくし、また攻撃態勢に入る。

『ギャギャー!』

 さらに悪いことに、グリーンワームが追いついてきてしまった。アイバットの火球と、グリーンワームの体当たりが同時に襲う。こうなったら、多少の被弾は覚悟で倒せる方から倒すしかない。コージはグリーンワームに向かって駆け、体当たりを躱して腹を横一文字に切り裂いた。さらに、アイバットの放った火球が偶然にもグリーンワームにヒットし、グリーンワームは息絶えて消えていった。

「っしゃ!」


 これで一対一だ。相変わらず攻撃手段が無いが、アイバットに集中できる。剣を構えなおしたその時、グリーンワームの消滅跡に宝箱が現れた。勝手に開いて何かが出てきた。そして「コージは魔法の吹き矢を手に入れた!」のガイド表示。グリーンワームは宝箱を持っていたのだ。しかも中身は吹き矢。この場面での飛び道具は願っても無い。コージは急いで魔法の吹き矢を拾い上げた。


 アイバットの火球を躱し、吹き矢を向ける。経験などないが、やってやる。吹き矢の先とアイバットを見ると、筒先が二重に見える。二重に見える筒先の真ん中に標的のアイバットを合わせる。照準を合わせた後は深く息を吸い、そして一気に吐き出した。

 バチッという音と共に、吹き矢の先から目にも止まらぬ速さで雷のような青白い矢が飛び出し、空気を切り裂いていった。躱す動きをする間もなく矢は直撃し、アイバットは消し炭になって消えていった。

「やった……」


 コージはへたり込んだ。一時は同時攻撃に嵌められそうになったが、どうにか二対一の勝負に勝利したことで張りつめていた緊張が解けた。肉体的には疲労もダメージも大きくないが、精神的に疲れた闘いだった。だが、闘った甲斐はあった。便利な道具を手に入れたお陰で、空中からの刺客にも対処できるようになる。左手で握っている吹き矢に感謝した。


 それからはコージの時間だった。何度もクリーチャーに遭遇しては倒しての繰り返し。敵が同時に現れても問題なく倒しきれるようになった。グリーンワームはルミナティソードで、アイバットは吹き矢で一撃で退治できた。合わせて三十匹は倒しただろうかというところで、プロフィールを確認してみる。


名前――コージ

称号――ひよっこ戦士

職業――戦士

所持金――¥2,600

Lv――7

経験値――4,350

体力――108/108

ステータス――正常


 人助けクエストより稼ぎは悪いが、少しずつレベルアップしている。この辺の敵は難なく倒せるようになってきたので、そろそろ場所を変えても良いかもしれない。ただし、油断は禁物だ。称号が示す通り、コージはまだ()()()()なのだ。


 陽がだいぶ傾いてきたころ、コージは北屯所に帰ってきた。待機所の人影はまばらだが、奥からへべれけになったような男たちの騒ぎ声がしている。平八はここに食堂もあると言っていた。仕事終わりの団員たちが、大人数で盛り上がっているようだ。コージも空腹を覚えていたが、まず先に討伐報告だ。途中ピンチだったこともあって、大まかにしかカウントできてはいないが、それでも討伐数は三十は超えている。どれだけ倒したか証拠があるわけではないが、そもそも倒した敵は消えてしまうのだから仕方がない。


 最初に通された部屋まで行くと、平八が座禅を組んで目を閉じていた。

『コージ殿か』

 コージが声をかける前に、目を閉じた状態の平八が口を開いた。なぜ分かったのだろう。コージの心を読んだかのように、平八は口元を緩めた。

『足音や気配で識別できる。それに晩方に訪れる客人は少ないのでな。お主ではないかと思った』


 戦国時代の生活など知らないコージだが、平八のような人を武人と呼ぶのだろうと思った。ようやく目を開けた平八と視線が交差し、何とも言えない緊張感に包まれる。

『かなりの数を討伐してくれたようだな。初陣にも関わらず天晴れ。気持ちばかりだが、報酬をお送りするので、後ほど確認していただきたい。今日はもう晩い。食事を摂って休まれるがよい』


 そう言うと平八は立ち上がった。その手には長さがゆうに六メートルはあろうかという長槍が握られていた。

『日の中はお主たちがいてくれたお陰で、私は休むことができた。夜間の張番は私が務める。安心して休まれよ。また敵を倒してくれた時は、私のところまで来てくれ。いちいち討伐の依頼を受けずとも、報告さえしてくれれば報酬をお渡ししよう』

 平八はコージの横を通り過ぎて行った。その後ろ姿は、自信と誇りが溢れていた。こうしてクエストは完了した。


 お言葉に甘えて、休ませてもらうことにしたコージは食堂にいた。そして、ビールジョッキを持った武士姿のおっさん連中に取り囲まれていた。

『あんちゃん新入りだろう? ここは俺が奢ってやるから、遠慮なく呑みな!』

『ご馳走になりまーす!』

『馬鹿、お前じゃねえよ! あんちゃんに言ったんだ』

『なあ、あんちゃんは何匹倒したんだ? 俺は三匹倒したところで酒が恋しくなってよ、昼から酒盛りよ!』

『報酬より酒代の方が高くついてんじゃねえかよ! 計算もできねえのか、お前。ガハハハハ』


 コージが喋らずとも、勝手に周りが盛り上がってくれている。とにかく声がでかい。その声で至近距離で騒いでくれるものだから、耳鳴りしっぱなしだ。武士姿でビールジョッキというシュールな姿が、時代設定ぶち壊しのドラマのようだが、料理は素朴ながらも美味だった。野菜の煮つけにひじきの煮物、冷奴に魚の干物。それらを肴にビールをガンガン注がれる。どこまで武士の時代を再現しているのかは不明だが、先輩や上司に相当する年齢の人間が酒の席で新人を囲む光景は、昔も当時も変わらないのかもしれない。ルナの中でもアルコールの効果は抜群で、コージは酒が回ってだんだんと気持ちよくなってきてしまった。


『お、さすがに目が回ってきたか? だがまだ帰れねえぞ? あんちゃんが主役なんだからな。今日は祝いに魚でも卵でも頼め! 俺らがおこぼれをいただくから、余る心配はすんな!』


 聞けば普段はもっと質素な食事らしく、基本は麦飯に汁物、それに漬物などのおかずが一品が付くだけだという。何かのお祝いをする時だけは、魚や豆腐や卵と、少し豪華なラインナップの食事をするとのことだった。何でも頼めと言われて先の料理を頼んだが、なぜかマグロの刺身は『武士がそんな物食えるか!』と言われて頼ませてもらえなかった。武士が頼まないメニューを、ほとんど武士しかいない屯所の食堂のお品書きに書くなよと思ったが、黙っておいた。


 飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。逃げ出す隙が見いだせず、そのまま夜が明けるまで宴に巻き込まれてしまったコージは、この日、初めてルナの中で一夜を過ごすことになるのだった。


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