挑戦!戦闘クエスト -3-
平八は懐から蛇腹に折られた紙を取り出し、広げて見せた。「街」と書かれた大きな四角に、その上下左右に「屯所」と書かれた小さな楕円。コージから見て北にある屯所を指さして平八は語り始めた。
『お主も見たであろうが、街は垣根で囲まれており、そこを出れば敵が蔓延る土地となる。我々自警団は街の東西南北に屯所を構え、垣根の外から敵が侵入せぬよう目を光らせている。屯所でありながら、敵の接近にいち早く気づくための物見やぐら代わりにもなっているのだ。それぞれの屯所に副団長が一人付き、団員をまとめている。今我々がいるのは北屯所だ。私はここの指揮役を担っている。団長は全ての屯所のまとめ役であるので、一所に留まることは無い。ここにもほとんど姿をお見せにはならないが、もしお見えになることがあれば紹介しよう』
話について来れているかと目線を向ける平八に応えるように、コージは頷いた。
『私を含め常駐している者もいるのだが、団員のほとんどは街の有志やお主のように依頼を受けてくれた者たちだ。故に人手は常に不足している。加えて戦闘力は人によって大きな差がある。戦闘を専門としている我々と、普段は商いに勤しむ有志の街人とでは差が出るのは当然だからな。そこで、お主のような存在が重要になってくる。可能な限り、力添えいただければ心強い』
そう言って平八は深々と頭を下げた。コージは慌てて頭を上げてもらった。
「依頼を受けておきながら申し訳ないんですけど、俺はまだ戦闘経験が無くて……」
『なんと、そうであったか。だが、そう恐縮されるな。別に珍しいことではない。ここで依頼を受けて初陣を飾り、その後も戦いの中で学び、力をつけ、信頼を勝ち得た団員もいるからな。それに、この辺りの敵は数は多いがこの力はそれほど強くはない。強い戦力より、頭数が必要なのだ』
ほっと息を吐いたが、まるで大企業の雇用のようだと思った。一部の正社員が指示役となり、マンパワーが必要な業務を外部の人間に委託するやり方に近いものを感じた。
『報酬は倒した敵の強さや数に応じて変わるので、その点ご了承いただきたい。その代わり、敵を倒した時に得られるアイテム類や金は全てお主のものだ。中には珍しい宝を持っていることもある。旅人を襲って手に入れた宝であろうから、本来の持ち主は他にいるのだが、暗黙の了解で敵を倒した者の持ち物にしてよいことになっている。もともとの持ち主は、十中八九敵の手にかかって亡き者にされておろうからな』
子供の頃にプレイしているときは全く気にしていなかったが、改めて言われると敵がどうして宝箱を持ってるんだというツッコミを入れたくなるのも分かる。ゲームで当たり前に手に入れてきた宝の出どころまで考慮されているとは、芸の細かいことだ。
『特に倒してほしい数や時間の縛りは無いので、働きたいときに働いてくれればよい。疲れた時は、ここを自由に使ってくれて構わない。布団で休むもよし、食堂で英気を養うもよし。敵を倒したら、手間をかけるが私のところまで来てくれ。報酬をお渡しする。ちなみに日中と夜間では敵の顔ぶれが変わり、夜間の方が強い敵が多くなる。夜間に現れる敵を多く倒してくれれば、その分報酬も増えることになるが、命あっての物種。無理はせぬことだ』
仰る通りだ。少し敵を倒せるようになったからといって、調子に乗って強い敵が出るダンジョンに向かって、見事に返り討ちに遭った経験は数知れない。まして自分が闘うことになるのだ、慎重に行かねば。
『時に、お主は戦いの装備は持っておられるか? その装いは戦闘には不向きだ。見たところ武器も持っておらぬ様子。量産品で良ければ貸し与えることも可能だが、いかがする?』
今のコージの格好はどこから見ても休日のおっさんなので、そう言われても仕方がない。
「武器も装備もあります。今着替えます」
アームヘルパーを操作し、先日購入した装備……もとい作業着をセットする。すると、一瞬にしてコージの装いが変わった。目の前の平八の武士姿と比較するとどうしても見劣りし、恥ずかしさすら覚えるが、コテツが勧めてきたものだからと他責思考で乗り切ることにする。
『ほう、これは……』
「武器もあります。いでよ、ルミナティソード」
コージの手にルミナティソードが現れた。ガーネットが怪しく光る。
『なるほど。ふふふ……』
平八は坊主頭に手を当てて笑みをこぼした。作業着姿に西洋剣という組み合わせ。そんな姿を見れば笑われるのも当然だ。鏡が無くて良かったと悲しい気持ちになったコージだが、平八が笑った理由は別にあったようだ。
『失敬。そなたの姿を笑ったわけではないのだ。その装備に見覚えがあってな。どうやら、お主には安心して仕事を任せられそうだ。よろしく頼む』




