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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
そうだ、転職しよう
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そうだ、転職しよう -7-

『こいつはルミナティソードといってな。普通の剣と違って、持ち主を選ぶ。実はあんたが店に来る前に店の奥で作業してたんだが、仕舞ってあったはずのこの剣がいつの間にか作業台に置いてあったんだ。きっと、この剣が、持ち主が来たってことを伝えてんだと思ってよ、持ってきてみたんだ。今この店にはあんたしかいないからな、持ち主になりうるのはあんただけだ。持ってみろ』

 差し出された剣を、おそるおそる手に取る。グリップを握ると、コージのためにオーダーメイドされたのかと錯覚しそうになるほど手に馴染んだ。剣なんて初めて手にしたはずなのに、親しみすら覚えた。まるで自分と剣がひとつになって、剣が自分の一部になってしまったかのようだ。

『どうやら、あんたで間違いなさそうだな』

「こんなにしっかりした剣なのに、まるで重さを感じない……」

『剣の方があんたに使ってほしいくらいなんだろうよ。俺もそこまで相性が良い奴を見たのは初めてだ。前にその剣を欲しがってたやつがいたんだが、持ってみたら墓石ほどの重さに感じたようでな。随分と頑張ってたが、とうとう持ち上げることが叶わなかった。諦めて鉄の剣を買っていったよ。その点、あんたは気に居られたようだ。良かったら持ってきな』


 宝玉がキラリと光る。血液のような躍動感を感じる。

「これって宝石ですか?」

『ああ。ザクロ石――別名、ガーネットだ』

「ガーネット!?」

『正しくは、ガーネットを丸くした、カーバンクルってのが埋め込まれてる』

 ジュエリーに疎いコージでも知っている宝石だ。何カラットのダイヤだとか、真珠が何粒ついたネックレスだとか、テレビの通信販売でしか見ることのない世界だと思っていた。まさか、メタバースで初めてお目見えすることになるとは。

「これって、お高いんじゃ……」

 それこそ通信販売でよく聞く台詞を、まさか自分が言う日が来ようとは。コテツはにやりと笑って頷いた。

『そりゃあ、希少な宝石を埋め込んだ剣だからな、値は張るさ。こいつを仕入れたときだって、それなりの元手を払ったんだ』

 こちとら商売だからな、とまで言われてしまった。一応値段を聞いたが、『一般人が何年も働いて出せるような額だなあ』とのことだった。宝石に興味が無いコージですら息を飲むほどの美しさだ。コテツが吹っ掛けてきているわけではなく、それが相場なのだろう。だが、そんな大金をコージが用意できるわけもない。コージも諦めて鉄の剣で済まそうかと思ったのだが。


『ちなみに、その剣は選んだ持ち主に対しては嫉妬深いようでなあ。売っ払おうとした奴は剣が勝手に動いて首と胴体が離れちまったとか、他の剣を買おうとした奴はこれまた剣が勝手に飛んで串刺しになったとか、いろいろ曰くがあるみたいだぜ』

 それはもはや呪いじゃないだろうか。そして新しい足元の見られ方だ。むしろ脅しとしか思えない。コージは鉄の剣へと伸ばしていた手を引っ込めた。

「買いたいのはやまやまなんですが……そんな大金、持ってないです」

 脅されたところで、無い袖は振れない。そもそも、コージがルナを始めたのは現実世界でも使える金をメタバースの中で稼ぐためだ。メタバースの中でしか使わない道具のために借金していたら本末転倒だ。

『まあ、そうだよな。貴族でもねえのにぱっと大金出せる奴なんてそうそういねえし、まともに戦ったこともねえ戦士見習いが持つには釣り合わねえ代物だ。そこで、取引だ。あんたに仕事を依頼したい。依頼を受けてくれたら、その剣は譲ってやるよ』

「譲るって……お代を払わずにその剣をいただけるということですか?」

『おうよ。ただし、依頼はそれ相応の危険を伴うぜ』

「具体的には……?」


『あんたに宝を三つ取ってきてほしい。一つ目は、イオツミスマル。メノウでできてる勾玉だ。この街のはるか北にあるアマト鉱山の最奥にあるようなんだが、トラップだのクリーチャーだのに阻まれて、誰一人として最奥に行けたやつはいない』

 一つ目からして危険度が半端ではない。コージは唾を飲んだ。

『二つ目は、マフツノ鏡。東の果てのイワト神殿に納められている。神殿といっても、神官なんて一人もいねえから、入り放題だ。クリーチャーまで入り込んでるくらいだからな。本当は神官達も中に入ってマフツノ鏡を持ち帰りたいようなんだが、クリーチャーが邪魔で入れないらしい』

 神聖ではなくなった神殿とはいえ、不法侵入して良いものか。火事場泥棒のような真似をして、宝を盗んで良いものか。道徳的にはアウトだが、メタバースの中だし構わないか、と思ってしまう自分がいる。

『最後は、クサナギノ大刀(たち)。街の西をずっと行った先の森の中にミナモの塔ってのがある。そこのてっぺんに安置されているらしいが、例のごとくクリーチャーだらけだ』

 この世界の聖域管理はどうなってる。ことごとく魔物だらけじゃないか。フィクションとはいえツッコまずにはいられなかった。それはさておき。


「全部初心者には難しそうな場所にありません……?」

『だから危険が伴うと言ったろうが。まあ、強制はせんよ。剣の餌食になるか、危険な冒険に出るか、好きな方を選んだらいい』

 完全に脅された。どっちを選んでもゲームオーバーじゃないだろうか。コージは萬屋に来たことを激しく後悔した。剣を放り出してダッシュで逃げれば何とかならないだろうか。剣を商品棚に置こうとしたが、急に剣が重たく感じ、ガーネットの赤にどす黒さが混じったように見えた。ぶわっと鳥肌が立った。剣から手を放したら、命はない。直感的にそう感じた。

『言った通りだろう? 悪いが手を放すなら外にしてくれ。あんたの血で商品を汚したくねえし、あんたの死体を片すのも面倒だからな』

「店の心配より、俺の命の心配してもらえません?」

 コテツはくくく、と笑った。

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