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メタバース・プリズン  作者: 篠塚しおん
そうだ、転職しよう
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そうだ、転職しよう -4-

『あんた戦士向いてないわよ。やめときなさい』

 リョウがずっこけた。あの笑顔を向けられれば、適性があったのだと期待してしまう。それが大どんでん返しされたのだ。コージは非言語コミュニケーションの失敗例を見せられた気分になった。リョウは憤慨して詰め寄る。

『なんでだよ!』

『あんたのそういうところよ。短気で、自分の思い通りにならないと気が済まない。戦士って、あんたが思ってるよりもずっと冷静さが必要な職業よ。ただ武器を振り回してるだけだと思ったら、大間違い。クリーチャーと一番近くで戦うのに、冷静さを欠いた判断をすれば、すぐに命取りになるわ。それを理解しないで戦士になりたいなんて、冗談もいいところよ』

 サチコの言うことはごもっともだ。戦士なら、敵と闘うときは接近戦になる。ひとつ間違えればどうなるか分からない。リョウはぐうの音も出ないようだった。


『だけど、その短所が長所になる職業があるわ。――魔導士よ。文字が読めない、覚えられない、なんていうお馬鹿さんじゃ無理だけれど、あんたは学はありそうだわ。違う?』

『……勉強はさせられてた。小さいころから、母さんに勉強しろ勉強しろって言われてやってたから』

『お母様に感謝するのね。しっかり勉強していたお陰で、魔導士としての基礎力が培われているわ。それに、魔導士は感情によって魔法力が左右されるの。思いが強ければ強いほど、効果も強くなる。あんたは短気だけど、言い換えれば感情が大きく動きやすいということ。魔導士の適性があるわよ』

 コージは驚いた。サチコの話はただのお説教ではなく、リョウの人間性をきちんと見極めた上での助言になっていた。リョウの言うなりに戦士に転職させてしまっても、またその結果すぐに死んでしまっても、サチコは痛くも痒くもないだろう。だが、そんなやっつけ仕事をせず、相手の適性を的確に判断している。


『俺は、剣士にはなれないのか……』

「なんでそんなに剣士にこだわるんだ? 何か理由があるのか?」

『――強くなりたかった。小さいころ、親の目を盗んで幼なじみと街の外に出たことがあるんだ。そしたら、クリーチャーに襲われた。偶然通りかかった旅の剣士が助けてくれなかったら、俺はとっくに死んでた。クリーチャーは怖かったけど、それ以上に剣士がかっこよかったんだ。俺もあんな風になりたいと思った。馬鹿みたいな理由だよな』

『……前に馬鹿にしてきた人がいたのね?』

 リョウは目を見張った。図星だったようだ。サチコは先ほどまでとは打って変わり、優しい表情を浮かべた。

『別に馬鹿だなんて思わないわよ。どうしてその職に就きたいのか、なんて人それぞれでしょ。世間じゃ、転職の理由を根掘り葉掘り聞いて、重箱の隅をつつくような質問をするような連中もいるけど、アタシに言わせれば滑稽だわ。そんなこと聞いてどうすんのよって思うわ』

『……』

『他人に馬鹿にされて、悔しかったわね。けど、相手にしちゃだめよ』

『俺を助けてくれた剣士、すごく落ち着いた人だった。俺とは違うって、心のどこかでは分かってたんだ。馬鹿にしたやつらも、頭ごなしに反対した母さんも見返したくて、剣士にこだわってた。でも、それって何か違うって今分かったよ。ありがと、おばさん』

『ウフフ、どういたしまして。でも、次におばさんって言ったらほっぺた抓って引き千切るわよ』

 急にドスの効いた声になってリョウに髭面が急接近した。本気でやりそうな剣幕だ。リョウはキツツキ顔負けの速度で何度も頷いた。おじさんと呼ばずに()()()()と言ったのはリョウなりの気遣いだったのだろうが、それでも不合格だったようだ。

『聞き分けの良いリョウちゃんに朗報よ。戦士は向かないけど、魔導士として経験を積んだ上なら、剣を振るってもいいかもよ。魔法剣士といって、剣に魔法の力を宿して戦う職業があるの。将来のお楽しみにしておきなさいな』

 最後に夢を与えて、リョウは無事に魔導士になった。望んでいた職業ではなかったが、満足げな顔をしていた。


『それじゃ、次は装備を整えないとね。この二つ隣に萬屋があるわ。そこで武器と防具を揃えなさい。魔導士だと、杖とローブが一般的ね。まれに重装備の魔導士もいるけど、魔法で火なんか出そうものなら鎧の中は灼熱地獄になるからお勧めはしないわ』

 何度目のツッコミか分からないが、メタバースなのにリアルすぎる。暑さや寒さは感じないとか、うまい具合に調整できなかったものか。とにかく装備は萬屋で揃えれば良いらしい。

『装備が済んだら、隣の薬屋で回復薬や毒消し薬も買っておきなさい。旅で怪我したり毒に侵されたりしたら大変だからね』

 転職後のアドバイスまで貰ってしまった。このクエストを受けて良かった、とコージは思った。


『これから念願の二人旅かしら? リョウちゃん良かったわねえ』

 コージとリョウが首を傾げる。サチコは眉をひそめる。

『ちょっと待って。あなたたち、二人で旅に出るのよね?』

「いや、この子だけだけど……。俺は旅の準備を手伝ってるだけだし」

『はあああ!? てっきり二人で旅に出るものだと思ってたわよ!? それじゃ何、その子一人で旅に出るの? 魔導士がたった一人で? ありえないわよ!?』

 雲行きが怪しくなってきた。魔導士の一人旅に何か問題があるのだろうか。リョウまで不安な顔になってしまっている。

『魔導士って魔法を放つまで集中しないといけなくて、集中している間は無防備になるのよ。集中している間に攻撃されたら何もできずに終わりよ? だから、普通は魔導士は戦士やアーチャーと一緒にパーティを組むのよ。……まさか、それも知らなかった?』

 初耳だ。そういえば、魔導士が一人旅をするゲームなんてプレイしたことないな……などと物思いにふけっていたら、盛大なため息が聞こえた。

『何も知らないって恐ろしいわ……。送り出す前に気づいて良かった』

「魔導士のままだと、仲間がいないと旅に出られないのか?」

『別に決まりはないけど、魔導士なりたての見習いが一人で旅をできるほど、甘くはないわよ。てっきり二人で旅に出るのだと思っていたから、より適性のある魔導士を勧めたけど……。どうしたものかしら……』

『誰か、パーティを募集している人いないかな? どこかで』

『そうねえ……。アタシは斡旋は専門外だけど、占ってみましょうか』


 サチコは再び水晶玉に手を当てた。驚いたような表情を一瞬見せたのち、ふっと笑った。

『特に何もしなくていいわよ』

 数秒の沈黙ののちサチコが発した言葉。コージもリョウも口を開けてしまった。さっきまで一番騒いでいた張本人なのに、何もしなくていいとはどういうことか。コージたちの疑問を無視し、意味深な笑みを浮かべてコージを見る。

『お兄さんの方は、占わなくていいのかしら?』

 話をすり替えられたリョウは憤慨するが、サチコは気にも留めない。

『お兄さんも転職するつもりではいるんでしょう? 適職くらいは知っておいたら?』

 確かに、戦闘クエストを受ける前に転職しようとは思っていた。リョウのパーティの件は気になるが、訊いても答えてはくれなそうな雰囲気が出ていた。

「じゃあ……お願いします」

『オッケーよ』

 例のごとく水晶玉に手を当て、すぐに手を離した。

『あなたはひとまず戦士でいいと思うわ』

「え? ひとまずって……?」

『お兄さんは、ひとつの職業を極めるより、いろいろな職業を経験して、やがて特別な立場になる。そんな気がするのよ。お兄さんは落ち着いているし、一番最初の職業は戦士がお勧めよ。リョウちゃんのことが片付いたら、また来なさいな』

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