そうだ、転職しよう -3-
『あら、今日はお客さんが続くわねえ』
フードの中から女性口調の男の声が聞こえた。フードを脱ぐと、明らかにカツラと分かる金髪ショートボブで、バッチリ厚化粧を決めた青髭の、胸板ありまくりのゴリマッチョが現れた。コージの後ろから『ゲッ』という声が聞こえたので、足を踏んでおいた。決してゴリマッチョの圧にやられたわけではない。
『そんな所に突っ立っていないで、お入りなさいな』
彼もしくは彼女に勧められるがままに、コージ達は水晶前の椅子に着席した。
『いらっしゃい。アタシは転職屋ちぇんじのママ、サチコよ! よろしくねん』
両手を合わせて可愛いポーズをするのだが、恐怖という感情が湧くのはなぜなのか。
『それで? 転職したいのはあなたかしら? それとも、そっちの僕ちゃん?』
目線を向けられただけでリョウは背筋が良くなった。あわあわしていて会話にならなそうだ。一人で来ていたらどうなっていたのだろうか。付き添いが必要と判断したマリの考えは正解だったようだ。
「転職したいのはこの子です。ただ、俺もこの子も分からないことだらけで。良ければ転職について教えてもらえませんか? 職業を持ったら旅に出るので、心構えなんかも聞きたいです」
それを聞いたリョウがコージを突いて耳打ちする。
『え、ちょっと。あんたも転職したこと無かったのかよ?』
「無いよ。だから聞いたんだ」
『てっきりベテランかと思ったのに……。何も知らないくせに、なんで依頼受けたんだよ』
「悪かったな。じゃあ、今からでも一人で全部準備するか? 俺は今ここで退席してもいいぞ」
リョウがコージの腕を掴んで首を振る。それを見たサチコが両腕を抱いてくねくねする。
『まあ可愛い! アタシ、萌えちゃうわ!』
腕を掴む力が強くなった。痛い。
『別に恥ずかしいことじゃないわよ。そもそも転職について聞かれることなんて日常茶飯事。誰だって、何かを始めるときにはゼロからだもの。イチ進むのにアドバイスを受けたっていいのよ。それじゃ、転職について説明するわね』
サチコは部屋の壁に埋め込まれている黒板を指差した。そこには、いくつもの職業が書かれていた。
・戦士
・魔導士
・アーチャー
・商人
・薬師
・占い師
・芸人
『転職は文字通り職業を変えることだけど、そもそもどういう職業があるのか、ということから知らないとよね。そこに書いてあるのはほんの一部で、他にも職業はあるの。例えば神官とかね。だけど、ここでは神官には転職できないの』
「それは、どうして?」
『その質問に答える前に、転職屋が何をする場所かを教えるわ。転職屋の役割は二つ。正規の職業の登録と、その人の適職診断よ。転職屋で職業を登録しておけば、それが公的証明になって、他の街に移動しても仕事がしやすくなるのよ。そこの僕ちゃんみたいに旅に出ようと思えば特定の住所を持たなくなるわけだし、身分証明が無いと困るでしょう?』
なるほど。こっちでいう役所に近い役割を担っているのか。だが、そこまで聞いてもなぜ神官になれないのか分からない。コージの疑問を見透かしたように、サチコがウィンクする。
『慌てないの。転職屋といっても、何でも登録できるわけじゃないのよ。神官はなりたいと言えばなれるわけじゃなくて、神殿に属し、大神官から認められた人しかなれない職業なの。だから、神官になりたかったら神殿に行かないといけないのよ』
「そういうことか。それにしても、占い師や芸人まであるんですね」
『意外だったかしら? アタシも職業で言えば占い師になるのよ。適職を見極めてあげないといけないもの。自称占い師より、証明書付きの方が信用できるでしょう? どんな商売をするにも、信用第一よ』
ごもっともだ。黒板があるのとは反対側の壁に、サチコが占い師であることを記した証明書が貼られている。飲食店に必ず食品衛生責任者がおり、証明書を掲示しているのと同じようなものだろう。つくづく、夢があるようでいてリアルな世界だ。
『旅に出るなら、これも知っておいた方が良いわね。行く先々で転職屋はあるでしょうけど、店によってなれる職業が違うのよ。ここでは初心者向けの職業には一通りなれるけど、上級職と呼ばれる職業にはなれないの。なにになれるかは完全に転職屋の腕次第。アタシの腕だと基本職が限度ね。もっと経験豊富なベテランだったら、上位職にもしてもらえるわ』
「上位職って?」
『分かりやすいのは魔導士かしら。魔法には回復タイプと攻撃タイプがあるわけだけれど、回復魔法を習熟すると白魔導士に、攻撃魔法を習熟すると黒魔導士に転職できるのよ。魔導士のうちは使えなかった魔法でも、上位職になると使えるようになるの。戦士はどの武器を熟練したかで上位職が変わるわ。剣ならソードマスター、大剣や斧ならウォーリア、槍ならホーリーランサー、武器を持たず体術の経験を積んだら拳闘士になれるわ』
RPG感が増してきた。コージは年甲斐もなく高揚していた。隣で息を荒くするリョウと大して変わらない。
『つまり、基本職の経験を積んだうえで、力のある転職屋に行けば、上位職にもなれるわ。アタシじゃ無理だけど。だから僕ちゃんはどっちみち上位職にはなれないわよ? 基本職すら未経験なんだもの』
『僕ちゃんって言うな! リョウって名前があるんだ!』
『あら、ごめんなさいね。ウフフ。ちなみにリョウちゃんはなりたい職業はあるのかしら?』
『……剣士になりたい』
『なるほど、それなら職業としては戦士ね。剣士は、戦士の中で剣を武器として使っている人たちの俗称だから。それじゃ、適性があるか見せてもらうわね』
サチコは水晶玉に手を当て、じっとリョウを見つめた。リョウの緊張が伝わってきて、コージまで背筋が伸びてしまう。サチコはうんうんと頷くと、ニッコリ笑って言った。




