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69. 強く生きろ

 さて、上手くパリパリに出来上がった薬草を、いつ、どうやってリリアナ様に食べてもらうか。

 

 レオン様が牛並みに薬草を食べることを想定して大量に作りたかったが、何度も燃やしてしまってほんの一握り程しか出来なかった。

 少ししかない薬草を確実にリリアナ様に、レオン様に食べてもらうには、旦那様や奥様が一緒の時は避けた方が無難だ。


 「美味しそうな薬草だな。私にも食べさせろ」


 なんて、旦那様に言われてしまったら終わりだ。

 レオン様のおかわりが無くなってしまうじゃないか。


 ということで、リリアナ様のおやつの時間に食べてもらうことにした。

 感動の再会には雰囲気も大事だろうと考えて、薔薇園の中にテーブルと椅子を持っていき、マリアに頼んでリリアナ様のお気に入りの紅茶も準備してもらった。


 リリアナ様には前もって私がおやつを準備すると伝えていたのだが、楽しみにしてくれていたようで、リリアナ様は伝えていた時間よりも少し早く薔薇園に来た。


 そわそわした様子で席に着くリリアナ様に、私までつられてしまって、何やら胸がどきどきしだした。

 

 何とか上手にぱりぱりには出来た。

 後はこれがレオン様の好きな薬草かどうか。レオン様の口に合うかどうか。

 ……レオン様が現れるかどうか。


 「今日のおやつは私が作りました。リリアナ様、どうぞ召し上がってください」


 薔薇の絵付けの皿に、私が作ったぱりぱりの薬草をふんわりこんもりと盛りつけてリリアナ様の前にそっと置く。

 

 ……口に合うだろうか。美味しいと言ってくれるだろうか。

 心臓がばくばくと波打っているのが分かる。


 どきどきしながらリリアナ様の言葉を待っていると、私の前でリリアナ様とマリアが困惑した様子で顔を見合わせていた。

 何と言ったら良いのか、言葉を探しているようだった。


 「えっと、クロード? これは何? 私には草に見えるんだけど。これが、おやつ?」


 マリアが遠慮がちに言いながら私の顔を見た。

 

 「それは草じゃなくて、薬草だ。上手くぱりぱりに出来たから、きっと美味しいと思う」


 マリアの頬がぴくっと引きつった。


 「薬草? きっと美味しいと思うって、あんた味見していないの? 得体のしれないものを、味見もせずにお嬢様に出すなっ」


 そう言うとマリアは、皿に盛っていた薬草を鷲掴みにして私の口に突っ込んだ。

 ……うわっ、せっかくレオン様の為に作ったのに!

 涙目で見ると、マリアは呆れたように軽く頭を振りながら私に向って言った。


 「あのね、クロード。薬草だか何だか知らないけど、そういうのはおやつって言わないのよ。お嬢様におやつを作って差し上げたいなら、私に相談しなさい。お嬢様のお好きなおやつの作り方を教えてあげるから。でもね、草はダメよ、草は」


 ……リリアナ様じゃないんだ。レオン様なんだ。

 私は、……レオン様の為に作ったんだ。

 レオン様に会いたくて。

 レオン様の好きな物を作ったら出てきてくれるかと思って。

 ただ、レオン様に会いたかっただけなんだ。


 「……分かった。次からはマリアに教えてもらうことにする」


 口の中に残る薬草をむしゃむしゃ噛みながら、マリアに応えた。

 薬草の苦味がやけに沁みる。


 二コラが薔薇の手入れをしている手を止めて、じっとこちらを見ているのが視界に入った。

 ……あいつにも手伝ってもらったのに、ダメだったか。

 食べてすらもらえなかった。

 

 次の作戦を練らなければなと思っていると、何やらお腹の調子がおかしい……。

 お腹が、ぐるぐるし出した。

 あ、何だ、これ?

 鈍い痛みと共に、お腹がぎゅるぎゅると音を立てる。

 え、これ、もしかして。


 痛むお腹を抱えながら二コラを見ると、笑いながらこちらに手を振っていた。


 ……あいつっ、緩下薬を渡しやがった……。

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