67. 旦那様の秘密
レオン様に会いたいと言う気持ちが日々大きくなっていた私は、「レオン様に会おう作戦」と名付けて、変化することなくレオン様の意識だけを呼び出そうと決めた。
これまでに二回も現れたのだ。
これは決して無理なことでは無いと思う。
カリスタ子爵邸で、レオン様は私に飛び蹴りをし、「よそ見は許さない」と言って強引にキスをした。
事情を伏せてマリアにその心理を尋ねると、リリアナ様に見惚れた私にイラついたのだろうと言う。
ということは、イラつきや怒りが引き金になってレオン様の意識が現れたのだと思われるが、かと言ってレオン様を怒らせて、毎回蹴られるのも私が嫌だ。
レオン様は手加減無しで本気で蹴ってくるから、かなり痛いのだ。
そこで、怒り、つまり強い感情がきっかけになるのではないかということで、レオン様の好きな物で上手く釣り上げようと思う。
レオン様の好きな物。
まず思いついたのは、本だ。
5歳の時はずっと書庫に籠って、本を読んでいたと言っていた。
旦那様の書庫には、確か古い外国の本や薬草の本、花冠の作り方の本もあると言っていたはず。
……ということは、リリアナ様を書庫に連れて行って本を読ませたら、久しぶりの本に興奮してレオン様が現れるのではないだろうか。
これは早速試してみなければ。
急いで奥様の所へ行き、書庫に立ち入る許可を頂き、見せたいものがあると言ってリリアナ様を書庫に連れて行った。
長い廊下の突き当りにある書庫の重たい扉を開けて中へ入ると、長く閉め切られていたせいか、古い本の独特の匂いが籠っていた。
……この匂いはどうだろうか?
懐かしいとか、好きとか、何か反応は無いだろうかと、横にいるリリアナ様をちらり見て見るが、特に感慨は無さそうな様子だった。
「……書庫には、初めて来るわ。こんなにたくさんの本があるのね」
天井まで届く書架には、手に取るのも重そうな分厚い本がずらりと並んでいた。
それらの本を興味深く眺めながら、リリアナ様はゆっくりと通路を歩いている。
……思ったよりも反応が鈍い。
リリアナ様は興味深そうに見てはいるが、並べられた本の背表紙を眺めているだけで、それらを手に取ろうとはしない。
これではいけないと、近くにあった本を適当に取り、「ちょっとでも良いので、手に取って見てみてください」とリリアナ様に手渡していると、いきなり旦那様が血相を変えて書庫に入ってきた。
「クロード!」
ここまで走って来たのか、旦那様は息を切らし、顔を紅潮させていた。
「……お前っ、どうして急に、書庫なんか…」
私に何かを言おうとした旦那様は、リリアナ様が見ている本を目にした途端、叫び声を上げた。
「なっ、お前っ、リリアナに何を見せてるんだーー!」
え、本ですが、それが何か? とリリアナ様を見ると、リリアナ様は顔を赤らめながら困ったように、その本を私の方に広げて見せた。
「クロード、あなたがわたしに見せたいものって、……これのことなの?」
……そこには、裸の男女が大胆に絡んでいる絵が見開きで描かれていた。
「えっ、いやっ、違いますっ。私はそんなつもりじゃっ」
……うわ、しまった。……どうしよう。
そーっと振り返って旦那様の様子を伺うと、顔を真っ赤にしてぷるぷる震えていた。
これはやばい。これはまずい。
後から来たクラウス様が呆れたように軽く頭を振りながら、リリアナ様の広げている本を摘まみ上げてそっと閉じて書架に戻し、リリアナ様を連れて書庫から出て行った。
私はと言うと。
「二度と勝手に入るな!」と怒鳴られて、旦那様に書庫から叩き出された。
……そんなつもりじゃ無かったのに。
まさかそんな本が書庫に置いてるなんて思わないし。
ただレオン様に会いたかっただけなのに、失敗した。




