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108. 王命

「……それにしても」


 旦那様が、はあーっと長い溜息を吐いた。


「まさか、レオンとクロードがこんなことになっているとは想像もしなかったから、リリアナのことを考えると気が重い。……あの子に、何と話せばいいんだ?」

「そのままを話すしかないでしょう?」


 奥様が肩を竦める。


「それはちょっと、リリアナが可哀想だろう」

「十年もの長い間、クロードを独り占めしておきながら、人任せばかりで自分で動かなかったのはリリアナよ。今更騒いでも、もう遅いわ」


 リリアナ様に対する奥様のその言い方に、私は驚いてしまった。

 こんな奥様は初めて見る。


「レティシア、その言い方はリリアナに冷たくないか?」

「わたくしは、別にレオンを憐れんで肩を持っているわけではないの。あの子は自力で、自分が本当に望むものを手に入れた。忠義一徹でリリアナに見向きもしなかった、真面目で鈍感なあのクロードが、あそこまで変わったのよ」

「……………」

「クロードが、レオンの側にいさせて欲しいとあなたに願い出るなんて、今でも信じられない。わたくしは、良くやったとレオンを褒めてやりたいわ」


 ……奥様にそこまで言われると私は何やら気恥ずかしくて、身の置き所が無かった。




「……しかし、これから先のことを思うとキツイなあ……」


 旦那様が頭を抱えた。

 

 ……これから先。

 そうだ、旦那様は今朝、王妃様からの呼び出しがあったはず。

 きっと王妃様から、レオン様のことについて話されたのだろう。

 旦那様は、どうなさるつもりなのか。


 奥様も私と同じことを考えていたようで、心配そうに旦那様に尋ねた。


「王妃様のお話は、レオンのことだったのでしょう? 何処から、グランブルグ家の子だと知られたのかしら」

「うん? レオンのこと? いや、それはまだ知られていないぞ」


 何の話をしているのかと不思議そうに旦那様が奥様を見た。


「え? だって、レオンがわたくし達の子だと王妃様に知られたのでしょう? それで、ラリサ王女をレオンに妻合わせるというお話だったのでしょう?」

「いや、違う。エリオット王子をオーランド領に遣わせてレオンを探しているようだが、未だ見つからないと嘆いておられた。私は王妃様のお話から、うちのレオンのことだと分かっただけだ」

「それでは、あなたをわざわざ呼び出して、何のお話だったの?」


 旦那様は唇を噛みながらしばらく無言でいたが、やがてその重い口を開いた。


「……リリアナだ」

「リリアナ?」

「……そうだ。……リリアナを、その、エリオット王子の妻にと」


 思わぬ展開に、奥様と私は互いに目を見開いて顔を見合わせた。


 ……リリアナ様が、エリオット王子と結婚⁉


「……王妃様は、ラリサ王女とレオン、エリオット王子とリリアナ、この二組の婚姻を同時に結ぶつもりだと仰った」

「無理よ!」

「そんなこと、私だって分かってる!」


 レオン様はリリアナ様で、リリアナ様はレオン様であるのに、同時に婚姻なんて無理だ。無茶苦茶だ。


「どうして、急にそんなことになったの……?」


 旦那様が苦しそうに顔をしかめながら答える。


「……王太后様だ。……王太后様の容態があまり芳しくないらしい。……それで、陛下が、……可愛がっている孫達の婚姻を見せて、……少しでも母君に良くなって欲しいと。……一日も早く、安心させて差し上げたいと」

「そんな理由で⁉」

「……王妃様は、近いうちに王命が下るからそのつもりでいるようにと、私を呼びだされたのだ」


 どうしたらいいのだと呟きながら、旦那様は頭を抱え込んだ。


 エリオット王子が、ラリサ王女と妻合わせるためにレオン様を探しているのは知っていたが、そのエリオット王子とリリアナ様が結婚とは……。


「レオンの素性が知られていないのなら、……要はリリアナね。このまま現れずにいれば、レオンはどうにか逃げおおせられる。……でも、リリアナはグランブルグ家の娘だと知られていて、そのうえ王命では…………逃げられないわ」


 奥様がその美しい顔を苦しそうに歪めながら、私を見る。




 ……このまま現れなければ、レオン様はどうにかラリサ王女との婚姻を避けられるかもしれない。

 

 だが、リリアナ様は王命からは逃げられない。


 そして、リリアナ様がもし本当にエリオット王子と結婚ということになれば、王子妃となったリリアナ様の側に、平民の私が居られるわけがない。


 もうお守りすることも、お側にいることも出来ない。



 ……リリアナ様が王子妃になれば、レオン様はもう出て来られない。



 ……一生……出て来られない。



 レオン様……!



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