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10話 基礎研修

 冒険者としての研修が始まって約1週間が経過したが、俺はまだ基礎の基礎を叩き込まれる段階を抜け出せずにいた。


「もっとちゃんと腰を入れな! 闇雲に振り回せばいいってもんじゃあないぜ?」

「こ、こうですか!?」

「ちっがーう! ここはもっとリラックスして!」


 チェイスによる剣の指南は正直言ってかなりスパルタだ。

 スパルタが何だったかは思い出せないけれども、とにかくキツい。思っていた以上にキツい。


「筋力の強化にもムラがあるねえ、もっと滑らかに魔力を使いな」

「は、はい!」

「まだもう少し滑らかに出来ないかい? 今のままじゃあすぐ息切れしちまうよ?」


 リムは毎日いるわけではないが、時折顔を見せては俺の強化魔法に助言をしてくれる。

 彼女はチェイスほど感情的な印象は受けはしないものの、それでも要求されるレベルは正直高いように思える。


 どちらかを意識すればどちらからか指摘を貰う。基礎的な剣を振るという動作だけでここまで念入りに叩き込まれるとは正直思っていなかった。


「きっつ……」

「まー、そのうち慣れるぜ。アタシもそうだったからな!」


 休憩時間にその場で座り込む俺の横にチェイスが座り、水筒を俺へと押し付けるようにして渡す。


「最近は筋肉もいい感じについてきてるっぽいし、剣の振りも鋭くなってるのは確かだから自信を持てよな。レイ」

「あんまり実感は無いんですけれどもね」

「自分の力なんてそんなもんさね。他の人ならもう研修を終わらせてもいいくらいのところまでは来ているさ」

「研修を終わらせてもいいくらい……ですか」

「アタシはまだ満足してないぜ!? 勝手に抜け出したら追っかけ回すからな!」


 チェイスは俺の肩を勢いよく掴むと、激しく揺さぶり始めた。

 ある意味で逃げ出したいところではあるが、ここで逃げて折角見えたドワーフと知り合えるきっかけを無下にする必要は無いだろう。


「ったく、私から逃げ出しまくってたあんたがよく言うよ」

「っせぇな! あんなメチャクチャなの誰だって逃げるだろ!」

「はは……ちなみにリムさんの研修はどんなだったんです?」

「とりあえずは筋トレだったなあ。1ヶ月くらいずっと筋トレさせられてた気がするぜ」

「ったりまえだろう? 何の魔法も使えないならひたすら肉体を鍛えるしかないさね。正直ここまでのものになるとは思ってなかったけれどもね」


 人の域を超えているように感じるのは気のせいではなかったようだ。


「ま、今回は私じゃなくてチェイス。あんたが教官なんだ、厳しくしすぎてもいけないが甘すぎれば教え子を殺してしまう事になるってのは肝に銘じておくんだよ」

「分かってる。ま、でもやり過ぎちまってるかもしれないって感じた時はレイも言ってくれ」

「分かりました。まあ鍛えてもらえるなら納得いくまで鍛えてもらった方が嬉しいですけれどもね」

「ま、それは難しいと思うぜ。研修期間は一応定められてるし……何なら遅すぎるとそれはそれで不利にもなるからな」


 最長で3ヶ月。これが研修の最大期間だ。

 デビューが遅れれば遅れるほど同期との差は開いてしまい、その焦りが身の丈に合わない依頼を選択してしまうという事態を招く。

 焦りと言うのは分かっていても避ける事の難しいもので、優秀ではあったが、その焦りのせいで帰らぬ人となった冒険者も存在する。


「後1週間……これで仕上げる。いいか?」

「はい!」


 そこからの1週間は今まで過ごしてきた中でも頭一つ抜けて厳しい期間となった。


 朝からランニングに筋トレをみっちりこなした後、強化魔法の鍛錬。その後自らの肉体のみで行う素振りに強化魔法を使用しながらの素振り。

 チェイスとリムからの指摘が飛び、その都度それを意識しながら修正していく。

 苦しいが非常に地味だ。もしもこれが漫画やアニメで表現されるなら数分にも満たないほどに圧縮されたダイジェストで流れているのだろうと考えると、変な笑いが出る。


「もっと鋭く!」

「はい!」

「まだまだもっと!」

「はい!」

「まだいけるはずだぜ!」

「――ッ!」

「よし……とりあえずこんなもんだろ、その感覚を忘れんじゃねえぜ?」


 1週間後、ようやくチェイスが俺を認めてくれるような発言をした。


「これでようやく冒険者に――」

「何言ってんだ? まだ基礎が終わっただけだろ」

「ほぇ?」


 達成感やこれまでの苦労を考えれば、相当な修行をしたように感じていた。

 しかし、まあ考えてみれば素振りだけして研修終了なんてバカな話も無いだろう。俺は思わず変な声を出しながらチェイスを間抜けな表情を浮かべながら見ていた。


「ま、こっから先はそこまで長くはないと思うから頑張りな。私はそろそろこの街を離れるからね、手ぇ抜くんじゃないよ?」

「わ、分かりました」


 リムはそう言いながら俺の背中を強く叩いた。

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