⭕ 目覚めたら病室
意識が飛んだと思った。
フワッと意識が戻った私は両目を開けた。
視界に入ったのは見慣れない天井と物静かな部屋だった。
独特の匂いがする……。
もしかして……此処って病院??
………………何で病院なんかに居るの??
……何で病室に居て……病室のベッドに寝ているの??
……覚えていない。
病院に運び込まれるような事なんて……あったかしらね??
──なんて考えていた私は、ふと何気無く違和感のようなものを感じた。
どんな違和感なのか、言葉に表すのは難しいんだけど…………何か違和感があるのは確かなの。
髪を触ろうとして右手を上げてみたら、白い包帯みたいなのが巻かれていた。
包帯でグルグル巻きにされている右手を見て「 んんん──?? これは何?? 」って感じ。
私の腕って……こんなに短かったかな??
首を傾げて暫く包帯を見てから、右手が使えないなら仕方無いって思って、左手で髪を触る事にした。
左手を上げると左手の先も右手と同じように白い包帯が巻かれていた。
「 …………どういう事?? 」って思わず声が出ちゃったのは言うまでもないわよね?
両手を前に出して、マジマジとグルグル巻きにされている部分を見詰める。
どのくらい見詰めていたのか分からないけど、何か思い出して来たかも知れない……。
私の脳裏に蘇って来たのは赤。
そう言えば……両手から赤い液体みたいなのが大量に噴き出していたような記憶が……。
自分が何処に居たのかは分からないけれど……、赤い液体が飛び散って床が赤く染まっていたような記憶も……。
真っ赤に染まって汚れた床に落ちていたのは────。
両手首の先を失った事を思い出した私は発作を起こしていた。
頭の中で色んなシーンが切り替わって混乱していた。
フラッシュバックって言われる現象なのかも知れない。
ほら、漫画やアニメやドラマで時々見るシーン。
それが今、私の頭の中で起きていた。
胸も苦しくて締め付けられるように痛い。
誰かに心臓を鷲掴みにされて力を込めて握られてギュウギュウとされてるみたいな感じ??
呼吸もちゃんと出来なくて、この発作は辛い!!
ナースコールを押したいけど包帯でグルグル巻きにされている両手では押せるわけもなくて、私は1人で耐えないといけなかった。
──っていう事が昨夜の出来事だったりする。
目が覚めたら昼過ぎだったから、あまりの苦しさに途中から意識が飛んで気を失っちゃったんだと思う。
夢みたいなのを見ていたような気がするんだけど……、それは多分、病院へ運ばれる前に起きた事だったと思う。
私は最寄り駅に居て、自宅へ帰宅する途中──だったと思うのよね。
何で最寄り駅に居たのかは思い出せないんだけど、電車に乗って何処かへ出掛けていたのかも知れない。
出掛け先の事は全然思い出せないし、頭痛がして痛くなるから考えないで放っとく事にした。
最寄り駅には2階と1階に色んな店舗が揃っていて買い物をする時は、最寄り駅に行けば大概済んじゃう。
私は多分、色んな店を見ながら歩いていたんじゃないかしらね?
何処からか叫び声や悲鳴が聞こえて来て、大勢の人達が走って逃げていた事も思い出した。
全く知らない男が、鋭い刃物── 多分だけど、あれは間違いなく中華包丁だと思う ──を持っていて、振り回しながら暴れていたのも何と無くだけど覚えてる。
──そうだった!
所々すっぽ抜けてはいるけれど、私は刃物を振りかざしていた男に追い掛けられていて、走って逃げていたんだ!!
必死に走っていたから何処まで走って逃げたのかは分からないけど、私は男から逃げ切る事が出来たんだわ。
だけど……、不運にも私は男に見付かってしまって、襲われた……。
そう──、場所は交番の中だった。
交番なのに、お巡りさんが1人も居なくて、お巡りさん交番に戻って来るの1人で待っていたの。
…………馬鹿だった。
今、思えば本当に “ 馬鹿だった ” としか言いようがない。
スマホを使えば良かったじゃん。
父親にスマホで連絡して、迎えに来てもらえば良かったんじゃないのよ。
一体何の為のスマホなのか。
非常事態の時に使ってこそのスマホじゃないのよ!!
普段何気無く使っているのに肝心な時には使うのを忘れちゃうなんて、大馬鹿者としか言いようがない。
今更、自分の至らなさを責めても仕方無いんだけど……。
“ 自責は時間の無駄 ” だって誰かも言ってた。
起きてしまった事を無かった事には出来ないし、時間を巻き戻す事だって人間には出来ない。
切り落とされてしまった両手は元には戻らないんだから、此処にある現実を受け入れなくちゃ。
何時までもウジウジグジグジしていたって、失った両手が生えて来る事だってないんだから!!
だって、私は再生能力に長けたナメ●ク星人じゃないんだもん。
私の意識が戻ってからは父親が会いに来てくれたり警察の人が訪ねて来たりと暫くは騒がしかった。
私の両手が包帯でグルグル巻きにされているには意味があるみたいで、刑事さんの話を聞いて納得した。
事件当時、私の切り落とされた両手は交番の中では発見されなくて、私の両手を切り落とした犯人が持ち去っていたみたい。
私の両手は未だに行方不明で見付からないみたい。
犯人は持ち去った両手の事は完全黙秘しているみたい。
肝心の犯人だけど、犯人が持っていた刃物はやっぱり中華包丁だったんだけど、ホームセンターで万引きされた中華包丁だった事が判明したみたい。
今日日はホームセンターに中華包丁も売られているの??
どうやら犯人には万引き癖の酷い万引きの常習犯みたいで、万引き犯のブラックリストに名前が載っているぐらいヤバい犯罪者だったみたいなの。
それを聞いた私は背筋がゾッとして、寒気がした。
意識が完全に飛んでしまう前──、朦朧としていた私の耳元で囁かれたあの言葉を思い出した。
何処かで聞いた事のあるような……覚えのある声で囁かれた言葉。
「 君の大事な両手は貰ったよ。君が最初に▲◆●▼だから、自業自得だね──── 」
私が最初に──何??
私が何をしたって言うの??
肝心な所が聞き取れなかったみたいで分からない。
当たり前よね。
だって、意識が朦朧としていたんだもの。
肝心な部分が思い出せないのは私の所為じゃない。
だけど──、刃物を振り回して暴れていた犯人がブラックリストに名前が載るぐらい有名な万引き犯だったなんて驚きだわ……。
どうしてこんな事件を起こしちゃったのかしらね??
刑事さんの話によれば、最近多発している事件の大半がブラックリストに名前の載っている万引き犯が起こしているらしいの。
万引き犯なのに万引きでは中々捕まえられないのに、万引き以外の事件で逮捕する事態が頻繁に起きているみたい。
だから、色んな店でGメンや私服警官が店内を巡回したり、警備員に依頼したりして万引きする人を減らそうって活動が数年前から本格的に始まったみたいなの。
どんなに強化をしても興味本意や軽い気持ちで万引きに手を染める人は減らないみたいで、万引きから足を洗わせるのも難しいみたい。
MHA更正委員会っていう組織も新しく作られて、万引きをした人は初犯も含めてMHA更正委員会の更正施設へ連れて行かれるみたい。
M ─→ 万引き
H ─→ 減らそう
A ─→ 明るい未来
やっぱりね、ふざけた名前の委員会ね!
ネーミングセンスを疑っちゃうわ。
然もよ、万引きが初犯でも強制的に施設へ送られちゃうってのは迷惑な話!
然もよ、施設は手を付けてない広い土地が有り余ってる北海道にあるみたいで、年齢別に収容されてカウンセリングを受けながら更正カリキュラムも受けるみたいなの。
なんて最低最悪で迷惑千万な施設なの!!
私は絶対に行きたくない!!
私は捕まるなんて御粗末な失敗はしないわよ!!
まぁ兎も角、万引き犯による様々な事件が多発しているから私も重々気を付けて生活するようにって心配された。
治安が良かった時代は過ぎ去って、物騒な世の中に逆戻りした感じ?
中には万引きをして逃げてる最中に事故死する万引き犯も増加しているらしい。
だからなのか「 呉々も万引きなんて馬鹿な事はしないように! 」って刑事さんに釘を刺されてしまった。
余計な御世話なんですけどぉ!!
私は事故に遭うようなヘマなんてしませんよぉ~~~~だ!
あっかんべぇ~~~!
父親から話があって、「 両手がないと不自由だろう 」って事で、なんと義手を作ってくれている事が分かったの!
「 大事な娘の両手だから 」って、父親は私の義手に大金を叩いてくれたみたい。
私って、愛されてると思う。
有り難う、お父さん♥️
私、めいっぱい親孝行するからね!
リハビリは大変で辛いと思うけど、めげないで頑張ろうと思うわ!
自由自在に指を動かせるようにリハビリにはド真剣に取り組もうと心に誓うの。
だって、手先が器用に動かせないと、上手く出来ないもんね!
何が出来ないかって?
そんなの決まってるじゃないのよ。
ま・ん・び・き♥️