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再会

 私は、あのクリスマスイブの青年との出来事の翌日、仕事を変えた。ずっと興味のあった花屋に勤め初めていた。何故だろう、あんなに変化が怖かったのに。あの青年の優しさに触れたことで、一歩を踏み出しても大丈夫だと思えたのだ。たった一歩、しかしこの小さな一歩で私の人生は大きく変わることになる。


 五月晴れのある日、親戚一同の集まりの会食の場で祖母は急に『老人ホームに入る』と言い周囲を驚かせた。その時には祖母は、友人と二人仲良くホームに入居する手続きを済ませていたのだ。

 これ以上の負担を子供達、孫達には掛けることは不本意だと言った。

そして「頃合いだね。」そう満足気に笑った。

その笑顔の裏に、祖母の苦悩を感じた。祖父を看取り、気付けば老いた自分。一つ一つ出来ていたことが出来なくなり、その苛立ちは行き場を失い周りを攻撃してしまっていたのだろう。

それは、まさに祖母にとって不本意だったのだ。その呪縛から解かれた、そんな笑顔に感じた。


 祖母の荷造りを手伝った。不必要判定された物は簡単に捨てられ、残った荷物は少なかった。

私は、少なくなった荷物を切ない思いでまとめた。もっと何かできたのではないか?もっともっとと自問をしながら。

そんな私の気持ちを察してか、別れの際「紗奈、今まで本当にありがとう。楽しかったよ。これからは自分のやりたいことをおやり。」と言って私の手を握ってくれた。

そして「人生はあっと言う間だよ、楽しんで。」と言って、清々しい表情を私の心に残して去っていった。


朝、蝉の声で目覚める季節、思わぬ再会があった。

ある日画廊から、アレンジの注文がきた。

店長が「紗奈さん、そろそろお客様に出してみようか?」と任せてくれた。

小さいブーケや練習ではアレンジメントを作っていたが、私に任せられた仕事としては初めて大きなアレンジメントだった。

 私は画廊と聞いたので、なるべく作品の邪魔にならないよう色味を押さえ、季節を感じなられるよう夏山をイメージし緑に幅を持たせた構成にした。それをオアシスに差していった。

 初めての一人の仕事に思ったより緊張していたようだ。時間はあっという間に過ぎていった。

店長は出来上がったアレンジを見て「うん。時間はかかったけど、良いね!構成力があるんだよね。紗奈さん。」笑顔で店長が言ってくれた。

「じゃあ、画廊に届けといてね。場所わかる?」

「ええ、何度か配達しているので。」


 私はミニバンにアレンジメントを載せナビに従い画廊へ向かった。

入口に展示された作品に、息を吞んだ。大地に包まれるような、もっと大きな存在に触れたような。とても心地良い作品だった。と同時に恐怖を感じた。こんな作品に触れてしまったら、心を鷲掴みにされすべてを持っていかれそうな気がしたから。

作者名には伊山イヤマ 晴人ハルトと書かれていた。

しばらく、作品の前から動けないでいる私に。奥から声がした。

「どちら様ですか?個展は明日からで・・・」私は、聞き覚えのある声に胸が締め付けられた。

「こんにちは、フローリストキトゥンです。アレンジをお持ちしました。」

すると奥から、声の主が現れた。嗚呼やはり、あの日私に力をくれた青年だった。

 

 彼は私の動揺には気づいておらず、一瞬軽く目を見開き、アレンジを見た。

「いいですね!これ、あたなたのアレンジですか?」

「はい、まだまだ勉強中ですが」

「僕は好きですよ。個々の良さを主張しつつも、他と共存することで両者を更に引き立てる。良く花を見てないと出来ない作品ですよね、きっと。花への愛を感じるなぁ。」彼は嬉しそうにアレンジを見ながら言った。

 感動的な再開は独りよがりなものとなった。

 

しかし、次の機会は、突然だった。一本の電話がお店にがかかってきた。

「紗奈さん、お客様から電話」店長から渡された電話出る。「お電話かわりました。神崎です。」

「覚えているかな?先日画廊にアレンジを届けてもらった、伊山です。不躾で申し訳なんだけど、あなたにお願いがあって。」

 思わぬ彼からの依頼は、今度友人達とグループ展をするにあたって、私に会場を花で飾って欲しいとの事だった。私は気づけば「お受けします。」と答えていた。

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