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約束の日

 グループ展はというと、大盛況のうちに終わった。美術雑誌にも新鋭作家集団現る!として取り上げられ、伊原君達は成功への第一歩を踏み出した。

 伊山君に、「もし違う出逢いがあったら迷わず私を忘れて欲しい」と言った。

彼は少しムッとして、「以前も言ったよね、もっと自分を大切にって、俺は待ってるよ紗奈さんを。」そう言った。

そして私達は、最後にお互いの連絡先を削除して、5年後の再会を約束し別れた。


 私はフラワーデザインを基礎から学ぶべく専門学校へ通うことにした。

主人とも向き合って今後について話し合った。

お互い別の人を愛しており、これ以上の婚姻生活継続は難しいという意見で一致した。

離婚の時期は、息子慶太の大学進学まで待つこと、それまでは一緒に家族でいることに誠意を尽くすとお互い約束した。夫はその間に確固たる地位を固めることにした。

 

 夫婦が息子のために力を合わせたら、慶太も変わった。外泊することも無くなり、規則正しい生活となった。生活が見直されたら、成績も自然と上がっていった。

慶太は無事第一志望の大学に入学し、家を出た。私達の離婚についてはすんなり受け入れてくれた。いつの間にか彼も成長していたのだ。

夫との最後の3年は息子を支える同士だった。夫、慶太と家族として過ごす事ができた楽しい日々だった。

 

 そしてあっという間に月日は過ぎていった。

 離婚後、元夫は、不倫関係だった彼女と出来ちゃった再婚。

先日街で偶然会った彼は「今更子育てだよ。」と照れた笑顔を見せた。

その笑顔は見たのことの無い、本当に幸せそうな笑顔だった。離婚して良かった。


 伊原君達は雑誌などに新鋭アーティスト集団として、取り上げられている。

昨夜はテレビで彼らの一週間密着取材が放送されてた。アトリエは以前と違い、コンクリ打ちっ放しのオシャレ建物になっていた。場所も交通の便の良いとこに移されていた。

それぞれが一線で活躍していた。伊山君の作品展へ行きたかったが、臆病な私は行けないでいた。

画集を買ったり、雑誌を買ったりして伊山君の成功を喜んだ。少しの寂しさと一緒に。

 

 国近さんは映画の美術監督など、多方面で活躍していた。彼女の美しさは増していた。凛とした強さに最近少し柔らかさが伺える。何か変化があったのかもしれない。

里崎君は、若手アーティスト集団として、何か未来に貢献出来ることはないかと模索し、若者を中心とした仮想空間での仕事の提供を行って注目を浴びている。

 私はフラワーデザイナーとして一歩を踏み出していた。少しずつだが依頼が来るようなってきた。


 そして、今日8月26日伊原君と約束した日だ。

前日から眠れないでいた。期待と不安で。

私は足早に約束の場所に急いだ。彼は居るだろうか、違う幸せを見つけ、私を忘れただろうか。

不安な気持ちを押し殺し、歩いた。

 久しぶりに訪れた約束の場所は今もあった。恐る恐るドアを開ける。開けた途端、あの頃の思い出があちこちに浮かんだ。

アトリエとしての役割は終えていたが、綺麗に掃除はされていた。ただ、そこは時が止まったように静まりかえっていた。私は急に孤独が怖くなって、彼を探した。


 奥から物音がした。見るとそこには懐かしい彼の姿があった。

お互い引き寄せられるように歩み寄った。「お帰り」と微笑む伊山君に私は「ただいま」と言った。

私達は初めてお互いに触れた。5年分の話しをしよう。そして、これから時を一緒に過ごそう。

 

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