与えられた時
彼と私に与えられた時間は10日間。この時間は、彼を一番に自分に素直に過ごそうと決めていた。
仕事は一週間休みを貰った。もともとグループ展に向け休みを取る予定だったので、調整は直ぐにできた。
午前中はグループ展へ向けて自分の準備、午後は彼のアトリエに顔を出していた。特に何かをするわけではないが、傍に寄りそい、時を共有することに努めた。
アトリエに行くと国近さんが玄関で立っていた。
「どうして、晴人と一緒にいるの?どういうつもり?」
「少しだけでも一緒にいたかったの。ごめんなさい、身勝手だということはわかってるわ。」
国近さんは私の顔見て、深いため息をついた。
「あなたが消えた後、晴人はどうなると思う?」そう言って国近さんは、出ていった。
私には根拠のない自信があった。伊山君はこの難局さえ乗り越えれば、私の存在は不要になると。
アトリエの皆には、伊原君が説明してくれたようで、誰も二人の事を詮索することは無かった。
私達は残された時間を常に意識しながら、少しの時間も惜しむように一緒過ごした。
二人でいるだけで、モノクロの日々が彩られ毎日が耀いていた。
別々の事をしていても、常に同じ空間に相手の存在を感じ満ち足りた気持ちになった。
私達は決して触れ合う事は無かった。
間近で彼の制作活動を見ることは、本当に素晴らしい体験だった。まるで彼の息づかいか聴こえてくるような、体温が感じられるようだった。その場に居るだけ、触れ合うよりも彼の存在を近く感じる事ができた。
私は彼に人として魅了されているのだと実感した。そうか、年齢や見た目が、人間の本質に与える影響は少なく、私は彼の存在自体を愛しているのだと悟った。
そして、伊原君の作品は今までの包み込む優しさに、人間の醜い部分や負の感情、人を愛しむ感情が入る事で、更に厚みが出た。彼は、確実に成長を手に入れたようだ。
しかし、幸せな時は、あっという間に過ぎた。
明日はいよいよグループ展のオープニング。全て万事整った。




