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⑥「この異世界ダンジョンは」

【第一章 チュートリアル編】の最終回です。

いよいよ設定公開回!ワクワクして貰えれば幸いです。


「おっ!思ったよりも早かったじゃねーか!案外やるなあ、シャチホコ!」


 圧倒的なパワーでドラゴンが骸骨兵スケルトンをねじ伏せた後、自己紹介を終えた僕たちは、大部屋の奥の通路をひたひたと歩いていた。「全部、後でちゃんと説明するからね」、とハナコ先輩に申し訳なさそうに言われたので、僕は色々言いたいことがあったけれど、全てグッと堪えることにして、ハナコ先輩に先導して貰いながら歩みを進めた。しばらく進むと、鉄製のドアの前へと辿り着いた。さっきの骸骨兵スケルトン軍団以降は、モンスターとは一切遭遇しなかった。やっぱりこのダンジョン、ラミィ先輩がわざわざ選んだだけあって、本当に低難度の初心者向けのもののようだ。


 先ほどのトラップがすっかりトラウマになってしまって、なかなかドアノブを握れずにいた僕に代わって、ハナコ先輩がドアを開けて、僕を先に部屋に入れてくれた。今度はワープさせられることもなく、中にいたのは、脚長のまるテーブルに、何処から拾ってきたのやら、ティーセットを広げて呑気に紅茶とお菓子を嗜んでいる最中のラミィ先輩だった。


「ちょっと、ラミィ先輩!人が死にかけてる時に、何を余裕ぶっこいてんですか!!今度こそちゃんと説明して貰いますからね!!!」


 しかし、抗議の声を上げる僕は無視して、ラミィ先輩は僕に続いて安全地帯セーフゾーンに入ってきたハナコ先輩の、一つに結え直した短めのポニーテールを指差して溜息を吐いた。


「はぁ……。いつものおさげがひとつ結び……さてはハナコ、お前、【御守り】使ったな?」


「ええ、部長。……すみません、緊急事態だったので」


「は?こんなザコダンジョンのしかも一層目でか?お前、いくら何でもやり過ぎだろ。“趣旨”わかってんのか?」


「それは……」


 静かにキレるラミィ先輩に対して、申し訳なさそうに俯くハナコ先輩。いや、黙って見てる場合じゃない!ハナコ先輩は命の恩人で、ラミィ先輩は僕を殺しかけた人だぞ!?急いで仲裁に入らなくては!!


「ま、待ってください、ラミィ先輩!ハナコ先輩は、モンスターに囲まれた僕を助けようとしてその、不思議なドラゴンを召喚してくれたんです!!」


「チッ……よりによって【たつ】を引いてたのかよ……。それより、おい、シャチホコ。お前、囲まれたってのは何体くらいにだ?」


「八体です。あいつら、僕がトラップにワープさせられた瞬間、たちまちのうちに襲い掛かってきたんです」


「マジか!お前、よりによって【モンスターハウス】に飛ばされてたのかよ!!そりゃ、ハナコが【御守り】切るのも仕方ねぇわな……」


「言いすぎて悪かった」、と素直にラミィ先輩はハナコ先輩に頭を下げた。


「あの、ここは本当に安全地帯セーフゾーンなんですよね?だったら、いい加減説明してください!このダンジョンについて、そしてラミィ先輩の企みについて!」


 僕が堪えに堪えてきた思いをぶち撒けると、ラミィ先輩はテーブルに備え付けられた椅子を指差した。


「わかった。まずは二人とも座ってくれ。それから、合格おめでとう、シャチホコ」


※※※


「ウチの倶楽部の伝統なんだよな、このオリエンテーションを兼ねた【入部試験】は」


 ラミィ先輩は僕とハナコ先輩に紅茶を勧めながら、そう切り出した。


「新入生を捕まえたら、【とうの鳥居】のダンジョンに連れて行く。なるだけ説明は最低限で、【御守り】だけ渡したら中に入れて、あとは二年生に補助はさせるけど、基本的には自力で一層目を突破して、無事に安全地帯セーフゾーンまで辿り着いてもらう……。ウチの倶楽部では毎年、部長の性格によって多少の違いはあるけど、大体こんな感じで、新入生のダンジョンへの適正を見るんだ」


 ひとまず、僕は相槌を打った。けれど、話の中身は知りたいことのまだ二割ほどだ。続きが気になる。


「んで、例年通り部長アタシ新入生おまえをダンジョンまで引率した。ここまでは良い。だけど、ここから先が誤算だった。まさか、初心者向けの【とう】レベルのダンジョンに、トラップが仕掛けてあるなんてな。アタシも初めての経験だったから驚いたよ」


 やれやれ、と他人事のように肩を竦めるラミィ先輩に、僕はすかさず挙手して待ったをかけた。


「そこなんですけど、ラミィ先輩、本当はあのドアがトラップだって知ってたんじゃないですか?だから僕が手を触れようとするのを、しつこく何度も止めた……違いますか?」


 僕が強い口調で主張すると、ラミィ先輩は観念したようにこぼした。


「……半分正解だよ。アタシは、長年の経験とカンから、もしかしたらアレがトラップの可能性も、0.1%くらいはあるかもしれないと思った。だから忠告だけはしておいたんだ。……もちろんこれはお前の為じゃない。何も言わなかったら自分が後悔すると思ったからだ。言わば偽善だな。そこに関しては申し訳ないと思ってるよ」


 深々と頭を下げるラミィ先輩。まったく、そんな殊勝な態度を取られてしまっては、怒ることなんて出来ないじゃないか。


「だが、ここからが真の誤算だったんだ。なんせ、お前が飛ばされた部屋は、まさかの【モンスターハウス】だったんだからな!」


「【モンスターハウス】というのは?名前から何となくは想像出来ますけど」


 僕の疑問に答えたのは、隣で話を聞いていたハナコ先輩だった。


「【モンスターハウス】っていうのは、その名の通り、普通のフロアでは絶対にあり得ないほど、モンスターがうじゃうじゃとひしめいている部屋のことなの。普通はこんな簡単なダンジョンには存在しないはずなんだけど、シャチホコくん、さっきのトラップの件と合わせて考えて見ても、よっぽど運が悪かったみたいね……。同情するわ」


「まあ確かに、小学生の頃、全校生徒でやったビンゴ大会で、六百人中僕だけリーチすら掛からなかったことありましたけど……」


「そりゃ、不運なんてヌルいもんじゃねえな……同情するぜ」


 ラミィ先輩にポンポンと肩を叩かれてしまった。


「運ってのはダンジョンではかなり大切な要素なんだが……まあ、こればっかりは嘆いても仕方ないわな。もしかしたらその内反動でとんでもないラッキーが引けるかもしれないし。それこそ、【せい】を踏破した時のハナコみてーにな」


「えっと……運、ですか……?」


 話についていけなくなってきた僕を見て、ハナコ先輩がラミィ先輩を嗜める。


「やめてよ、部長。話の段取りが崩れちゃう」


「おお、悪い悪い。で、どこまで話したっけ?」


「【モンスターハウス】の説明の途中です。本当なら、【モンスターハウス】は敵がたくさんいるだけじゃなくて、色んな種類のトラップも仕掛けられているんだけど、今回はたまたま作動しなかったみたいね」


 ううん、不運なのか幸運なのか、いまいち分かりかねるな……。


「不幸中の幸い、ってやつですかね?」


「ははっ。実はな、シャチホコ。ハナコ、こう見えてものすげー運が良いんだよ。だからお前の不運を、ハナコの幸運が打ち消してくれたのかもな」


凄いな、ハナコ先輩。女神様じゃん……。何だか急に神々しく見えてきたような……。


「それでね、シャチホコくんが【御守り】を発動させた光を見て場所が分かったから、私も急いで駆けつけた、ってワケ。あらましは大体こんなところかな」


「【御守り】を発動って……僕、何もしてませんよ?ていうかそもそも、さっきからずっっっと気になってたんですけど、【御守り】って一体何なんですか!あれ、ただの神社のおみくじに付いてる、十二支のストラップじゃないんですか!?」


 ようやく訪れた最大の疑問をぶつける機会に、僕は鼻息荒く興奮してしまった。どうどう、とラミィ先輩が僕を宥めながら説明してくれる。


「【御守り】ってのはな、神様を宿した動物達の力を借りることの出来るアイテムなんだ。あの神社で五百円で引けるんだけど、必ず自分の運で引き寄せなきゃいけないってルールがある。運命ってやつだな。命を運んでもらうんだ、そのくらいは自力で引かなくちゃならないのさ。んで、ついでに言うと、ダンジョンに【御守り】は一つだけしか持っていけない。前に二つ以上持ち込もうとしたことあんだけど、転移の時に一つを残して砕けて消えちまった」


 その後の説明は、ハナコ先輩が引き取った。


「それでね、【御守り】は基本的には全部で十二種類あるの。そう、干支の数と同じだね。それぞれに特別な能力が備わっていて、とっても強力で心強いんだけど、どれも一度切りの使い捨てになっていて、力を失うと自動的に砕けちゃうんだ。さっき、シャチホコくんが骸骨兵スケルトンに襲われそうになった時に無意識に使ったのが、そのうちの一つ、【さる】のスキル、【見ざる・聞かざる(ノー・ウォー)】なの。発動条件は、持ち主が自分の視覚と聴覚を塞ぐこと。すると、塞いでいる間だけ、周囲のモンスターも同じように視覚と聴覚を失ってしまうの」


 そうか、だから僕が情けなく目と耳を塞いで座り込んだあの時、周りの骸骨兵スケルトン達は、僕のことを攻撃せず、てんでデタラメに剣を振るっていたのか。そして、今更ながらようやく、ハナコ先輩が駆け付けてくれた時のセリフ、「その臆病な勇気こそが、キミの命を救ったんだよ!」の意味が理解できた。同時に、トラップに引っかかる直前、ラミィ先輩が「敵に襲われてヤバいと思ったら、迷わず目と耳塞いで蹲ってろ」と、凄い剣幕で僕を怒鳴り付けた理由も腑に落ちた。そうか、やっぱりラミィ先輩は、手助け禁止の【試験】の真っ最中にも関わらず、何よりも僕の身を案じてくれていた、優しい先輩だったんだ!


「それで、さっき私が使ったのは、【たつ】のスキル、【画竜点睛マスターピース】。超強力なドラゴンを召喚して、周りの敵をやっつけちゃうの!」


 どこか誇らしげに胸を張るハナコ先輩の姿に、ラミィ先輩が補足を加えてくれる。


「【御守り】の効果は、持ち主の【干支】と密接に関係しててな。自分の【干支】と同じ【御守り】は、更に強力に力を発揮するんだ。ハナコはたつ年生まれだからな。相当強力な一撃を敵にお見舞いしたんじゃないのか?」


 なるほど……だから、あれだけ僕のことを追い詰めてきた凶悪な骸骨兵スケルトンの集団を、あのドラゴンは一瞬にして蹴散らすことができたのか。


「ちなみに、もしも【御守り】を使わずにダンジョンを踏破した場合、現世に転移する際にその【御守り】は砕けちまう。次のダンジョンへ持ち越しはできねー。それから、【御守り】は日を跨いでも力を失って砕けちまう。だから、狙った【御守り】で狙った【難易度】のダンジョンに行くこともできねーってこったな」


 なるほど……、それでダンジョン探索には「運が大事」というわけか……。今回は命辛々何とか生き延びられたけれど、この先僕は、本当に大丈夫なんだろうか?


「心配すんなよ。要するに、【御守り】はここぞという時に使うべきってこった。使い所を見極めなきゃなんねーのさ。それを今回、たとえ偶然だろうと上手くできたんだ。なあに、不運も実力のうちさ。胸を張れよ、新入生!」


 バシッ!と勢いよくラミィ先輩に背中を叩かれて、僕のうじうじした迷いは、それでどこかに吹き飛んでいってしまった。そうだよな、“習うより慣れろ”だ。悩んだってしょうがないじゃないか!命ある限り出来ることをやろう……ん?命ある限り?


「そういえば、肝心のダンジョンについての説明がまだですけど……、まず、ダンジョンって、そもそも何なんですか?ここで死んだらどうなるんです?」


「そうだな……。ダンジョンは、一言で言えば、“超巨大な生き物”なんだ」


「生き物?この石造りの建築物がですか?とてもそうは見えないですけど……」


「そうだろうな。だが、実際にそうなんだ。現に、最下層のフロアには、ここ、【とう】で言えば三層に当たる部分なんだが、そこにはこのダンジョンの【心臓】があるんだ!」


「【心臓】?それは何かの比喩ですか?例えば、このダンジョンを牛耳っている、とても強いモンスターとか……ボスって言ってましたっけ?」


「いや、それが心臓そのものの形をしてるんだ。人間とかと同じ形。ただし、違うのは、そいつ、魔法やら何やらでめちゃくちゃに攻撃してくる、ってことだな」


 攻撃してくる【心臓】?不思議な事態に首を傾げたものの、しかし、よくよく考えれば理解出来ない話ではない、か。要するに、侵入者に対する免疫応答のようなもの、と考えれば合点がいく。もしも身体に入ってきた外敵が、心臓部にまで達しようものなら、全力で排除しにかかるのが、生き物として当然の防御反応だろう。


「もっとも、この【心臓】は倒さなくても良い。大切なのは【心臓】の攻撃を掻い潜って、【心臓】が大事に守っているブヨブヨした白い形の立体魔法陣に、一撃を加えてやることなんだ。そうすりゃ、無事にダンジョンから出られる」


「……反対に、そうしなければ、ダンジョンからは出られないんですか?」


「そんなことはない。他にダンジョンから出る方法は二つ。一つは、各フロアにある安全地帯セーフゾーン内の、黄色い平たい魔法陣に触れて祈りを捧げること。ほら、ちょうどそこに見えるだろ?」


 ラミィ先輩が顎で示した先には確かに、壁に円形に紋章の描かれた、魔法陣のようなものがあった。


「んで、もう一つは」


「もう一つは……?」


 ごくりと生唾を飲み込んだ僕に、ラミィ先輩は、まるで今朝の朝食のメニューを答えるような気楽さで言った。


「死ぬことだな」


「死ぬって……!?」


「大丈夫だよ、シャチホコくん。ダンジョン内で死んでも、鳥居の下に強制転移させられるだけだから。現実で死ぬわけじゃない」


 そ、そうだよな……!はあ、良かったあ〜〜〜!ハナコ先輩の説明に、僕はほっと一安心。


「バカやろ!お前、だからって死んでもいい、なんてことはねーぞ!?死んだらダンジョンで集めたアイテム、全部パアになんだからな!挑むからには目標は攻略!最低でも安全地帯セーフゾーンから帰還の魔法陣を使うこと!この二つの手段じゃなきゃ、道中のアイテム及び金銀財宝は持って帰れねえんだからな!死んでも死ぬなよ!!」


 むきーっ!っとラミィ先輩が綺麗な青色の両目を吊り上げて怒鳴った……、この人、『金は命より重い』理論を、どうやら地で行くタイプらしい……。


「他にダンジョンについての補足な。挑めるのは一日一回まで。日を跨ぐまで鳥居のエネルギーが回復しねえからだ。それから、ダンジョン内で走ると【お腹】が空いていく。腹減ってんのに無理をすると、今度は【HP】が減っていく」


 ああ!通りで、ラミィ先輩に連れ回されたり、骸骨兵スケルトン共に追い回されたりしたとき、お腹が空いて力が出なかった、というわけか!


「【HP】なんて、なんかゲームみたいですね」


「はん、それだけじゃない。【レベル】の概念もあるんだぜ?」


「ホントですか!?ますますゲームみたいだな……、待てよ、それじゃ、ラミィ先輩やハナコ先輩なんかは、僕なんかよりずっとレベルが高いんじゃ……?」


 そうか、強くてニューゲーム状態なら、僕にとっては死にかけるほど厳しいこんなダンジョンでも、先輩達にはザコダンジョン呼ばわり出来るってワケか。


「ふふん、どうかな?おいハナコ、眼鏡貸してやれ」


 はい、とハナコ先輩に渡された眼鏡を、僕は現実でラミィ先輩に鳥居を見せられた時のことを思い出しながら掛けてみる。どうやらコレも度は入っていないみたいだ。


「……って、うわあ!?ラミィ先輩の顔の横に、【レベル】と【HP】と【お腹】って項目がありますよ!?てか、ハナコ先輩にも!!」


「ふふっ、本当にいいリアクションすんなあ、お前は。何てったってコレ、【鑑定メガネ】だからな。現実でも使ったのと同じさ。本質が見えるんだ」


「あれ?でも現実の時は、ハナコ先輩に借りたって……」


「アレは私のスペアを貸したの。普段から私が掛けてるのも【鑑定メガネ】。ずっと前に倶楽部でこのダンジョンを攻略した時に、現実に持ち帰ったアイテムの一つなんだ」


 マジかよ!すげーぞ、【放課後ダンジョン倶楽部】!超技術アイテムを現実に持ち帰って使えることを知って、僕は死にかけたことすら忘れて、俄然ダンジョン攻略に興味が湧いてきた!!


「で、話を戻すぞ。ほれ、アタシとハナコのレベル見てみ?」


 どーせ僕なんかより数十倍高いんだろうなあ……そう思っていたので、僕はすっかり度肝を抜かれて、椅子から転げ落ちてしまった。


「えっ!?二人とも【レベル1】!?」


「ははっ、やっぱお前サイコーだわ。そうそう、ここに限らず、ダンジョンは一度脱出すると、強制的にレベルは1に戻されちまうんだ。ちなみに、レベルが上がるとHPとお腹は全快する。これらの数値は【鑑定メガネ】があれば、自分の胸に手を当てりゃ分かるようになるけど、ま、最悪なくても、慣れてくれば気力や体力の充実具合の体感でわかるようになるさ」


「じゃ、じゃあ、僕がハナコ先輩に助けてもらった後、急に身体中に力が漲ったのって……?」


「あ、あれは普通に【エリクサー】あげたから。あのゼリー飲料、一見大したことなさそうに見えるけど、実は身体の悪いところ全部治してくれる優れモノなんだよ」


「マジか!ハナコお前、一階層で【エリクサー】引くとか、どんだけ豪運なんだよ……」


 若干引きつつも、ラミィ先輩は説明を続けた。


「最後になったけど、一番重要なことな。このダンジョンは、【入る度に地形が変化する】!つまり、アタシもハナコも、“今回の【とうの鳥居】は初見”ってことだ!なのに簡単簡単って知ったふうな口を効くのは、決して舐めてるからじゃねえ!これまでの倶楽部活動で、それだけの経験を積んできたから、ってことだ!」


 そこまで言うと、ラミィ先輩はひと息に紅茶を飲み干した。それから、大事なことを告げる前の校長のような咳払いを挟むと、僕の方へと向き直った。


「さてと。随分話が長くなったから、要約させてもらうぜ。【入る度に変化する地形】に【“御守りのみ”というアイテムの持ち込み制限】、【数々のトラップ】に【強制レベルリセット】、【“勝てば全てを手に入れてウハウハ、負ければ手ぶらで放り出されてしょんぼり”の弱肉強食のルール】!」


 一つずつ、指を突き立てて数えながら、ラミィ先輩は口にしていった。


「要するに、アタシらが挑んでるこの異世界ダンジョンは、【ローグライクダンジョン】ってこったな!!!!」


 【ローグライクダンジョン】の攻略。それこそが、僕たち【放課後ダンジョン倶楽部】の目的。


 死んでも死なないとは言え、傷ついたり怪我したりするのは、死ぬほど痛いし死ぬほど恐ろしい。この先だって、何度辛い目に遭うか分からないし、先輩達だって、いつも僕のことを助けてくれるワケじゃない。数々の死線をくぐり抜けて、やっとの思いで最深層に辿り着いたとしても、呆気なくトラップで殺されて、何も手に入らないなんてことも、きっとザラにあるだろう。それに、毎度毎度、入る度に地形が変化するのなら、対策なんて立てようがない。アイテムだって持ち込めるのは御守りだけだし、それだって引いてみるまで分からないランダム要素を含んでいる。おまけに、攻略するにせよ負けるにせよ諦めるにせよ、次挑む時はまたレベルは最初から。やればやった分だけ上手くいく、なんて保証はどこにも無いし、むしろ生来不運な僕のことだ、青春真っ只中の貴重な高校時代の放課後の三年間が、何も得られずにただ失われるだけかもしれない。


 でも──いや、だからこそ、なんだろうな。


 目の前の先輩二人の表情が、これら全ての不安をいとも容易く打ち消してしまうほどに、生き生きと輝いて見えるのは。


「どうだ、これからもやっていけそうか?【シャチホコ】」


 ──僕に名前を与えてくれた人。


「無理強いは決して出来ないけど……でも、私、【シャチホコ】くんとなら、楽しくやっていけると思うなあ!」


 ──僕の命を救ってくれた人。


「……はい!!沢山迷惑もおかけすると思いますが、精一杯頑張りますので、これから、どうぞよろしくお願いします!!!!」


 こうして僕たち放課後ダンジョン倶楽部の活動が、本格的に始動したのだった。


(チュートリアル編 完)


(続くかも)

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