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⑤「その臆病な勇気こそが」

バトル回です!

楽しんでいただければ。

「ラミィ先輩が……いない!?」


 おおよそ八体もの、剣や弓を武装した骸骨兵スケルトンの軍団が、一斉に僕の方へ向かって駆け出してきた!それと同時に、僕は全ての思考を後回しにすると、踵を返して、背後の通路へとスタートダッシュを決めた!


 無理無理無理!あんな見るからにヤバそうな連中、勝てるわけがない!つか、ラミィ先輩だって一対一サシならともかく、多対一ならまず勝てないって言ってたじゃないか!


 ガシャガシャガシャと甲冑の金属音を石造りの狭い通路にこだまさせながら、骸骨兵スケルトンは僕の背中を追いかけてきてるようだ。走りながら必死に打開策を考える。様子から察するに、到底対話の通じそうな相手ではない。視線だけ背後を振り返る。人一人分ほどしかない通路の狭さのおかげで、どうやら連中はお行儀良く真っ直ぐに列を成すことでしか、僕のことを追いかけられないらしい。


 取り敢えず、僕の現状はどうなってる!?なるだけ冷静に考えろ!安全地帯セーフゾーンのドアノブに触れた瞬間、僕の目の前にコイツらは現れて、そして背後にいたはずのラミィ先輩はいなくなった。つまり、一瞬にしてこいつらが姿を現し、頼れる味方が姿を消したというわけ──


 違う!僕は凝り固まった思考回路を解すようにブンブンと頭を左右に振った。そうじゃない!コイツらが現れて先輩が消えたんじゃない!“僕がコイツらの元へ一瞬で移動させられた”んだ!!


 てことは、恐らく、このビックリドッキリ最悪事態は、あのドアノブとの接触がトリガーになって発動したトラップだったんだ!!


 さて、じゃあこれはラミィ先輩の不測の事態か!?いや、違う!多分そうじゃない!あの人は、不用意にドアノブに触ろうとする僕を不自然なほど何度も引き止めた!ということは、これはラミィ先輩の仕掛けたトラップ!?でも何のために!?


 ヒュン!!と不意にくうを切る鋭い音を背後に感じた。怖くて確認できないけれど、恐らく僕のすぐ後ろに付けている骸骨兵スケルトンが、刀を振るったに違いない。全身から冷や汗がびゅっと噴き出る。振るわれたその切っ先は、間違いなく、肉を切るのに十分過ぎる切れ味を誇っていることだろう。クソ!思考を切り替えろ!ラミィ先輩の思惑は後回しだ!今は現状をどう乗り切るかに考えを集中しろ!


 僕は背後をちらりと振り返った。最後尾までは無論見えないけれど、先ほどから追いかけてくる足音は複数だ。となれば、ここで僕の取るべき選択肢は二つに一つ。


 ①このまま逃げられるだけ逃げ続けて、何とかラミィ先輩と合流する。②一対一の構図であることを活かして、一体ずつ対処する。


 さあ、どうする!?僕はアドレナリンでバクバクに開いた身体中の血管から、灰色の脳細胞に酸素を送り込み、精一杯の最善策を模索する。①の場合、このままひたすら走り続ければ、いずれ何処かの部屋に出るかもしれない。そこにラミィ先輩がいれば助けを求められるし、あるいは今度こそ本物の安全地帯セーフゾーンが見つかるかもしれない。一方で、このままこの通路の先が行き止まりの可能性だって否定はできない。そうなれば自動的に②の対処を余儀なくされる。②の場合、集団リンチされるよりはまだマシだが、まず僕に戦闘経験がないこと(あるはずない。僕は安心安全な令和の時代のごく一般的な男子高校生だ)、そしてもし仮に一体目を倒せたとしても、次から次へと骸骨兵スケルトン達との連戦になるため、僕の体力が保たないことがリスクとして余りにも致命的だ。


 くそう、考えてる間にも通路の終わりは近づいているし、骸骨兵たちはギリギリの距離まで近づいて来ている。いつ背中を切られてもおかしくない、ほんの数センチの距離感だ。そして、こんな非常事態に何を呑気なと思われるかもしれないが、さっきからやたらとお腹が空いてきている。やばい、そろそろ何か食べないと、冗談みたいに聞こえるかもしれないけど、ホントに飢え死にしてしまいそうだ!


 僕がさんざん迷って、結局①とも②とも決めきれぬうちに、先にタイムオーバーが訪れてしまった。そう、通路の終わりだ。しかし幸い、そこは行き止まりではなく、その先に松明の灯りが見えた。つまり、この先には大部屋が存在するということだ。


 よし、あと一息だ!僕は気合を入れ直した。あとはここにラミィ先輩がいてくれるか、あるいは安全地帯セーフゾーンの扉が見つかれば(そして今度こそそれがトラップでなければ)、ワンチャン助かるかもしれない!!


 そう思って、最後の力を振り絞って、さながら走り幅跳びのような跳躍で、飛び込んだ部屋の中には──。


 まさに、絶望と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた……!


「なっ……頭良すぎかよ……っ!!」


 なんと、僕から見て正面の通路から、骸骨兵スケルトンが四体、大部屋に突入してきたのだ!


 クソッ!つまり、連中は全員で僕を追いかけてたんじゃなくて、最初から二手に分かれていて、この大部屋で挟み撃ちにするつもりだったんだ!!


 動揺に足がすくんだ瞬間、油断した隙を突かれたのか、僕の右足のアキレス腱に鋭い痛みが走った!


「がっ…………!?」


 余りの痛みに、僕はたまらず、半ば倒れ込むように座り込んでしまう。くるぶしを見ると、木製の矢が刺さっていた。どうやら背後から追いかけてきた骸骨兵スケルトンの一体が、弓矢を放ってきたらしい。


「くそう、チクショウ!こんなとこで死にたくねーよ!!!」


 だが、僕の情けない叫びも虚しく、ウサギを追い詰めた狼の集団のように、前後から剣を片手に骸骨兵スケルトンの軍団がじりじりと僕ににじり寄ってくる。


「死にたくない死にたくない死にたくない……生きたい!!クッソ!!!!」


 無論、無慈悲な狩人ハンターに言葉なんて通じない。前方から骸骨兵スケルトンの一匹が、僕目がけて切り掛かってきた!!


 その瞬間、あまりの恐怖に、堪らず僕は目を瞑って耳を塞ぎ、心の底から神に救いを祈った!!


 ……………………。


 ……………………………………?


 心の底から戦いを拒絶した、その瞬間。


 ──何も、起こらなかった。


 何も起こらなかった、というのは、文字通り“何も起こらなかった”ということだ。


 何故だろう?


 僕はどうしてまだ生きているんだ?


 それとももう、死んでしまったのか?


 どちらにせよ、怖くて目を開くことも、耳を塞ぐのをやめることも出来ない。


 骸骨兵スケルトンに、僕の身体は引き裂かれたのか?そして余りの痛みに意識を失い、ここはもうあらゆる感覚を遮断された、虚無の世界になってしまったのか?


 だがしかし。


 おかしい。それならどうして、“僕の左手首が煌々と、眩いばかりの神々しい光を放っているのが分かる”のだろう?


 我慢出来ずに目を見開いたその時、目の前には、明らかに混乱したようにてんでバラバラな方向に剣を振り回す骸骨兵スケルトンの群れが見えた。続いて、耳を塞ぐ手をどけた時、たしかにどこかで聞き覚えのある声が聞こえた。


「よく出来ましたっ!その臆病な勇気こそが、キミの命を救うんだよっ!」


 正面の通路から飛び出してきたのは、黒髪おさげで眼鏡の、セーラー服がよく似合う先輩──


「【画竜点睛マスターピース】!!!!」


 先輩が叫ぶと同時に、おさげの片方を結んでいたヘアゴムが眩い光を放った!かと思うと、たちまちのうちに、信じられない光景が眼前に広がる!!!


「ド、ドドド、ドラゴンッ!?!?」


 空想上ファンタジーの生き物であるはずの真っ赤な巨体のドラゴンが、どこからともなく大部屋の中心に召喚された!!それはまず、挨拶代わりに一気に骸骨兵スケルトン四体を尻尾の一撃で薙ぎ払う!!!風に吹かれた埃のように、骸骨兵スケルトン達は勢いよく宙を舞いながら、激しく壁に叩きつけられ、それらはあっという間に粉々の骨と化してしまった!それから、ドラゴンは背中の小さな黒い羽を広げると、一瞬にして僕の背後に回り、その右手の爪で残りの骸骨兵スケルトン達を壁の方に四メートルほど弾き飛ばし、トドメに火球の一撃をお見舞いした!何てパワーだ!!僕を散々苦しめた連中が、あっという間に殲滅せんめつされたのだ!!!


 役割を終えると、ぶしゅうううと煙を立てながら、ドラゴンはまるで幻だったかのようにその姿を消してしまった。呆気に取られ、ポカンと口を開けたままの僕に、おさげの先輩が心配そうに駆け寄ってきてくれた。


「大丈夫だった!?はい、これ携帯食料!とりあえず喉に流し込んどいて!」


 渡されたのは、ゼリー飲料の入ったプラスチックパックだった。何が何やらわからないまま、ひとまず僕は言われるがままにそれを一息に飲み干した。すると、先ほどまでヘナヘナと抜けていた全身の力が、たちまちのうちに漲ってきた!足首の痛みも全く気にならず、刺さった矢を引き抜いて、すっくと立ち上がることさえ出来た!


「あ、ありがとうございます……。あなたが【ハナコ】先輩……で、合ってますよね?」


 元気になった僕を見て安心したように微笑むと、目の前の女性は眼鏡を外して布で拭き、それからもう一度眼鏡を掛け直した。


「うん、HPもお腹もすっかり回復したみたいだね!そうだそうだ、自己紹介がまだだったね。私の名前は『花村はなむら 小春こはる』!倶楽部では【ハナコ】って呼ばれてます!部長から話は聞いてるよ!どうぞよろしくね、シャチホコくん!」


 そう言って差し出された手は、左手だった。僕も握手に応えようと、左手を差し出す。


 握手を交わしながら、何か、違和感があった。


 もう一度、ハナコ先輩の顔を見て、その原因に思い当たる。そうだ、ハナコ先輩の左右のおさげの、さっき光った方の髪が、すっかり解けてしまっているのだ。


 だから、気付くことができた。


 ダンジョンへ来る直前に、ラミィ先輩の手によって、僕の左手に巻かれたヘアゴム、そこに付けていた【猿】の御守りが、消えて無くなっていたことに。



(続くかも)

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