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妖物語  作者: 架闇葵
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第二話

 山の中を並び歩く鏡華とこよりは口を一度も開いていなかった。

 鏡華はいつも通りと言えばそうだが、騒がしいことこの上なしのこよりが喋らないことは鏡華が寝てるとき以外ありえない異常事態なのだ。


「天野、何か心配事か?」


「あー、いや。…鏡くん、あの人来れるかな?」


「来れなかったらそれまでだ」


 少し心配そうにしていた鏡華にこよりは微笑み、少し前を歩いていた。

 その時、頭上からなにかが落ちてきた。

 その正体はいつも鏡華の手紙を受け取りに来ていた一憐(いちれん)だった。


「なにしてるの、一憐」


 こよりは驚き地面に転がった一憐を突いた。

 すると、一憐はゆっくり起き上がり、痛そうに頭を抱えていた。


「いや~、廃屋に行ったらきみたち居ないし、どこかな~って探してたら見つけた拍子に滑り落ちちゃって」


「一反もめんが上で困ってるぞ」


 鏡華が上を見上げて言うと笑っていた一憐は驚き、慌てていた。


「ご、ごめんね。すぐ戻るよ。そうだ、きみたちも乗る?送るよ」


 そう言われ、こよりは興味津々で、鏡華は呆れ、一反もめんの上に乗っていた。

 それから、あっという間に廃屋に着いた。


「それで、手紙の回収に来たんだけど」


「悪い。切れてたから買ってきたところで書けてないんだ。今回はあいつに謝っといてくれ」


「はいはい、愚痴聞くおれの身にもなってくれよな」


 そう言い、鞄の中から、一通の手紙を出して鏡華に手渡した。

 そして、もう一通出し、こよりに手渡した。


「今回はこよりくんにも。たまには手紙をよこせという文句が書いてるらしいです。親孝行しろよ」


「えー、俺は鏡くんが居てくれるだけで良いからな~。あ、そこら辺の木の枝でもあげといてよ。俺からって」


「それはおれが怒られるわ。じゃあ、仕事残ってるからもう行くからな」


 そう言い、一憐は飛んで行ってしまった。

 その後、二人は渡された手紙を読んでいた。

 真剣に読むうちに、日が傾きだし、それぞれのルーティンでもある周囲の観察をしていた。

 その日は何事もなく、周囲は平和であった。


 ーーーーー三日後、魚倉人志の挑戦スタート


 一日目、廃屋への森に入ってきたことで、少し森がざわついているようだった。

 しかし、人志を信用していない二人は監視もせず、変わらない生活をしていた。


 二日目、敵用に設置した罠に幾つか掛かってしまったようで壊れており、その修復にこよりが駆け回っていた。

 まだまだ遠いようで、まだ警戒はしていない。


 三日目、人志の様子を見ようと鏡華が覗くと、段々と廃屋に近付いてきており、諦めていないことに驚いていた。

 が、来れないと思っており、未だ警戒はしていなかった。


 四日目、覗いてみると、湖に服ごと浸かっており、〝王子″という渾名が付いているがどこか変な人と噂されている意味が分かった。

 三日目に見た時と場所があまり変わっていないことから、ずっと水に浸かっていたのかという疑問が生まれ、鏡華が見ている間も湖から出ようとしていないことがわかった。


 五日目、半人半妖を調べている人間たちが鏡華とこよりを襲いに来た。

 そこまで数はなく、一日で沈めたが、人志の確認はできなかった。


 六日目、早朝にノックの音が聞こえた。



 ノックの音に気が付いたこよりは髪を束ねて、扉を開けた。


「あれ、魚倉先輩⁉」


 こよりは、驚き、辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると、中に入れた。

 それから、布団で眠る鏡華をたたき起こした。

 鏡華は不機嫌そうにこよりの隣に座った。


「先輩、どうやって来たんですか?一日余っちゃったし」


「てことは、六日で来れたんだね。途中から案内された感じだったんだけど、二人じゃないんだ」


 人志はそう言い驚いていたが、それよりも鏡華とこよりが驚いていた。

 それもそのはず、廃屋を含め辺り一帯結界が張っており、一憐のような無害な人物にしか廃屋や方向音痴の鏡華のために設置した看板は見えないようになっているからだ。


「てことは、魚倉先輩は俺たちにとって無害。仲間にするには良いけど、あとは力量ぐらいかな」


「はぁ、先輩、手を出してください」


 鏡華がそう言うと、人志はよくわかっていなかったが、手を差し出した。

 すると、様々な色の妖力が流れていた。


「こんだけあれば長期戦も持つだろ」


「てことで、今日から魚倉人志を俺たちの仲間と認めます」


 こよりがそう言うと、鏡華は人志に力を注いだ。

 すると、右腕の二の腕が光った。


「え、なに?」


 驚いていると、鏡華はため息をつきながら布団に入りにいった。


「契約紋だ。どっかで危険にさらされてたら頭領紋を持つ僕に伝わる」


「そうなんだ…。こよりくんもあるの?」


「あるよ。首裏にね、可愛いのが付いてるよ」


 こよりは笑って指差した。


「てか、鏡くん寝ないでよ。せっかく仲間が増えたんだし、パーティーしよー」


「誰がするか。いつ死ぬかもわからない状態で。僕は寝るよ」


「じゃあ、おなかもすいたし、俺が自分で何か作ろっかなぁ~」


 こよりがそう言うと、鏡華は勢いよく起き上がり、こよりを止めた。


「やめろ。僕が作ってやるから大人しくしといてくれ」


 そう言い、鏡華は作りに行った。

 その様子に、人志は不思議がっていた。


「こよりくんに料理させてもいいんじゃないの?」


「卵焼きを殻ごと作るやつに任せられるわけないだろ」


鏡華がそう言うと、人志は驚き、こよりを見た。

こよりは、人志と目が合うと、笑っていた。


「魚倉先輩、来る間に何か食べてたりしました?見てた限りではそんな感じしなかったですけど」


「オレは水に浸かるだけで数週間は生きれるからね、何も食べてないかな。でも、さすがにお腹は空いてる」


人志は苦笑し、お腹に手を当てていた。

するとすぐ、鏡華がご飯を持ってきた。


「ほら、勝手に食ってろ。僕は着替えてくる」


そう言うと、鏡華は別室へ行ってしまった。


「和食…。鏡華くんって料理上手なんだね」


「そうなんですよ‼俺とは大違いなんですよね~」


こよりは満面の笑みでそう言った。

それから着替え終わった鏡華は布団をたたみ、その上に座り、鏡を磨いていた。


「鏡華くんの妖の媒介?」


「名前で呼ぶな。黙って食え。話しはその後だ」


鏡から目を離さずに、鏡華はそう言った。

その様子にこよりは苦笑し、二人は食べた。

それから、食器を鏡華が洗い、片付けると、円を描くように座った。


「それで、僕たちの話より先に魚倉先輩のこと、教えてもらえませんか」


「それもそうだよね。オレは人魚の妖を使役って言っていいのかな?まぁ、人魚がいるんだ。この貝殻が媒介なんだけど」


人志は髪につけていた貝殻の髪飾りを外し、そう言った。

それを、鏡華とこよりは覗き込んだ。


「貝殻なら、海の人魚か」


「そうだね。海に居たころにあったからね。ちょっと扱いずらい子だから、先に紹介してもいいかな」


人志がそう聞くと、鏡華とこよりは頷いた。

それから、人志は名前を呼び、人魚を呼び出した。

呼び出された人魚は美しく、目を引いていた。


「…あら、可愛らしい子がいるわ。人志、この子たちは?」


目をキラキラさせ、鏡華とこよりの周りをくるくると回っていた。


「オレの仲間になったんだ。玲香さん、自己紹介しないと」


「あら、そうね。私は玲香(れいか)。美しいものが大好きなの」


「じゃあ、俺たちは玲香さんが気に入る美しいもので良いのかな」


こよりが笑顔で言うと、玲香は笑顔で頷いていた。


「僕たちも紹介しといてやる」


鏡華がそう言うと、鏡華は鏡を取り出し、こよりは八手の葉を取り出した。

そして、それぞれ呼び出した。


「雲外鏡…と、天狗で良いのかな?」


「そうそう、鏡くんのが雲外鏡で俺のが天狗。自己紹介しよ」


こよりがそう言うと、二人は前に一歩出た。


「雲外鏡。名前は無い」


「鏡華のために捨てたんだろ。おれは大天狗の(ふし)。こいつのことは(あおい)とでも呼んでやれ」


伏は笑いながら葵の頭に手を置いて行った。

伏の行動に、葵は嫌そうな顔をしていた。


「大天狗ってことは山の神様みたいなものだよね?ここの神様?」


「いや、おれはこよりんとこの山に住んでたな。呼ばれてなけりゃそっちに居るから特に問題もないぞ」


「え、こよりくんってお金持ち?」


人志が驚いて聞くと、こよりは答えるわけではなく、ただ笑っていた。


「そうだ、仲間になるなら、ここに移動しておいでよ。そのほうが何かあったとき楽だし」


「それもそうだな。さっさと手続きして来い。天野、僕らは視察に行くぞ」


それから、人志を寮の近くまで送り届けると、そのまま視察に出た。

特に変わりはなく、平和なままだった。

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