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妖物語  作者: 架闇葵
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第一話

 人間に虐げられた人間とも妖とも言い難い者がとある学園の所有する山奥の廃屋に住んでいた。

 住んでいるのは以下二名、鏡を通し数分先の未来を見る力を持つ津雲鏡華(つくもきょうか)、自由自在に風を操る力を持つ天野(あまの)こより。


 能力を持つ者は妖を使役しており、鏡華が雲外鏡をこよりが天狗を使役している。


 知れ渡っている使役とは違い、ここでいう使役とは妖は一体のみとなり、使役した人間は人間ではなくなり、半妖となりその時のまま、成長しないのである。


 そして、自身の家系、もしくは自分自身に関係する妖しか使役できず、媒介を持ち、妖自身を呼び出すこともできるという。


 鏡華とこよりが山奥に追いやられてもしていることは、人間に利用されている半妖や妖たちを助けたり、悪霊となってしまった者を倒したりしている。


「大変だよ、鏡くん、湖で人が溺れてる」


 窓の外を見ていたこよりは、目を離さずに後ろで鏡を手入れしていた鏡華に声をかけた。

 鏡華は答えることなく、鏡で何かを確認し、立ち上がった。


「行くぞ、天野」


「え、何か起こるの⁉」


 そう聞くが、答えが返ってくることはないと知っているのか、準備を始めていた。

 鏡華が見る未来が必ず当たる訳ではないと、知っているからだ。


 湖に着くと、学園に通っている男子生徒の魚倉人志(うおくらひとし)が網に絡まって溺れていた。


「天野、気を付けろ。恐らく囮だ」


 鏡華がそう言うと、こよりも周りの気配に気付いたのか、小さく頷いていた。

 助けようと近付くと、案の定周りの人たちが力を抑えるための札のようなものや、武器を持って襲い掛かって来た。



「俺に勝てると思ってるの?」


 こよりは、八手の葉を振るって楽しそうにしていた。

 札はもちろん、強い風に人間までもが飛ばされていた。

 人間たちがこよりに気を取られている間に鏡華は湖に入った。

 かなり冷たく、自ら入ろうとは思えないような温度に、鏡華は一瞬顔を歪めていた。

 網を解いてやると、人志は安心しているようだった。


「ありがとう、助かったよ」


 そう言った人志の足を見て、鏡華が驚いていると、それを吹き飛ばすかのようにこよりが湖に落ちてきた。


「ごめん、鏡くん。機械には勝てないみたい。早く逃げて」


 こよりはボロボロになった姿だが、心配かけまいと、笑顔でそう言った。

 その様子に、鏡華は悔しそうにしていた。

 予知したものとはこよりには一切傷がつかず、無事に助けれる、そんな未来だから、行こうと決断したようだ。


「きみたちはここを早く出たほうがいい。体に悪いから」


 そう言われ、自身の足元を見ると、生き物とも植物とも言い難い何かが巻き付こうとしていた。


「鏡くん、早く出よう」


「あ、あぁ。お前は良いのか?」


 鏡華がそう聞くと、人志はにこっと笑い、人魚の姿に変わった。


「に、人魚…?」


 こよりは驚き、水で宙に浮いた、水を自在に操る力を持つ人志を見上げた。


「次はオレの番。解放されて、水のあるオレは最強、みたいな?」


 そう言い、笑いながら次々に水で人を気絶させていった。

 その間に鏡華とこよりは、慌てて湖から出て行った。

 少し離れてから振り返ると、こよりを吹き飛ばしたでかい機械が湖に入ろうとしていた。


「天野、あれが入ったらどうなる」


「あー、多分、水がなくなるかも」


 こよりにそう言われ、鏡華は人志が言った「水がないといけない」と言っていたことを思い出した。


「おい、天野、サポートに行くぞ」


「わぁ、鏡くんはどこまでも優しいね」


 そう言い、こよりは風を使ってすぐに飛んで行った。

 水を抜く方法以外で鏡華とこよりをおびき寄せたことで何か気付いた鏡華は未来を見ようと鏡を取り出した。

 そして、未来を見た鏡華は血の気が引き、顔を青くしていた。


「気を付けろ天野。そいつ、爆発するぞ」


 鏡華が叫ぶと、こよりは悩んだ末、笑った。


「鏡くん、できるだけ遠くに逃げといてくれるかな。爆発からは守れないからさ」


 少し離れた場所に居た鏡華は置いていくのが嫌だったのか、渋っていたが頷き、走って行った。

 それを見てこよりは微笑み、その様子を見ていた人間たちは鏡華を追いかけようとしたが、人志に阻まれた。


「駄目だよ。網にかけたお返し、させてよ」


「俺も少し本気を出させてもらうよ」


 そこからは、人間たちを人志が薙ぎ払い、こよりは機械を相手にしていた。


(鏡くんは多分、こいつが爆発している未来を見てる。爆発なんてしたら、ここら一帯は火の海。そうなる前に止めないと)


 こよりはそんなことを考え、相手にしながらも必死に解決策を模索していた。



 数時間後、焦げ跡だけが残り、辺り一帯は何も無くなっていた。


「天野、大丈夫か?」


「あ、鏡くん。居たんだね。なんか焦げてるし、体中痛いんだけど…」


「一応すぐ水かけたんだけど、もしかしてきみ、記憶なくなるの?」


 人志は起き上がりながらそう言った。


「あはは、そうなんだよね。ただの力の使い過ぎなんだけどね」


 こよりは笑いながら土をはたき落としていた。


「ねぇ、よかったら、オレを仲間にしてくれないかな?」


 少し悩んだ末、そう言う人志に鏡華は複雑そうな顔を一瞬だけ見せた。

 それを見たこよりも同じような顔をし、目を逸らせていた。


「悪いな。仲間を集めてるわけじゃないんだ」


 そう言い、鏡華はその場を立ち去った。

 こよりは人志と鏡華を交互に見て、申し訳なさそうにして、鏡華を追いかけて行った。

 二人の姿は木々に隠れるように見えなくなっていた。


 鏡華とこよりは廃屋に戻り、汚れを落とすと、すぐにいつも通りに戻っていた。


「天野、もう便箋残ってないのか?」


「え、もう無くなった?鏡くんってば妹ちゃん好きだね~」


 こよりが面白半分に言うと、鏡華は怒り手近にあった枕を投げた。

 すると、こよりは枕を拾いながら、「冗談だよ」と言い、笑っていた。


「じゃあ、今度学校行こっか。明日は流石に起きれないだろうから、しばらくは我慢してね」


 そう言われ、鏡華は少し悩み、手紙を箱にしまった。

 それから布団に寝転がった。


「僕は寝る。交代したい時は起こせ。見張り頼んだぞ」


「まっかせて~。俺はもう回復してるし、ゆっくり休んでね」


 そう言い、こよりは窓の傍へ向かった。

 鏡華は布団の中ですぐに眠りについた。


 ------------数日後。

 学校が所有している山とはいえ、かなり広く、鏡華とこよりが住んでいるの廃屋は学校からかなり離れており、早朝四時には準備を始めていた。


「鏡くん大丈夫?便箋買ってくるぐらい俺一人で行けるよ?」


「そう言っていつも騒ぎを起こしてるだろ。それに、授業一つぐらい受けろって手紙で」


 鏡華がそう言うと、こよりはニヤニヤとしていた。

 生徒だけではなく、教師にも気味悪がられ、山奥に追いやられているため、まともに授業にも出られないような状態なのだ。

 二人は数か月に一度、鏡の妹からくる手紙で授業に出るようにしているのだ。


 学校が見えてくるころには、既に七時を過ぎており、生徒も寮から登校してきていた。

 売店に行くと、やはり奇異な目で見られていた。

 すぐに買い物を終わらすと、教室に向かった。

 扉を開けたところ、女子生徒がこちらに目もくれず、騒いでいた。

 鏡華は騒がしいのは苦手で嫌そうな顔をしていた。


「つーくも、綺麗な顔が台無しだよ」


 学校では〝津雲″と呼ぶこよりが笑いながらそう言うと、鏡華は顔を逸らした。

 そうしていると二人に気付いたのか、生徒たちは奇異な目を向け、こそこそし始めた。

 そして、女子の中心にいた人物が二人に近付いてきた。


「二人とも、おはよう。オレのこと覚えてるかな?」


「あ、湖に溺れてた…。魚倉先輩だったんですね」


 こよりはすぐに外面モードに切り替え、笑顔でそう言った。

 鏡華も気付いたのか、かなり警戒している様子だった。


「ごめんね、実はもう少しきみたちと話してみたいと思ってね」


 人志がそう言うと、女子からは「優しい」や、「かっこいい」、「相手にしなくていい」などという言葉が聞こえていた。

 しかし、人志は変わらず笑顔で二人の前に立っていた。


「はぁ、話すことなんて何もない。どういうつもりなんだ」


 鏡華がそう言うと、教室中から罵詈雑言や、物まで飛んできていた。

 こよりは慌てて鏡華を庇い、人志は驚いているだけだった。


「天野、もう帰るぞ。気分が悪い」


「あ、待ってよ津雲。…どうなっても知らないよ」


 睨みながら、低い声でそう言い、こよりは鏡を追いかけて行った。

 扉が閉まったのと同時に強い風が吹き、肌や物が切れていった。

 人志はその場を後にし、二人の後を追いかけた。


 少し行くと、気付いたのか、鏡華が止まった。


「なぜついてくる」


「お話があると先輩は言ってましたよね?俺たち、仲間はもう要らないんです。そのことならお断りします」


 ふり返って言う鏡華とこよりに人志は驚いていた。


「もしかして、教室で待ってるの、迷惑だったかな?でも、先生たちはみんな二人がどこにいるか分からない様子だったから」


 会話になっていないことに鏡華はため息を吐いた。

 そして、こよりに託した。


「えっと、確かに教室で待たれるのは迷惑でしたね。俺たち、いつもあんな感じなので」


「はは、悪いことしたね。それと、仲間にしてほしいって言ったの、簡単に言ったわけじゃないよ。命がけみたいだし、きみたちが隠すこともなくしていることにかっこいいなって調べてるときに思ったかな」


 〝調べてる″という言葉に二人は少し身構えた。

 命を狙って調べ、接近し襲われるということが過去に何度もあったからだ。

 それもあり、仲間になりたいという人をことごとく断っていた。


「ごめんね、勝手に調べたりして。でも、仲間になりたいのに何も知らないのも違うかなって思ったんだよ」


「そうですか。それで、人間の言う本当か噓かわからないことで何かわかりましたか?」


 こよりは不機嫌を隠し、外面MAXの笑顔でそう問いかけた。

 それに気付いてのことか、人志は微笑んだ。


「うん。それにさっきのこともあったからね。きっと人間が好きで殺せないって」


 人志に言われ、図星だったのか鏡華とこよりは驚いたようで目を丸めていた。

 所々の人からは悪霊に襲われたことのある人を知っており、人助けでしている鏡華とこよりに対しても悪霊と同じように襲われるのでは、という考えがあり、恐れているからである。


「もちろん、信じられないなら、信じられるように努力はするし、条件を出してくれてもいい」


 真剣な顔で言う人志に根負けした鏡華はため息を吐き、ある条件を出した。


 一週間以内に学校から離れた廃屋に来ること。

 ただそれだけだが、かなりの至難であり、二人に危害を加えない者だけが入れるように結界がはられているのだ。

 自分が持つ能力を好きに使っても構わないが、人に頼り、ましてや連れてくることは許さないという事だった。


 そう言い残すと去って行ってしまった。

 人志は、すぐに引き返し、準備をするため寮に帰って行った。

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