プロローグ 始まりの始まり
はじめまして。唯と申します。
今回が初めての作品で色々と拙いところがあると思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです。この作品はかなりグロいところもあるのでご注意下さい。
意識が朦朧としながら彼は考える。本当に生まれた意味があるのか、と。
彼には前世の記憶があった。
その前世は今いる世界とは違う、つまり地球では無い世界の辺境の地の村の住人だったのだろう。なんとなく空気が違った気がするのだ。
その村はあまり食料が無く、農作物も思うように育たなかった。
そのせいで、食べ物の奪い合いは日常茶飯事であり、女・子供は当然の事ながら略奪対象になっていた。その中で彼は自分のために人を騙し、裏切り、見捨ててきた。
遂には自分を育ててくれた母親も自分に襲い掛かり、止めようとした際に母親を手にかけてしまった。それが人生初の人殺しであり、8歳になった冬の日の出来事であった。
全てはもう遅く彼の手は洗っても落ちない紅い罪の色と泥で汚れてしまっていた。
村の住人達は彼に向かって罵声と石を投げつけた。
「親を殺すなんて恥を知れ!」
「忌々しい、お前なんて死んでしまえ!」と。
蔑まれる中で彼は寂しさや悲しさといった感情が不思議と湧いてこなかった。只々聞こえるだけで何も感じず、まるで自分の中身が空っぽになったかのような感覚だった。
時はたち、母親を殺してから一年が経とうとしていた時、突然彼の人生は終わった。
彼はボコボコにされてから村の人々に持っていたものを剥ぎ取られ、髪の毛が長かったため、桂にしようと無理矢理頭から引きちぎっていった。頭皮は剥がれおち、顔と体を青痣だらけの状態で外に放り出され、冬だった事もありそのまま凍死した。
そして今世、彼は今まさに事切れようとしていた。
毎日暴力を受け、狂った大人に弄ばれ、同じ境遇の子供達の温もりが一つ一つ消える中、今日は自分が消える番だった。
むしろ今この時までよく生きていたとも彼は思う。
足と手の爪は剥がされ皮が捲れ上がり、両目は瞳孔を針で何回も刺されたためもう見えていない。長い間食事や水を与えられていないため、髪は抜け落ち、声は既に出なくなっていた。
内蔵の位置もきっとめちゃくちゃだ。
手も逆方向に折れ曲がり動かない。
ずっとずっと全身が重く辛く痛かった。
地球は平和になり、みんなが幸せに暮らしてるなんてそんなの嘘に決まっている。
だって本当に平和ならイジメや自殺、犯罪は起きないし、自分はこんな姿になっていないのだ。
ある学校帰りの日、急に視界が覆われた。
薬を打たれ、視界が霞み、急な吐き気に襲われる中、思考だけが妙にクリアだった。
元々自分は親に捨てられ、孤児院で育ったし、周りからイジメられていた。世界の闇の中につれて来られ、売られたこの時点もう誰も救ってくれないのだ。
そしてもう一度考える。
自分は本当に生まれた意味があるのか、と。
名前はもう思い出せない。約15年間の人生。
長く辛い日々は今日で終わりを迎える。
微かに残っている肌の感覚で今まで共に過ごして来たであろう仲間の冷え切った手足を感じた瞬間、つれてこられたこの場所が自分の墓場になる事は明白だった。
もう体が一部腐りかけているのだろう。どこからか入って来たのか、蝿の羽音が聞こえ、自分の耳の中で這いずり回っているのがわかる。
着々と近づく死を目の前にして一瞬誰かが呼んだよな気がしたが、丁度その時、彼の儚くて脆い命の火が消えたのだった。