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天才最弱魔物使いは帰還したい ~最強の従者と引き離されて、見知らぬ地に飛ばされました~  作者: 槻影
第二章

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第四十話:僕の負けだ。

 大規模討伐依頼の意図せぬ結果から一夜。レイブンシティには多少慌ただしくも日常が戻りつつあった。


『灰王の零落』に参加した者達から様々な噂が街に蔓延しているが、遠からぬ内に消えてなくなるだろう。討伐しに向かったアルデバランがとっくに滅ぼされていたなんて、面白い話題でも広がりのある話題でもない。


 あれにはこれまで様々なものを見てきた僕でも度肝を抜かれた。エティの『機神』の故障などとは比べものにならない程の衝撃に、表情を取り繕う事すらできなかった。

 せっかく仲良くなれたエティがよそよそしくなってしまったのも仕方のない事だ。


 僕の想像から百歩も二百歩も上回り――ザブラクの言っていた言葉が理解できたが、全く以て度しがたい事だ。あれはない。


 もう一度言う、あれはさすがに、ない。これまでの苦労が水の泡になったとかではなく――救いがなさ過ぎる。


 街に戻り僕がまず真っ先にやったことはザブラクの家に向かう事だった。


 だが、ザブラクの家はもぬけの殻だった。漂う甘い匂いも、古びた家具もそのままに、本人だけがいなくなっていた。

 恐らく、僕に地図を渡した後すぐに逃げ出したのだろう。さすがSSS等級、判断が早すぎる。


 ザブラクの『植生交感』は情報戦においてほぼ無敵の能力だ。屋敷に居ながらにして荒野全域は疎か、境界線の向こうまで知ることができているであろう能力を前に、アリスを差し向けたところで追いつける訳がない。


 だが、ザブラクは一通の手紙を残していった。と言っても、謝罪の言葉がかかれていたわけではない。


 書かれていたのは、一見意味不明な三十一桁の文字と数字の混合だ。


 恐らく、僕に向けてのものなのだろう。ため息をつくと、憤懣を呑み込み手紙を懐にしまう。


 元々、ザブラクに怒りをぶつけるのは道理に反している。ましてや、今回、抱いている僕の憤懣はただのエゴからくるものだ。


 数少ない道が途切れてしまった。鮮やかな手並みだ。この分だと、今から他のボスを探っても無駄足になるだろう。




§





 大規模討伐依頼の達成基準は依頼によって様々だ。だが、大規模討伐というのは何かと予想外が置きがちだからイレギュラー発生時の対応も明確に定められている。


 レイブンシティ冒険者ギルド。その一室に、今回の大規模討伐に関係のある面々が集まっていた。

 ひときわ目に付くのは、退屈そうな顔で上座に座る大男だ。鬼種の血でも継いでいるのだろう、ランドさんよりも大柄なので、小柄なマクネスさんと並ぶと大人と子どものようにすら見える。


 マクネスさんの唯一の上司。周辺三都市のギルドマスターを兼務する男、カイエン。


 随分前から近辺のギルドマスターを務めているが、調べようとでもしない限り情報の出てこない人物だ。

 僕が顔と名前を知っているのはレイブンシティにやってきてしばらく経ったあたりで少し調査したからだが、それでも大した情報は出てこなかった。どうやら、元々はすこぶる武闘派だったが、ギルドマスターになってからはその腕っ節を振るう機会もなく、実務を全てマクネスさんに押しつけ堕落した生活をしているらしい。

 この街に長くいる探求者でも、その姿や名前を知る者はごく僅かだろう。


 今回は状況が状況のせいで無理矢理引きずり出されたのか、カイエンさんは見るに明らかにやる気がなかった。面倒くさそうに傍らのマクネスさんを睨み、がらがら声をあげる。


「面倒くせえ事になったみてえだが、状況を鑑みた結果、ギルドはこの度のアルデバラン討伐を認める事にした。ターゲットは実際に破壊済みなんだ、問題ねえだろう。ギルドからの報酬も全額支払われる」


「アルデバランが破壊された原因については現在調査中だ。記憶装置は残っていなかったが、分解して調べれば判明する事もあるだろう」


 マクネスさんが言葉を引き継ぐ。ターゲットの死亡が確認できたとはいえ、アルデバランが死んでいたのは間違いなくイレギュラーだ。レイブンシティ近辺の上澄みの探求者達を集めた部隊が、ザブラクの作った地図を使ってようやく到達した最深部でボスが死んでいるなど、普通はあり得ない。


 ザブラクの言葉を思い返すに、僕がザブラクにコンタクトを取った時点で既にアルデバランは破壊されていたのだろう。


 ランドさんが険しい表情で考え込んでいる。僕は声をあげた。


「見たところ戦闘の後は残っていなかった。そもそも、女王の護衛は僕達が倒したんだ」


「……その通りだ。アルデバランの死骸に戦闘の痕跡は見られなかった」


 つまり、無抵抗で頭をもぎ取られたと言う事か。


 ボス部屋は巨大だが、アルデバランが自由に動ける程の大きさはなかった。元々アルデバランの戦闘能力はそこまで高くないのだろう。だが、だからといって襲われて無抵抗を貫くとは思えない。


 そこで、マクネスさんがふと思いついたように言った。


「あるいは……こちらの方があり得るかもしれないな。フィル、SSS等級の歴戦の探求者である君の情報を知って――自死を選んだ可能性だ。謎の探求者が、配下の警備をくぐり抜け、頭を一撃でえぐり取り持って行ったなどというよりも、そちらの方が明らかにありえそうじゃないか」


「くだらんな。細かい話はマクネス、お前に任せる。魔導機械のすることなんて俺にはわからねえが、ギルドとしての責務は果たそう。報酬は規定の額支払うし、『境界船』のチケットも用意してある」


 一刻も早く話し合いを終えたいのか、カイエンさんは大きく欠伸をすると、立ち上がって言った。


「よくやってくれた。後の事はこちらで引き取る。調査の状況次第ではまた話をする事もあるだろうが……これにて、大規模討伐依頼『灰王の零落』は完了だ」




§




 エティやランドさん達と共に会議室を出る。

 会議に参加した探求者達の反応は様々だったが、大部分は結末の不自然さより大規模討伐依頼が終わった事への喜びの方が強いようだ。

 アルデバランの死骸を見た者がごく一部だというのもあるが、探求者というのはそもそも、研究者ではない。


「……まったく、妙な結末だったのです」


「妙な結末? とんでもない結末だ」


「何が起こっているのかはわからないが……しばらくは注意して活動した方がいいだろうな」


 僕の言葉に、ランドさんが眉にしわを寄せる。


 モデルアントの習性に危機感を抱きキングアントを討伐。その後、僕の疑問を受けクイーンアントの存在を問い合わせ大規模討伐にまで発展させた彼は気にしている方だ。


 だが、当のターゲットがいなくなってしまえばできる事はない。

 ザブラクがいなくなってしまったのが本当に惜しかった。彼の能力があればまだ調べられる事もあったはずなのに――。


 考える。考える。考える。次の行動の指針を……どうすれば最善なのか、を。


 だが、僕の心はあのアルデバランの惨状を見て折れかけていた。

 アルデバランは十中八九、ワードナーと同様、《機械魔術師》の生み出した一品物だ。あれがマクネスさんの言うとおり自殺だとするのならば――。


 この地の魔導機械の中心となっているのは【機神の祭壇】だ。だが、あのダンジョンは純粋に警備が厚く、今回のような搦め手が効かない。正当な手段で攻略するならじわじわ警備を削っていく他なく、莫大な時間と人的資源が必須だ。

 攻略に僕が関わるのは不可能だ。カイエンさんから受けとったチケットは次の境界船のものであり、出航に間違いなく間に合わないし、そうでなくても僕には待っている子がいる。


 黙ったままぴたりとついて歩いているエティを見る。目と目が合い、エティがびくりと肩を震わせた。


「…………な、なんですか?」


「なんでもないよ」


 エトランジュ・セントラルドールは理想的だ。

 術者としての実力はもちろん、人格面においても好ましい。だが、禁忌の調査に最後まで付き合って上げることはできない。だからこそ、少しでも手掛かりを残して別れるつもりだった。


 だが、僕は相手を甘く見すぎていた。SSS等級探求者には探求者の模範である事が求められている。

 絶大な力を持ちながらずっと姿を隠していたザブラクはSSS等級としては消極的だったが、ある意味でとてもフェアだった。



 僕の負けだ。相手の覚悟を見誤った。ここまできたら残念だが、もう全てをひっくり返しめちゃくちゃにしてしまうしかない。



 屋敷に戻ったらエティにも――話をしなくては。






§ § §






 あぁ、私はなんと恐ろしい事をしてしまったのだろうか。


【機神の祭壇】最奥部。そのダンジョンの名の如く祭壇を思わせる広い間に、音にならない慟哭が響き渡っていた。


 金属製の台の上に表情の浮かんでいない『首』が置かれている。


 古くに作られた同胞――今は荒野に無数に生息するモデルアントの起源、クイーンアント、アルデバランの首だ。


 オリジナル・ワンの前に捧げられたその首は、破壊されるその直前にも恨み言を漏らすことはなかった。

 だが、それとは別の問題として――神にはその首が無念を訴えているようにしか見えなかった。


 言葉を交わす事すら滅多になかったが、同時期に作成されたその存在は数少ない友であるはずだった。もちろん、有する機能の重みは全魔導機械の神たるオリジナル・ワンとは比べるべくもないが――その、長き時、目的を同じくしていたはずの仲間を、勝利のためとはいえ、まるで捨て駒のように消費してしまった。


 ワードナーのように、戦いの結果ですらなく、己の意志ですらなく。


 神にもできない事はある。オリジナル・ワンの力でも、長き時を経て自己改造を重ねたアルデバランを元通りに復活させる事はできない。


 だが、時間は稼げた。かつて、数百年前に存在していたオリジナル・ワン達の創造主――マスターの命をより長く守るための時間が。


 探求者達は既にオリジナル・ワンの存在に、この地の秘密に気づきかけている。これは変えられない。


 だが、アルデバランの記憶を守った事で、街がこの状態を正確に把握するまでの時間が稼げた。

 最大の懸念であるフィル・ガーデンとアリス・ナイトウォーカーは街を出るという情報が入っている。


 これまで長き間、楽園を守り続けてきたのだ。驚異的な洞察力を持つその探求者さえいなくなれば、まだ戦いの結果はわからない。

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書籍版『天才最弱魔物使いは帰還したい』二巻、12/2発売しました!。
今回はアリスが表紙です! 多分Re:しましま先生はアリス推し! 続刊に繋がりますので気になった方は是非宜しくおねがいします!

i601534
― 新着の感想 ―
[気になる点] オリジン・ワン、ザブラクの手紙、どんどんテイマソには無かった要素に突っ込んで行きそうですね 楽しみです! 勿論ディテクティブもネタと見せてキーとなる職業ですよね!信じて……います!
[一言] 続きがどう変わるのかが楽しみです!
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