表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才最弱魔物使いは帰還したい ~最強の従者と引き離されて、見知らぬ地に飛ばされました~  作者: 槻影
第一章:Tamer's Mythology

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/108

第三十五話:あの場では、ああするべきだった

 弱さが役に立つ事もある。僕はアルコールがあまり得意ではない。最早ここまでくると種の弱さのせいにするのも気が引けるのだが、ライカンや竜人にとっての準備運動で酔っぱらい、口がよく回る。


 ランドとガルドが僕の言葉に耳を傾けたのは、僕を警戒していたからだ。ランド達が話してくれたのは、きっと僕が彼らの冒険に対して抱いた興味が本物だったからだろう。


 コミュニケーションは片方の意志だけでは成り立たない。


「モデルアント種の王か……」


「ああ、荒野が埋まるくらいの配下を引き連れてな……すげえ数だったぜ」


 ガルドが声を潜め、まるで脅すかのような声で言う。

 どうやら、ランドはこの度、SS等級討伐依頼、キングアントの殲滅を達成しめでたくSS等級探求者への昇格の条件を満たしたらしい。


 探求者の等級は同じ等級の依頼を余裕を持ってこなせる事が基準になっている。これまで何度もSS等級の依頼を熟し、キングアントの討伐で晴れて認定されたのだろう。幸いなるかな、僕がアムと狩った魔物もモデルアントだ、話がわからないという事はない。

 もともと蟻系の魔物は群れを作るものだ。それをモデルにしているであろう魔導機械の王が大量の配下を連れ歩いているのも道理だった。


「キングアントはいつもは巣に引きこもっているんだが、三ヶ月に一度の周期で配下を連れて外に出るんだ。巣の中ではさすがに数が違い過ぎるからね。それでも、死者が出なかったのは幸運だった」


「それは……是非この眼で見たかったな。できれば参加したかったが……一週間前はまだ北だ」


 大量の魔導機械と探求者達の大規模な戦いはさぞ見応えのあるものだった事だろう。

 多対多の戦いは非常に勉強になる。是非アムのためにも参戦したかったが、また次の機会もあるだろう。


「ランドの勇姿、見せてやりたかったぜ。ナイトもルークもビショップも、モデルアントが勢揃いでよ、セーラの加護がなければ全滅していたかもしれねえ。なぁ?」


「……そうね。敵の数が多かったし、後衛も大忙しだったわ。勝てて……本当に良かった」


 セーラが大声で笑いながら同意を求めるガルドに、呆れたような笑みを作る。


 ここが急所か。


 僕はそれを横目に杯を呷り、見ず知らずの相手に挟まれ身を縮めるアムを見た。


「残念だな、アム。もしも機会があったら大規模討伐依頼に混ぜてもらおうと思ってたのに」


「え? ええ? そ、そうなんですか!?」


「スレイブにするのが遅すぎた。せめて十日早く来ていれば……」


 どうせ転移するのならば一週間早くシィラ討伐に挑めばよかった。入念に準備を重ねた挙げく失敗したのだから笑い話にもならない。


 僕たちの会話にガルドが大げさに笑う。だが、その眼は鋭い。


「おいおい、フィル。いくらなんでも、クラン外のメンバーを入れるわけがねえだろ。うちは大人数だからなあ。人を増やせば成果もその分減っちまう」


 その通りである。探求者等級を手っ取り早く上げるには少人数で高い等級の依頼をこなさねばならない。いくらなんでも、こんな茶番で言質を取られるつもりはないという事だろう。

 そこで、ランドが目をすっと細め、言った。


「ところで、フィル。そろそろ本題に入らないか?」


「クイーンは?」


「…………は?」


「クイーンは倒したの?」


 ランドはキングを倒した。ガルドはナイトやルークやビショップの大群と激突したと述べた。

 という事はまだクイーンが残っているはずだ。最強の駒の名を冠した魔導機械が。


 だが、ガルド達が浮かべた表情は困惑だった。顔を見合わせ、僕に言う。


「フィル、クイーンアントはいない。お前は知らないかもしれないが、図鑑にも載ってない。仮想敵は全部洗い出してんだ」


「いるよ。間違いなく、いる。確かに、図鑑には載っていなかった。だけど、いないわけがない」


 断言する。僕は二十二歳だ。ランド達はそれよりも年上だろう。

 だが、経験値は間違いなく生き急いできた僕の方が上だ。


 笑みを浮かべる。酒は十分頭に回っていたので、口も軽くなっている。


「この魔導機械は明らかに蟻の魔物を元にデザインされている。この近辺には生息していないだろうけど――蟻や蜂の魔物で一番厄介なのは王ではなく、女王でね。僕が経験した中では一国を飲み込む程の広さにまで広がった蟻の巣の討伐依頼がSSS等級で出てた」


 昆虫の魔物は厄介だ。硬く力があり毒を持つ者も多くそして――大量の卵を生む。

 卵生の魔導機械はありえないので今回はまだマシだろうが、もしもクイーンも倒さずモデルアントを無力化したなどと考えていたとしたら――笑わずにはいられない。


 ランドの表情は僕の数倍呑んでいるとは思えない真剣なものだった。


「フィル、クイーンについては我々の中でも何度か話題に上がったことがある。だが、一度も目撃例がない魔物だ。キングは強かった。キングがクイーンを兼ねていたとは、考えられないか?」


 次から次へと杯を呷る。既に眼は回っている僕は酔いが回っても顔は赤くならないので大丈夫だ。


「あるよ」


「は? 今、なんと?」


「僕の見解では――目撃例は、間違いなくある。ギルドに強く確認してみるといい」


 だって、そうだろう。モデルアントの魔導機械に対する名付けは明らかにチェスを意識している。

 僕がアムとポーンアント討伐に挑む前に軽く覗いた図鑑によると、ビルドアントなど、チェス以外の名前を持つ種もいるようだったが、クイーンがいないというのは考えられない。


 ポーンアントはとてもいい出来だった。無機生命種である以上、誰かに造られたであろう事は疑いないが、設計者は間違いなく完璧主義だ。

 であるのならば、モデルアントを産み落とす機能を持ったクイーンアントがいないなど考えられない。いや、僕だったら、そんな風に創らない。


 つけられた名前には理由があるはずだ。図鑑にないというのならば、隠しているのだろう。

 好奇心は猫をも殺す。図鑑に載っていない理由は恐らく、ギルドの情報隠蔽によるものだ。ギルドが所属する探求者の命を守るために危険な情報を隠すというのはままある事である。


 巣に踏み入る事すらしない探求者には知る必要はないという事だろう。


 ランドさんが思案げな表情をしている。ガルドが眉を顰めている。



 そして――誰か他に気づいているだろうか。不安げな表情をするセーラの姿に。



 アムがセーラの表情を見て呆けていた。流石会話に入れていないだけあって、観察はちゃんとしていたらしい。視線の置き場所に困っていたのかもしれないが……。


 アムとセーラは種族こそ正反対だが、似ている部分もあるようだ。

 そこで、僕は勢いよく手をついて立ち上がった。立ち上がろうとした。大きく体勢が崩れ、手近にあったセーラの肩を掴む。


「きゃッ! だ、大丈夫?」


「大丈夫、だよ。ほら、僕、顔色変わらないから」


「フィルさん!? 何言ってるんですか!?」


 視界がぐるぐる回っている。胃がむかむかする。油断すると吐きそうだった。水洗トイレに流されている気分だ。まだ思考は出来るが、肉体がついていけてない。


「??? おかしいなぁ、僕もうちょっと強かったはずなんだけど……ふしぎ。ああ、アム、待て、まだ大丈夫だ」


「全然大丈夫じゃないですよッ! ほら何ずっとセーラさんの肩掴んでるんですかッ!」


 立ち上がりそうになるアムを留める。そりゃ掴む所がないとちょっと危ういんだから仕方ない。

 無礼な乱入者のまさかの醜態にガルドが呆れ果てている。ランドの顔も引きつっている。


「まだ五杯しか呑んでないのにもう酔ったのか!?」


「自慢じゃないが……僕は実はアルコールにはあまり強くない。多少飲める程度だ」


「五杯とか、飲めねーのと一緒だッ!」


 ライカンは自分を基準にするから困る。


「まずいな。格好をつけるつもりだったのに……。そもそも、どうするんだったかな……」


「!?」


 首を捻る。なんか理路整然と問題を解決しようと考えていたんだが…………まぁ、適当でもいいか。こんな状況でしっかり仕事するとか無理だよ。とりあえず、要求だけはっきりさせておく。


「ランド、僕の要求は――全てだ」


「……はぁ?」


 探求者達の協力関係というのは大抵利害が明確だ。だが、僕が求めるのは実利のみの関係ではない。


 僕は――アムに友達の重要性というのを教えたいのだ。戸惑っているランドに言う。


「全て、だ。僕が助けを求めた時に、可能な限り助けて欲しい。その代わりに、僕はランドが困った時に助けてあげる。どうだい?」


「それは……随分と曖昧な契約だな」


 契約? これは契約なんかじゃない。これは――盟約である。物事は理だけでは決まらない。


「僕はこれでも案外役に立つよ。色々な物を見てきたし、体験してきた。《魔物使い》としてもそれなりに長く活動してる。力は貧弱だけど、僕はこれでも地元では――――名のある探求者だったんだ」


「地元ではって……」


 セーラが呆れている。だが、構うものか。声を大にして訴える。


「僕の前には最初、大勢の腕自慢のスレイブ志望者が詰めかけていた。すぐに来なくなったけど」


「……駄目じゃない」


 頭がガンガンする。朦朧とする視界の中、ガルドがランドに何事か目配せしている。


 僕はそこで、セーラの肩から手を離すと、大きくふらつき、椅子の上にどすんと腰を下ろした。


《魔物使い》にはいくつか派閥がある。恐怖で従わせる者、契約で縛り義務感で操る者、強さで魅せる者、弱さで惑わす者、いずれにせよある種のカリスマは不可欠だ。

 僕たちは人の心を揺らさねばならない。そして、僕はしっかりとセーラの目を見て言った。


「でも――セーラが悩んでいる事くらいはわかる。《魔物使い》だからね」


「!? 何が……わかるのよ」


 セーラの顔が一瞬だけ緊張に強張り、僕を睨みつけてくる。わかる。わかるよ、大体、把握した。

 もういいだろう。僕は大きく欠伸をすると、真剣な表情で僕を見ているアムに言った。


「そろそろ限界みたいだ。アム、僕の肩を担いで宿に連れていってくれ。ランド、いいところだけど、僕はこの辺でお暇させてもらう。水入らずの席に呼んでくれてありがとう」


 残っていた杯を一気に呷る。そして、凍りついているランドに、最後の助け舟を出した。


「しっかり話し合うといい。多分セーラたちには――それが必要だ」




§ § §




 一体何を考えているんですか……?



 フィルの肩を担ぎ、まるで追われるかのような気分で宿に戻る。


 フィル・ガーデンが何をしようとしたのか、アムには全く理解できなかった。


 途中まで、アムに考えさせようとしていたのは確かだ。だが、見事に最上級探求者の卓に潜り込んだ後の行動は、ちょっと会話をして場を乱しただけだ。

 去る寸前にガルドの向けてきていた視線を思い出し、アムは身を震わせる。相手はこのレイブンシティでのカーストトップだ。目をつけられたら今後の仕事に影響が出るだろう。


 宿の部屋まで運ぶと、フィルはふらふらとベッドの上に座り込んだ。

 本気で調子が悪そうだ。顔色こそそこまで変わってはいないが、目の焦点があっていない。


「ああ、アム、水を持ってきてくれ」


「は、はい。しょうがないですね……」


 コップを渡すと、マスターは水を一気に呷った。続いて、頭を押さえ俯く。

 昔アムがよく宿でやっていたものと同じ仕草を見て、ピンとくる。少し迷ったが、恐る恐る尋ねた。


「…………まさか、失敗しました?」


「え? 何が?」


「何がって……交渉ですよ。結局、何もしてなかったじゃないですか」


 アムは結局置物になっていただけだが、やったことは一方的に要求を叩きつけただけだ。きっとランド達のアム達への印象はよろしくないだろう。


 どうしてランドがフィル達を呼んだのかはカクテルの銘柄まで一致していた事からだいたい予想がついているが、そこから先はアムの理解の範疇を越えていた。

 アムはてっきり、フィルがアムやリンにやった事と同じように、その叡智を以てセーラの悩みを解決に導くとばかり思っていたのだ。


「……アム、隣においで」


 ベッドの隣に座る。フィルは深呼吸をすると、まるで自分に言い聞かせるかのように言った。


「よく聞くんだ。失敗はしていない。そりゃちょっと予想以上に酔いが回っていた事は否定しないが――あの場では、ああするべきだった」


「ど、どうして、ですか?」


「簡単な話だよ。パーティの問題はパーティの内部で解決するのがベストだからだ。今回の件は、一人ぼっちだったアムの場合や、もう解決できそうもなかったリンの場合とは違う」


 フィルが単純明快に言う。その表情からは強い疲労が見え、まだ酔いも残っているようだが、その言葉はいつも通り自信に満ちていた。


「もちろん、僕が解決するのは簡単だ。でも、それは全て試した後でいい。助け舟は出した。これで解決できればパーティの絆も深まるし、僕にも余計な手間がない」


「…………何も行動するつもりがないのに、自信満々に卓に交じったんですか?」


「呼ばれたから行っただけだよ」


 いけしゃあしゃあとフィルが言う。アムからすると信じられない図太さに、もはや呆れを通り越して感心すらしてくる。アムが一番見習うべきは、一歩も退かないこの姿勢なのかもしれなかった。


「もしもランドさん達がどうにもならなかったらどうするんです?」


「この世界で対話で解決できない事なんてほとんどないんだよ。アムと違ってセーラはコミュニケーションが取れないわけでもないしね」


「よ、余計な、お世話ですッ!」


 確かに、アムは長い間一人ぼっちだったし、今思い返せば少し人間不信を拗らせていた。


 だが、今は違う。リンや広谷、小夜達とならば話せるし、ランドとも……少しは会話を交わした。


 憤るアムに、フィルは穏やかな眼差しで言う。


「でも、そうだな。アム、セーラの悩みって何だと思う?」


 予想外の質問に、アムは戸惑った。セーラの悩み。その単語を、声に出さず脳内で反芻する。

 アムはセーラとは正反対の種族だし、セーラの事はほとんど知らない。一流クランで、しかもそのマスターの卓につくことを許された、皆に愛される種族。そんな完璧な存在に悩みなどあるだろうか?


「アムの知っている情報を全部言ってごらん」


「……善性霊体種で、最上級クランに入っていて……スレイブ志望登録を、していました」


「その通りだ、アム。それじゃあ、アムとの共通点はわかる?」


 共通……点? そんなもの――。少し考え、首を横に振る。


「ありません。私とセーラじゃ何もかもが違います」


 アムの答えを聞き、フィルは失望しなかった。気分が悪そうなのに、自然な笑みを浮かべる。


「アム、セーラの悩みは――君と同じだ。彼女は自分の力不足に悩み、負の連鎖に陥っている。同じ霊体種ならば、わかるはずだ。アムは一人ぼっちになり、彼女は集団の中故の孤独にある」


チャンネルに最弱天才魔物使い書籍化についての雑談? 動画を投稿しました。

キャラデザなども先行公開しています、是非ご確認ください( ´ー`)





ここまで楽しんで頂けた方、フィルの活躍に期待している方、アムのダメっぷりをもっとみたい方などおられましたら、

評価、ブックマーク、感想などなど、応援宜しくお願いします。

※評価は下からできます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版『天才最弱魔物使いは帰還したい』二巻、12/2発売しました!。
今回はアリスが表紙です! 多分Re:しましま先生はアリス推し! 続刊に繋がりますので気になった方は是非宜しくおねがいします!

i601534
― 新着の感想 ―
[一言] 動画で文字数って言ってたし、セーライベは大きく変更されるのかな?
[一言] 解決方法変わるのか……?
[一言] セーラがセクハラされずに終わる…だと…!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ