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天才最弱魔物使いは帰還したい ~最強の従者と引き離されて、見知らぬ地に飛ばされました~  作者: 槻影
第一章:Tamer's Mythology

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第三十三話:テンプレなんだよ

「無理やり話をして、力を認めさせるんだ。探求者は実力主義だからね。ギルド職員や人を通すより、対等の関係を築ける」


「!? 正気ですか?」


「戦うのはアムだけどね。やったね、早速鍛えた力を披露できるぞ」


「や、やだ。フィルさん、やめましょう! 相手は、巨大クランですよ!? 勝っても負けても影響が大きすぎます」


 アムが抱きしめられながら必死な声をあげる。細かい事を気にするなぁ。

 大丈夫、僕は経験で知っている。探求者って言うのは、殴り合いをすれば大体友達になれるのだ。


「争いを避けては何も手に入らない」


「……フィルさん、もしかして――私の力を、テストするつもりでは?」


「一石二鳥だ! アムは賢いなぁ。負けてもいいんだ、余程の無様をさらさない限り問題はない」


「!?」


 広谷は目標としては低い。高い目標があるのは良い事だ。

 勝利はアムを強くするが、それだけではいつか行き詰まってしまう。アムには何度折れてもくじけない本当の強さを身につけて欲しい。


「か、勝てると思って、ますか?」


「わかんない」


「!? わかんない!? わかんないんですか!?」


「未知の相手と戦うのも勉強だ」


「そんな! そんな、笑顔で、言わないでくださいッ!」


 悲鳴をあげるアムを、僕は愛情を込めて力いっぱい抱きしめてあげた。




§




 アムのひんやりした手をぎゅっと握りしめ、ギルドに連行する。

 最近わかったのだが、アムはどれだけ嫌な事が待っていても、繋いだ手を振りほどかない。 イヤらしい意味ではなく、スキンシップに飢えているのだろう。


「で、でも、フィルさん。待ち合わせしてるわけじゃないんですよね?」


「うん」


「じゃあ、いくら大きなクランだからって……いない可能性もあるのでは?」


「そう思う?」


「思いますッ! フィルさんは、少し、急ぎすぎですッ! もっとしっかり実績を積んで、認められましょうッ! まだ一回しか依頼を受けてないんですよ!?」


 僕の問いかけに、アムは力いっぱい主張する。しっかり我が出ているのはいい兆候だ。


「アムは慎重で偉いなあ。未経験のD等級依頼に僕を引っ張っていった子と同じ子だとは思えない」


「そ、それは……」


 少しずるい言い方をすると、アムが詰まる。この反応……しばらくアムの弱点になりそうだな。


「でも、ほら……」


 ギルドにたどり着く。雰囲気がいつもと違うのは、中に入らずとも明らかだった。

 半開きになった大きな扉からは明かりが漏れ、騒がしい音と会話が伝わってくる。


「な、何が、あったんですか?」


「僕が白夜に手紙で聞いたのは――最近、高等級の依頼が達成されていないかと、もしもそんなクランがあったらどこのクランがそれを達成したのか、だ。そして、もしもそういうクランがあったのなら――ギルドの酒場に貸し切りの予約が入っていないか調べて欲しいと、頼んだ」


 アムが戸惑いの眼差しで僕を見ている。


「アム、白夜達にはルールがある。自らの裁量で決められた事には限界がある。だから、僕は答えやすい聞き方をした。彼女たちは特定の探求者の動向をみだりに教える事は許されていないけど、特定依頼の達成状況を教える事は業務の内だ」


 特に高等級の依頼は僕たちが前やったポーンアントの討伐依頼とは異なり、一度達成すれば終わりな事が多い。

 そのため、僕たち探求者にはその依頼が達成されたかどうか確認する権利がある。


「運がよかった。返事は、『《明けの戦鎚》がSS等級討伐依頼を達成した』だった。そして、大物を狩った後は、探求者ってのは酒場を貸し切り、祝宴を開く。クランならその力を示すのも兼ねて、ね」


 それが、今夜だ。

 ギルド併設の酒場は探求者達の憩いの場だ、大きな理由なく貸し切る事は認められていない。それが認められたとするのならば、大物を狩った後くらいだろう。


「理屈は……わかりました。で、でも……でも、ですよ? もしも、『ない』って返ってきたら、どうするつもりだったんですか?」


 本気で疑問に思っている様子のアムの頭を撫でる。僕は笑って答えた。


「それはもちろん――次の策を練るんだよ。アム、君は僕が何でも出来ると思っているかもしれないけど――僕だって思い通りになる事ばかりじゃない」




§




 酒場は大いに賑わっていた。もともと探求者はお酒が好きだが、酒場の席がほとんど埋まるなんて光景、そうそう見られるものではない。どうやら《明けの戦鎚》のシンボルは『黒い鎚に交差する稲妻』のようで、酒場のメンバーの衣装にはどこかしらそのマークがあった。


 人見知りなアムは完全に僕の背中に隠れている。

 僕はざっと酒場内を確認し、耳を澄ませた。背中のアムの手を握り、前に出す。


「アム、一番強いのは誰だと思う?」


 僕の急な問いに、アムは目を白黒させて、じっと面々を確認した。

 霊体種の目は魂を見る事ができるが、そこまではっきり力量がわかるわけではない。


 アムは何度か僕に助けて欲しそうな目を向けたが、やがて小さな声で言った。


「中央の卓にいる……あの、角の生えた背の高い人だと思います」


 アムが指した先にいたのは、スマートな体型の金髪の探求者だった。

 どこか静かな笑みを浮かべ、焦げ茶色の髪のどこか野性的な獣人種の男を対面に杯を傾けている。


「なんでそう思う?」


 アムはしばらく黙っていたが、恐る恐るといった様子で言った。


「だって…………中心にいますし……それに、近くに、シンボルらしい『黒い戦鎚』を置いてます」


「でも、卓についているのはもう一人いる。その人のものかもしれない」


「…………そ、それは…………だって、フィルさん。あの人……右利きです」


「その通りだ。よく見ているね」


 終始不安げな表情をしていたアムの頭を撫でてやる。


「優秀な探求者は常に武器を手元に置く。仕草を見るに、あの金髪の探求者は右利きだ。焦げ茶色の方も同じく右利きだから、あの黒の戦鎚は十中八九、いつでも取れる位置にいる金髪の探求者の物だ。あの人がクランマスターのランド・グローリーだね。一番強いのも間違いなく彼だ」


 強い。柔らかい物腰から伺える圧倒的な自信。僕はこれまで沢山の腕利きの探求者を見てきたが、ランド・グローリーからは間違いなく王国でも通用する力を感じる。

 アムではまだ……勝てないな。差がありすぎる。


「アム、しっかり観察しろ。あの金の目、独特の模様の角に、首元だけに見える鱗に似た皮膚。彼は……種族等級Sに分類される竜人(ドラゴニュート)だ。特徴は凄まじい伸びを見せる身体能力で、全ての適性が戦闘に寄っている。有機生命種(ヴィータ)の中でもかなり強い力を持った種族だよ」


「種族等級S……私よりも上、ですか」


「ああ、上だ。ちなみに、そんなに強いのに竜人があまり知られていないのは――有機生命種には彼らを凌駕する種、『竜』が存在するからだ。彼らはその事実を誇りに思いつつ、劣等感を抱いている」


 ランド・グローリーは強いが、王国に来たら絶望するだろう。王国を根城にしている最強の探求者、銀鏡竜のリード・ミラーと比べれば彼は塵みたいなものだ。

 世界は広い。探求者の上位層には高い種族等級と強力な上級職、才能と運全てに恵まれた怪物のような存在がうようよしている。


「ついでにアム、彼の職は――恐らく、エルがくれると言っていた《破壊者(デストロイヤー)》だ」


「え!?」


「《破壊者(デストロイヤー)》は鎚や斧をメインウェポンに操る職だ。《託宣師》は職を与えるために職を見る必要がある。エルはきっと彼から《破壊者(デストロイヤー)》の道を見せてもらったんだろう。逆の可能性もあるけど、そう考えるにはエルは少し不慣れ過ぎる。これは、知識だよ」


 いつもはこんな事はしないのだが、懇切丁寧に説明してやる。こうやって丁寧に教えてやれば、アムはきっと自ら勉強したいと思うだろう。

 アムがビクリと戦慄したように身を震わせる。


「私以上の種族に、職。あ、あんな人に、私、勝てるんでしょうか……?」


「勝つ方法は……ある。僕はこれでも――境界の北ではSSS等級だったわけだしね」


 今すぐ勝てるとは言わない。だが、悪性霊体種は有機生命種に対して絶対的に有利なのだ。


 そこまで言い切った所で、ランド・グローリーが僅か――極僅かに、顔を上げた。


 視線は向けられていないが――バレている。この喧騒の中、竜人の聴覚は僕たちの内緒話を聞き分けている。

 何しろ、僕たちはクランメンバー貸し切りの酒場のすぐ外で、長い間立ち止まっているのだ。これで気にしていなかったら、巨大クランのクランマスターになんてなれない。


「ちなみに、対面の焦げ茶色の男、あの人が恐らく、副マスターのガルド・ルドナーだ。耳の形を見てごらん。狼のものだ。彼はライカンだ。種族等級Aのライカンスロープだよ。高い身体能力を持ち、敏捷性については竜人を凌ぐ強力な種だ。ちなみに、職もわかる。あの腰の短い剣を見て。彼は《剣士》から派生する上級職、《剣闘士》だ。懐に入り込み超至近距離からの攻撃を得意とする職だよ」


「ど、どうして、わかるんですか? あのエルフは、《剣闘士》なんて選択肢、出しませんでしたよね?」


「そんなの決まってる」


 声に熱が籠もってしまうのを止められなかった。

 僕も人間なので、人に知識をひけらかす事に喜びくらい覚える。それがアムの血肉になるとなれば、これ以上の喜びはない。


「覚えておくといい。テンプレだ。テンプレなんだよ、職には適性がある。ライカンの英雄は皆、《剣闘士》だ。だから、ライカンは《剣闘士》に憧れる。アム、テンプレとは悪い事じゃない。時にテンプレに逆らい正反対の職につく人もいる。その意志は尊重するが――そんなのくそくらえだ」


 アムは目を見開いたまま、微動だにせずに話を聞いていた。


「彼らは誇りを持って、《剣闘士》になっている。卑下する必要はない。アム、純人にとって《魔物使い》もテンプレの一つになるだろう。僕が《魔物使い》で成果を出したからね」


 話がちゃんとアムの魂に届いているのを感じる。僕が長々と解説している理由を悟っている。


 僕は改めてアムの天稟を感じ取った。僕はアムに全てが届くよう意識して行動したが、いくら発信が強くても受信が優秀でなければメッセージは受け取れない。


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書籍版『天才最弱魔物使いは帰還したい』二巻、12/2発売しました!。
今回はアリスが表紙です! 多分Re:しましま先生はアリス推し! 続刊に繋がりますので気になった方は是非宜しくおねがいします!

i601534
― 新着の感想 ―
[一言] > これで気にしていなかったら、巨大クランのクランマスターになんてなれない。 嘆きの亡霊とのコラボ楽しみにしてます。
[良い点] 前半の会話が予防接種に連れていく飼い主とワンコみたいで良いです
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