水族館デート
輝さんと2人。
並んで、水槽のピラルクを見ている。
「私は小さい頃、多忙でした」
輝さんが独白をする。
私はただ聞いていた。
「家の方針の習い事で、1人鬱屈とした気持ちになったものです」
まだ、名家の頃か。
「たまに。たまに、この水族館でこうしている事が許されたのです」
「それで、ここが輝さんのお気に入り?」
「はい。泳いでいるピラルクを見ていたら、辛いことも悲しいことも、少し遠くなるような気がするんです」
そんな事を言う輝さんの、その口は笑みを称えていたけれど、だけど瞳は憂いを帯びていた。
「おひいさん......?」
私は彼女の手を繋いだ。
「輝さんモテるから。捕まえとかないと?」
「........申し訳ありません」
輝さんは、嬉しそうに悲しそうに頬笑む。
ただ悠然とピラルクが目の前を横切っていく。
私も切なくなる。
けど、私も静かに笑った。
私達以外に人もおらず、静かな。
静かな、淡水魚コーナーだった。
以外と人気ないのかな?
「マイナーな方かもしれません」
切なくなった。
──気づけば1時間以上経っていた。
けど、私も特に不満もなく。
輝さんは、まだまだ観てれると、謎のドヤッ!
を見せてくる。
まあ、また来ればいいじゃないのと輝さんを引っ張って、今から行けばちょうど間に合うんじゃないかな?
「水族館の目玉でしょー!」
大きな広場に来た。
円形の水槽に囲むように客席。
そう、いるかショーだ!
「ポンチョを手に入れて......って、ああっ!」
「どうしたんですか?おひいさん」
「ま、前の水かぶりの席があ!ファミリーと子供達で席が埋まってるぅ!」
~太陽が輝いて~♪
~神話の国へ~♪
神秘的な歌と共に、スタッフのお姉さんがイルカを指示する。
ばっしゃああーーん!
前の席でビショビショの子供達がケラケラ笑う。
いいなー!
イルカが跳び跳ねて、着水する時の飛び散る水を浴びたかったー!
そして、大口を開けて笑いたかったー!
輝さんと2人で!
「いや、私はピラルクがいればそれで」
つれないなー輝さん!
水はかぶれなかったものの、ソコソコ楽しんで(ポンチョリベンジする!)食事を取る事にした。
自分達のバイト先で何か買っていこうとしたけど、すんごい行列が出来ていたので、流石に遠慮した。
でも何故だろう?
いつもあそこにいて、戦場のような忙しさに身を置いていて、今はその戦場を眺めているということが.......。
「たまらない優越感♪」
「おひいさん。よく分かりませんわ」
輝さんが若干呆れた顔をした。
おっと。
いけない、ゾクッとしてしまったよ?
「まあ、明日はあそこで働いてるんだけどね......」
テンションがアップでダウンだった。
.......言うまいて。
「では、おひいさん。外に出て食事にいたしましょうか?」
「さんせー♪」
花より団子。
魚よりランチ♪
「そのあと図書館ででも涼もーか?」
「いいですわね」
門を潜って、近場のファミレスへと向かう。
ジリジリと肌を焼いてくる太陽から逃れようと。
明日からバイトかー。
社会人ってこんな気持ちなのかなー?
「小さい頃を思えば余裕ですわ」
輝さんの目が虚ろに染まっていた──
し、失礼しました!
続く